そっとモニターのふちをなぞれば、わずかに指が触れた部分がヴン、と反応する。 色の変わる液晶の変化に少しだけ面白みを感じながら、ルルーシュは何度か淵に限りなく近い液晶を指でなでる。 押す。 押し付ける。
「・・・ルルーシュ。モニターが汚れるだろう?」
首の横からそっと伸びてきた手が、ルルーシュの指をゆっくりとはずした。 そのまま絡めるように指をとられる。 ほんの少しだけ力の入った手にこちらもぎゅ、とこちらも力を入れると、 ルルーシュは顔を上げて頭上にいるであろう人物を見上げた。
「星刻」
「ほら、指紋がついてる」
言われるがままに視線を下げて、さらに角度を変えてみれば、 なるほど確かにモニターには自分の指紋がぐちゃぐちゃに乱れた白いもやが残っていた。 Oh-oh,と思ってもいない悪びれを口に乗せ、唇を尖らす。 ちょこんとゼロのマントの端をつまんできゅきゅ、と何度かふけば望んだとおりキレイなしみ一つない画面が目に入った。 ふふん、と誇らしげに星刻を見上げる。 呆れた顔をしながらもそこに本物の呆れガ含まれていないのは、彼が自分を愛してくれているからなのだろう。 ん、と微笑みながら目を閉じれば、星刻が後ろから首に手を回してくる。 顔に降りかかり、次いで滑り落ちた長い髪の後に、唇が合わさった。 数秒口付けを交わした後にゆっくりと瞳を開き、目の前で微笑んでいる星刻を見つめる。 優しさと愛しさを滲ませたその瞳に見つめられるのがどうにも恥ずかしい気がして、すぐにルルーシュは視線をそらした。 またモニターに指紋を残す。
「カバーを、かけるか」
「そうだな、でないと君が指紋だらけにしてしまう」
くすりと笑った星刻の頬を少しだけつねり、形ばかりの不満を表した。 椅子を回転して腰を上げれば、待っていましたとばかりに星刻が椅子に腰掛ける。 なれた手つきで目の前のモニターとキーボードを操作する星刻を、椅子の背もたれに寄りかかりながら見る。 次々と移り変わる色は敵の情報と味方の情報を瞬くままに分類していって、 ルルーシュは気づかれないようにそっと星刻の頭に口付けを落とした。
「やっぱり、お前を総司令にして正解だった、星刻」
「それはどうも、」
照れているのかそっけなく、しかし喜色を含んだ声音で御礼を言いながらも、 星刻の視線と手は目の前のモニターから離れない。 やっぱり正解だった、とルルーシュは少し前の自分の決断を褒め称えながら、するりと身を離した。



愛とか幸せってやつ



「ゼーロー」
ブリッジの中央に位置する長いソファにラクシャータが寝そべりながらナイトメアの計算書に目を通していた。 今行く、と声をかけて返事をすれば、だらけきったようにこちらを向いていたラクシャータが身を起こす。 司令官席のデスクの端においてあった仮面を小脇に抱え、ルルーシュはカツンカツンと音を鳴らしながら階段を下りた。 腰ほどまでにある長い髪を頭上高くにまとめ上げ、ゴムで縛る。 ラクシャータが身を起こしたことによってできたソファのスペースにちょこんと腰を下ろして、 ルルーシュはラクシャータと肩を並べるようにして計算書を覗きこんだ。
「何か問題が?」
「んーん、報告だけしておこうと思ってぇ」
ルルーシュに一枚の書類を渡し、ざんばらに散らばっていた書類の山から目当てのものだけを次々とピックアップしていく。 最後の一枚を拾いきった十枚ほどの書類をルルーシュに渡し、ラクシャータは再びルルーシュの隣に座った。 ルルーシュが目を通す書類ひとつひとつにキセルで指をさしながら説明を開始する。
「これ、ディートハルトがアヴァロンからハッキングして出した情報ねぇ。 あんたの作ったソフト使ったって言ってたから、逆にハッキングされるなんてことはないわよぉ。 んで、これがその中にあったちょーお適当な白兜の設計図と計算書。 この書類と今の機体の性能が明らかに違うから、多分これ古いやつだと思うわ。 そんで、ロロのヴィンセントってランスロットの量産機じゃない? いろいろと比較してみて、あ、こっちの書類ね、算出してみた白兜の計算書がこっち」
早口で次々と並べられていく口上と渡されるさまざまな書類を見比べていく。 一気に入ってくる多量の情報をすべて頭の中で整理しながら、ルルーシュが書類に気になる点を走り書きしていく。
「で、プリン伯爵とセシルが勝手に改良してくれやがった紅蓮聖天八極式があるでしょーぉ? あれとこの計算書と設計図比べてみて、さらに改良加えたのがこっちの書類。 この前の東京決戦でカレンが白兜を大破したでしょ? そのときはただのフロートシステムだったから、多分次の戦いでエナジーウィング付きの白兜出してくるんじゃないかしら。 そんでそれの予測した計算書がこっち」
「この計算書だと、紅蓮とどちらが強い?」
「実物見たことないしぃ、パイロットにもよるけど、カレンの方が機体の性能は上だと思うわぁ。 ある意味騎士団とブリタニアの合作ナイトメアだしねえ」
「そうか」
ラクシャータとした今までの会話をすべて記憶し、書類をまとめてラクシャータに渡す。 一言二言交わしてラクシャータの元を離れ、ブリッジの右端にいる南と杉山の下へ歩み寄った。

「あ、ゼロ」
気配に気づいた杉山が振り返り、声をかける。 それに反応した南が笑みを浮かべて、同じようにゼロ、と名前を呼んだ。
「南、杉山。編成状態は?」
「この間の戦闘で結構やられたから、結構大幅に編成しなおさなきゃならないな。 個々のレベルのバランスをとって編成したいんだけど・・・」
「でも今の隊で慣れてる団員にとっては、士気にもかかわるかもしれないだろう? ただでさえこの間の決戦でみんなショック受けてるのに」
モニターに隊ごとでブロックが表示され、 編成しなければならないとりあえずの無所属となった団員のリストが下にずらりと並ぶ。 それをスクロールしながら説明していく二人の言葉にうなずき、口を開いた。 手袋に包まれた手がゆっくりとモニターを指さす。
「士気は確かに大事だが、大幅に団員を失ってしまったこちらとしては早めに隊を編成したい。 痛手を負ったのはブリタニアも同じだが、のんびりしているわけにもいかないしな。 レベルバランスで編成して、隊員のコミュニケーションや連携は各隊隊長に任せよう」
「「了解」」
潔く返事をした二人に頼む、と声をかけ、二人の席を後にする。 ついで向かった先は、ブリッジの最前の参列に並んで座っているオペレーターたちの下だ。

おしゃべりをしながらもきちんと仕事に取り組んでいたオペレーターである少女三人の下へいくと、 オペレーターの一人である、メガネをかけ、茶色の髪をポニーテールにした日向がルルーシュに気づいた。
「あ、ボス!」
「ボス?」
思わず挨拶も忘れて返事をした。 それにあわてて自分の失言に気づいた日向があわてて言い直す。
「あ、違った!ゼロ!」
「何か変わったことは?」
「特にありません」
「現在ブリタニア軍がナイトメアで徘徊していますが、攻撃してくる気配はありません」
この中で唯一落ち着いている、セミロングのアッシュブラウンを背に流した水無瀬が返事をする。 その横でウェーブの髪を揺らした双葉が目の前のモニターを確認しながら情報を口にする。 三人のモニターに移っている各々の情報を照らし合わせながら、ルルーシュはふむ、と手を口元に持っていった。
「そうだな、そのまま続けていてくれ。定時になったら交代を向かわせる。それまで頑張ってくれ」
「「「はーい」」」

仮面をかぶり、ブリッジを後にする。 すれ違いざまに団員たちに声をかけられたり頭を下げられる中、手を上げて進んだ。 向かう先はディートハルト、藤堂、扇が三人で話し合っているであろう第三会議室だ。 懐からカードキーを取り出し、扉の横の差込口にスライドする。 グリーンライトが点滅した後にショートパスワードを打ち込み、ドアが開くのを待った。 ドアの開くシュン、という音に顔を上げた藤堂が顔を和らげる。 その隣でディートハルトが興奮気味にゼロ、と呼んだ隣で、扇が手を振ってきた。
「三人とも、進んでいるか?」
「ああ、この間の戦闘データを照らし合わせながら、次の戦闘の案を練っている」
見てくれ、と差し出された書類を、ディートハルトが引いたいすに腰掛けながら受け取る。 おもむろに仮面に手をかけ、テーブルに置いた。 速読のスピードで書類を読み進めていったルルーシュが、ところどころ気になる点に走り書きをしていく。 読んだ書類から順にテーブルにおいていく書類を、三人が覗き込んでいきながら、なるほどと改良点を話し合っていった。

その後、カレンに会い、玉城に纏わりつかれ、咲世子と話し、 たった二人だけとなった四聖剣の朝比奈と千葉と話しかけられ、神楽耶とお茶の約束をし、 香凛と言葉を交わし、C.C.とくつろいだ。 他愛のない雑談を交わし、気づけば夕食の時間だ。 朝言葉を交わした星刻とはそういえば朝以来あっていなくて、 ルルーシュは仮面をはずしたままC.C.とつれたって星刻がいるであろう食堂へ向かった。 まったく、黒の騎士団CEOであるゼロが男を恋焦がれるだなんて、と思いながら、その表情はやわらかい。 雑談が多くなる食堂の音がほかの団員たちの邪魔にならないように、 防音設備を完備している食堂へのドアを開けると、 先ほどまではささやき程度にしか聞こえなかった声が音の洪水となってあふれでてきた。 それを慣れたように無視して足を進めると、こそこそとゼロだ、ゼロがきた、と団員たちがささやきあっているのが聞こえる。 食堂の主任である人間がルルーシュの存在を視認した瞬間に、ルルーシュのための食事を用意し、 トレイを持って近づいてくる。 直接テーブルに運ばせるようなことはせず、丁寧な笑みでありがとう、と言いながらトレイを受け取ると、 うれしそうに主任は調理場へと戻っていった。 きょろきょろとあたりを見渡し、星刻が香凛となにやら話しているのを見つける。 こちらに気づいた星刻が軽く手を上げるのを首をかしげながらトレイをちょっと掲げることで返し、近づいていく。
「隣、いいか?」
「もちろん」
星刻と先に食事をしていた香凛にも会釈をし、星刻の隣に腰掛ける。 C.C.は香凛の隣、ルルーシュの目の前に座った。
「・・・相変わらず、少ないな」
ちらりとルルーシュのトレイの中身を見た星刻がため息をつく。 ホワイトシチューをこくりと飲み込んだルルーシュがうげ、と嫌そうな顔をした。
「またその話か?いいじゃないかべつに」
「少なすぎる。君はもうちょっと・・・」
「もうちょっと?」
「・・・太ったほうがいい」
星刻が告げた言葉にテーブルの下の足を思いっきり踏む。
「っ・・」
「太るだなんて、女に言う言葉じゃないな」
「いや、しかし君のそれは細すぎだろう」
「うるさい。お前なんか24のクセしてトマト残してるくせに」
せめてもの意趣返しをしてみれば、案の定星刻が顔をしかめた。 彼のトレイの上に載っているサラダボウルには、トマトだけがちょこんと二個鎮座していた。 星刻が負けじとばかりに言い返す。
「・・・好き嫌いなら、君の方がおおいだろう。しかも、半分は食わず嫌いだ」
「うるさい。私は工夫して何とか食べられるように料理に入れられるから別にいいんだ。 お前なんか目玉焼きも作れないクセに」
「私だって目玉焼きくらい作れる。・・・多分。」
「ほほう?卵の液体がなんであんなにふわふわな玉子焼きなるのかもわからなかった人間が?」
「・・・君は運動ができないな?」
「話を摩り替えるな!」
ぼそりとそっぽを向いて言われた星刻の微妙な反論にぺしりと頭をはたく。 頭を抑えた星刻の服のすそをひっぱることで注意を向けさせた。 あー、と口を開く。
「ルルーシュ?」
「ほら、食べてやるから。トマト」
その代わりこのセロリを食べろと言えば、星刻が小さく笑いを漏らした。 箸でサラダボウルに残っていたトマトをつまみ、ルルーシュの口にほうりこむ。
「ありがとう」
口を閉じたルルーシュの唇に軽く口付けを落として、星刻がお礼を言った。 その行動にトマトのように顔を赤くしたルルーシュが、照れ隠しとばかりにセロリをスプーンですくって星刻の口元に運ぶ。 星刻が口にスプーンを含んだのを確認してから引き抜いた。
「・・・ありがとう」
ぼそりと、真っ赤な顔を隠すように告げたルルーシュが、星刻の肩にことりと頭をもたれさせる。 髪から除く耳が真っ赤なのを見て、星刻は再び笑みを浮かべた。 髪を救うようにして顔を上げさせる。 見上げてきたルルーシュの唇にキスを落として、星刻はまた笑った。
「どういたしまして」




「・・・よっしゃ!俺が買った!!」
「まけたぁあああああ!!」
玉城をはじめとする男たちがうひょーい!と万歳をした。 それに反して玉城の反対側に座っていた男たちはみな一様にぐわああああと頭を抱えている。
「第二十三回食堂VER、ゼロと星刻、主導権を握るのはどっちだバトル勝者は星刻に賭けた組ー!」
「一人百円、どうもでーっす!」
お二人さん、皆さん見ていらっしゃいます。



今回リクエストしてくださったMimi様!大変お待たせしました! 『さよならバイバイ』続編もしくは星ルル♀と騎士団の絡みとのことでしたが、後者を選ばせていただきました。 全力でゼロバレですが、リクエストに添えているといいなぁと思います。 書きなおし受け付けますので、どうぞご遠慮なくおっしゃってください。 著作権は放棄しておりません。ご了承ください。リクエストありがとうございました!

2008年10月20日