「納得いきません!!」
ダンッと勢い良くグローブに包まれた手を叩き付けたスザクを、いったい誰が止めることができただろうか。 昨日のキューピッドの日を以ってアッシュフォード学園高等部を卒業したミレイは、 私服で生徒会会長席に座ってほう?と笑った。 カットしたばかりの新鮮な髪型に、 めったに見ることの無かった私服姿で優雅にある意味いやらしく組まれた足を 見たリヴァルはスザクに恐怖一方喜びいっぱいだ。 ミレイの隣で静かに紅茶を飲んでいた美貌の副会長ルルーシュ・ランペルージは、 腰ほどまで届く長い髪をうっとおしげに手で払った。 その髪に顔をたたかれて痛そうながらも、 にやにやデレデレとした笑みを隠さずに後ろから首に手を回しているジノは何の言葉も発しなかったが、 スザクははっきりとその副音声を聞き取った。
(ざまーみろ!!)
その副音声が聞こえないのか、はたまたただ犬の世話をしてやっているような心境なのか、 後ろ手でポンポンとジノのクセのある硬い髪を叩いたルルーシュはまったく意に介さず黙々と紅茶を飲み続けている。 それをちらりと見ながら―――心の中ではルルはかわいいなぁ眼福だなぁ、 ジノうざったい殺してやると―――若干頬を染めたスザクは、今度は握りこぶしで机をたたいた。

「僕だってルルと恋人になりたい!!」

一瞬の沈黙の後に訪れた爆笑によって、アッシュフォード学園生徒会室はカオスな空気に包まれた。 ある、ルル争奪戦という名のラウンズ367による険悪なムードを除くならば。



一昨日きやがれ恋敵!1



ジノ・ヴァインベルグ。
名門貴族ヴァインベルグ家の四男坊で、現在はアッシュフォード学園高等部二年にかよう金髪蒼目長身の美丈夫だ。 職業は軍人しかも皇帝直属騎士ナイトオブラウンズの一角ナイトオブスリー、 それもコネではなく完全に実力でその地位を勝ち取った傑物である。 そんな彼は今一世一代の幸せをかみ締めている。 なんたって、なんたって今彼はアッシュフォード学園一(学園一なのだ。決して高等部一ではない) の美人であるルルーシュ・ランペルージ副会長と清く正しいお付き合いをしているのだから。 成績は常に学年一、体力はまったくと言っていいほど無いが運動神経は悪くは無い、 家事をやらせればベテラン家政婦が泣いて裸足で逃げ出すほど、 その美貌はそんじょそこらのアイドルなど天と地の差をつけられるほど。 スレンダーながらそのスラリとした足はいい程度に肉付きがあり、腰は片手で一回りできそうなほど細く、 それに反して胸はとても形が良く、割と大きい。 性格は女王様的、振った男は数知れず。 女子には優しく、男には厳しく、しかし一回懐に入れた人間にはとことん甘い人間である。 いつも皮肉的な笑みを浮かべておきながら、想定外のことがおこったときの叫び声がかわいく「ほわぁ!?」なのだから、 一度ギャップを見てしまった男なんてものはもう本気で昇天するしかない。 顔も性格もプロポーションも、見事ジノのストライクゾーンど真ん中だったルルーシュは、 キューピッドの日でジノの最優先標的となったのである。

もちろん他の男たちもルルーシュ狙いだったわけだが、一般的な男子学生が、 たとえ柔道部だろうと運動部であろうとましてや文系であるならば軍人でしかも騎士であるジノ勝てるわけがない。 自身も数多くの女性に追いかけられながらも、笑顔でステップを踏みながら軽くあしらって見せたジノは、 見事全校生徒の前でルルーシュを追い詰め、帽子を交換して晴れて恋人同士になったのである。 そこにルルーシュの意思は存在しているのかだとか、そういう考えはいけない。 帽子を交換したら強制的にカップル同士がこのキューピッドの日の絶対ルールなのだから。 同性同士は駄目なのにわざわざモルドレッドまで出してきたアーニャは、その日からすこぶるご機嫌斜めである。 女同士でもみんなの前で交換すればうそだとは思われないし、 恋人同士でなくてもせめて仲の良い先輩後輩や姉妹として認めてもらいたいという考えだったのだ。 何度もペアを組み、それなりに仲も良かったはずのジノに、 最近は足を踏んだり後ろから小癪にも地味に膝カックンをしたりなどとして怒りを発散させていた。


その日なんとか総督補佐の仕事を切り上げ、ギルフォードの提案でアッシュフォード学園へ向かったスザクは、 ランスロットのコックピットからミレイへの卒業祝いを述べた後、 ちらりとルルーシュのいる方向へ目をやって―――固まった。 ルルーシュが青色の帽子をかぶっていたからだ。 かぶっていただけならまだいい。 しかし、その青い帽子というのは本日の卒業イベント「キューピッドの日」における男性用の帽子ということで、 つまりルルーシュはピンクの帽子を被ってしかるべきであって、青色の帽子を被っているということは。 ―――それすなわち、ルルーシュが誰かと恋人同士になった、ということである。 一瞬で目に殺気を宿らせたスザクは、何食わぬ顔をして周りを見渡し―――周りなど見渡さずとも、 横を見ればすむ話だったが―――ルルーシュの隣で視線を止めた。 そしてその一点にあらん限りの殺気を放つ。 ピンポイントのレーザービームのようだ(なぜなら隣にいるルルーシュに殺気など悟らせてはいけないのだから!)。 そしてその殺気を真っ向から受け止め、さらにはニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべたのは、 疲弊しきった顔でうなだれるルルーシュの手をしっかりと恋人のように指を絡めて握っている、 ジノ・ヴァインベルグその人であった。
(ジノ・・・・!!!)

そして冒頭に至る。

「あっはっはっはっは、ははははははは、うっ、ふ、ふふふふっひぃ、 ひっひひひひゃははははははごふっ、ふ、はは!!!」
「会長笑いすぎです・・・」
私服姿の清楚なイメージはどこへいったのか。 大口開けて腹を抱えながら机をバンバンと叩き、 狂ったように笑うミレイをちらりと見やると、ルルーシュはため息をついた。 あ、この紅茶おいしい。 ジャクソンだ。 自分はいたって普通だと思っているルルーシュは、 しかし隣で豪快に笑っている人間を気にすることなく紅茶を飲む その神経の図太さにちょっとひかれていることに気づいていない。
「いいっ、いいわっスザク君!!あはっ、あははははは!! 『僕だってルルと恋人になりたい!』ふふふ、ルルちゃんもってもてー♪」
「笑い事じゃないですよ会長、鬱陶しいです」
「あははは、どうしよう考えてなかった!!!二股はどうしようーーー!あははははは」
「この場合二股かけるのは男じゃなくて私のほうになるっていうこの不名誉極まりない事実はスルーですか会長?」
スザクの願いを会長権利でもって ―――もう卒業したんだから会長権利なんてないんじゃないかとかいうツッコミはしていない。 イッツ・ア・ミレイズ・ワールドなのだから―――叶えてしまいそうなミレイに鋭いツッコミを入れる。 かけるつもりもましてや付き合うつもりもないのに自分が二股かけてるほうになるなんて、冗談じゃない。

「スザク、いい加減あきらめたらどうなんだ?ほらこのとおり、このピンクの帽子はルルーシュ先輩のもの。 先輩が被っているのは間違いもなく私のもの。 それとも、スザクは総督補佐のクセにルールも理解できないほどかわいそうな頭なのか?」
「ジノのほうこそ、自分がいかにルルーシュとつりあっていないかわかってる? 君ルルーシュの視線ひとつで彼女が何を望んでるのかわからないでしょ?僕わかるよ?幼馴染だし。 ルルーシュのことならなんでもわかるんだからっつうことでさっさと恋人の座を譲れよデカブツ」
「二人ともうるさい・・・ルルーシュ、私のもの。 大体、男なんて危険・・・かわいい妹のほうがもっと良いに決まってる」
バチバチと三つの視線から発する電圧は三者三様緑、青、ピンクと違う色をしていて、 三人の間を飛び交う火花はまるで花火のような三つ巴だ。 意味のわからない言葉の攻防戦をしながら足元では三人で三人の足を踏みあっているという、 ある意味シュールな光景である。 ちなみに余談だが、三人は今、生徒会室に常備されているフカフカのローラー付きチェア に座りながら膝がくっつきあいそうなほど向かい合っている。 ミレイは相も変わらず笑っているが、どうにか落ち着いてきたのか、シャーリーに背中をさすってもらっている。 その横でルルーシュはやっと肩の荷が下りたとばかりに先ほどまでしつこくジノが 手を回していた首周りをコキコキとまわし、隣のリヴァルと次の賭けチェスの予定なんかを話あっている。 そろそろダルイ、と思ったルルーシュは、ワンプッシュでC.C.に電話をかける。 ワンコールした後に電源ボタンを押して通話を終了させれば、それすなわち作戦開始の合図だ。 もともと今日決行するはずだった作戦のために蜃気楼のあるドッグへ行くはずが、 思わぬ祭りの後の騒ぎで足止めを食らってしまった。 黒の騎士団の出動で必然的にラウンズの三人組と離れられるという希望を抱いたルルーシュは、 だがしかし、自分がゼロであるためまた三人と相まみえるという事実に気がついていない。

「枢木卿、ヴァインベルグ卿、アールストレイム卿!黒の騎士団です、出動お願いいたします!」
生徒会室に駆け込んできた軍人の一人の報告によって、足の踏みあい貶しあいをしていた三人がピタっと止まった。 良いところなのに邪魔すんじゃねえよとばかりに軍人を睨みつけた三人によって身を震え上がらせてしまった軍人は、 し、失礼いたしましたぁっ!!と叫びながら足早に部屋を後にする。 スクッと立ち上がって手早く荷物をつかみ、そろって生徒会室のドアの外で顔をくっつけあった三人は、 ミレイ、ルルーシュ、リヴァル、シャーリーがジッと事の成り行きを見ているのに気づかないまま、 おどろおどろしい声音で呻いた。

「―――決着は、戦場で」
ギッタギタにしてやんよ!!



私妹。僕なんて幼馴染。なんのなんの、私なんか恋人だ。・・・死にさらせ金髪!

2008年8月30日