「そんなっ・・・なんて・・・!」
「神楽耶・・・」
隣にいる天子がそっと震えている神楽耶の背に手を添える。 撫でるようにさするそれはひどく優しげで、逆に神楽耶は余計に身体の震えを催している気がした。 星刻は隣でグラグラと気持ちが揺れているのを自覚しながらも、必死にこらえている。 だめだ。 そんな、彼女に嫌われてしまったらどうしよう。 いやはやけれども自分にとってのすべては天子様でってでも天子様も彼女のことは慕っているしでもでもでもでも・・・。

「神楽耶様・・・」
神楽耶の斜め後ろに立っていた扇がちらりと神楽耶を見やる。 震えているその身体はきっと涙によるものなのだろう、そう心配して。 もちろん彼から神楽耶の表情は見えなかったための心砕きだ。 しかし、そんな彼の心配は無駄に終わった。 涙にぬれた神楽耶の顔が満面の笑みと悔しさに満ちていたからである。

「そんな、ゼロ様がっ・・・ゼロ様がそんな面白いことになってたなんてーーーーっ!!」
どうしてわたくしを呼んで下さらなかったのバカスザクーーーっ!!

そっちかよ!!! とツッこんだ騎士団を誰が責めることができようか。


一昨日きやがれ恋敵!2



「うぉおおおおりゃぁあああっ!!!」
「はぁあああああああああ!!!」
「・・・ださ・・・・黒の騎士団は、殲滅。」
まるで競い合うようにくるくると旋回し、敵をなぎ払っていくジノ搭乗のトリスタンと、 ビュンビュンと飛びまくって敵をバンバン海に打ち 落としていく、スザク搭乗ランスロットコンクエスター。 意味のわからない雄たけびを上げながら攻撃を繰り広げていくジノとスザクを見て、 コレに一旦している自分もそのノリに乗るべきなのだろうが、 しかしアーニャ自身はうおりゃあだのはああだのとりゃああだの、 年頃の女の子たるものそんなダッサイ雄たけびは上げたくない。
アーニャ、ノリ悪っ!!
と二人が通信で叫んでくるのが聞こえたが、そんなのはお構いなしだ。 ダサいものはダサい、嫌なものは嫌、それだけだ。 一言ださ・・・と言葉を吐くと、引き続き黒の騎士団の殲滅にかかる。 今日の自分は不機嫌MAXだからこそ絶好調で、ハドロン砲の使用率がものすごく高い。 焦点を合わせながら発射して、機体を回転させて360°にいる敵をなぎ払っていく。 ゼロが乗っているであろう斑鳩には絶対に被害が及ばないようにして、再び上空にいるジノとスザクを視界に入れる。 ジノも、スザクもこどもっぽい。 小さく呟いたはずのそれは見事に二人に拾われてしまって、しまった、 厄介だと思う前に二人からのブーイングが通信越しに聞こえてきた。
「なんだよアーニャ、子どもっぽいって、私はアーニャよりも年上だぞ!」
「僕なんてこの中で一番年長なんだけどね・・・! 素直にならずに不貞腐れてるアーニャのほうがよっぽど子どもっぽいんじゃないの?」
「そーそー。なんか地味に先輩のいない方向には攻撃してないけど、もっと派手にやれば良いのにさー。素直じゃないの」

ぶちっ。

・・・と、アーニャの中の何かが切れた。 回転させていた機体をその勢いを止めることなく上空に向けると、 アーニャは何のためらいもなく最大出力でハドロン砲を二人に向けた。 間一髪でよけたジノとスザクはそれにカチンと来たのか、 それとも相手の機体を蹴っ飛ばしあう事でよけた事に腹を立てたのか、おこったように機体の操縦法を変えた。 通信の向こうでどっかのマッドがスザクのシンクロ率に踊り狂っている効果音が聞こえているが、後回しだ。
『枢木卿ぉ〜シンクロ率あげるんだったらぁ、黒の騎士団相手にしてよねぇ〜〜〜期待してるからあ!』
「なに言ってんですかロイドさん!斑鳩に攻撃したら、ルルーシュに嫌われるっ!!」
「スザクは嫌われてもいいじゃん?私は恋人だからな!」
叫びあいながらもお互いは攻撃せず、ひたすら黒の騎士団ばかりを攻撃しはじめた。



「・・・ゼロ、どうするんだ?」
そういってゼロを振り返った藤堂は、明らかに困惑よりも申し訳なさがありありと顔にでていた。 今敵対している相手であるスザクは、八年前藤堂が指南した弟子であり、 日本最後の首相の嫡男でありながらブリタニア皇帝に膝を付いた敵であり、 そして―――敵であるはずのゼロにラブアタックをしている人間であるからである。 現に、ルルーシュは自分がゼロであると騎士団の幹部に明かしたとき、 次の瞬間には藤堂が深々と三つ指をついて土下座をしてきた。 ルルーシュをはじめとするその場の全員が驚きに満ちていたが、次の瞬間ああ、なるほどと納得をした。
『俺の失態だ。不肖の弟子がすまんッッ!!!!』
その潔さに逆に自分が居た堪れなくなったルルーシュが、 いやいやアレは藤堂さんの所為じゃないじゃないです顔を上げてくださいいい!と涙目上目遣いでなって、 藤堂をはじめとする幹部の人間のハートに火をつけた(古)のは余談だ。
「・・・そうだな・・・・」
遠く明後日の方を見やっているルルーシュは、幹部たちの前では仮面をはずしている。 今はスザクもジノの前にも現れたくはないし、ってか今日作戦入れたの私が二人と鉢合わせないためだったんだけど だってまさかこれしきの規模でラウンズが二人も出てくるだなんてまるで思わないしああでも このままではこちらの被害のほうが大きいなどうしようでも出たくないし出たが最後あああああ・・・・・・・・・・・・。
「・・・・私が、蜃気楼で出る」
ざっと上記のことをゼロコンマ一秒で考えたルルーシュは、どっぷりとため息を吐いた後に妥協案を口にした。

だめだそんなの、ゼロの貞操が危ない!どうにかして守り抜くからお願いだからそういうことは やめてくれぇええええとかいう黒の騎士団の涙ながらのお願いを、 胸がチクチクと痛むのを無視して払いのけたルルーシュは、ゼロ専用ドッグに足を踏み入れ、再びふかーくため息をついた。 でん、と光り輝く黒と金の自分の蜃気楼を見上げたルルーシュは、無機物であるはずのそれになんだか助けを求めてしまった。 曰く、『なんだかお前だけは私を守ってくれそうな気がするよ、蜃気楼・・・』だ。 しかしずっとそうしていても始まらない。 戦いが長引けば長引くほど、被害は両者に出ているのだ。 カンカンと音を立てながら階段を上り、蜃気楼のハッチを開いて滑り込んだルルーシュは、 パネルを出して蜃気楼を起動させた。 リモコンで暗証番号を入力してドッグを開くと、フロートシステムを使って勢いよく飛び出した。

相変わらず両者で苦戦を強いられているブリタニアと黒の騎士団は、 後ろから聞こえてきた風を切る音にバッと振り向き、そしてとたんに喜色を浮かべた。 特にラウンズ三人組の驚きと喜びは大きい。
「っる・・ゼロ!!!」
「うぉっゼロ!?よぅしゼロ、 あ い し て る 、 ぞ ー ー ー ! ! !」
「えぇ!?ずるいジノ!僕 だ っ て あ い し て る の に ぃ ー ー ー ー ! !」
「わ、私、だって、ゼロのこと、・・・これくらい、すき!」
空へ向かって最大出力のハドロン砲を打ち上げながら、アーニャがちょっとあせったように宣言する。 ジノやスザクのように大声で愛してるなんぞ叫べるものならそうしてるが、アーニャにそんな芸当は出来ない。 武器を多数常備してる大型重量KMFならではの『好き』の表現に、今度は二人があせったような声を出す。
「あ、アーニャばっかりずるい!僕だってゼロのことはカレンの輻射波動の百億倍くらい好きだよ!!」
「なんの!!俺はえーと、えっとスザクのハドロンブラスターの千億倍くらいゼロが好きだ!!」
『あたしはあんたたちと違って宇宙一ゼロが好きよーーーっ!!!!』
『つーかなんで敵がゼロのこと狙ってんだよっ!!ゼロはなぁ、ゼロはなぁ・・!』
スザクとジノの通信に割り込むようにこちらもオープンチャンネルで叫んだカレンに便乗するように、 玉城も泣きそうになりながら叫ぶ。 そのもっともな一理ある言葉に玉城を良く知る団員たちは目を見張ったが、今はそんなことは重要じゃない。 重要なのはゼロだ。 ナイトメアに乗っている団員たちは一斉に通信をオープンチャンネルに切り替えた。 斑鳩に乗っている団員たちはいっせいにわらわらと甲板に出てきており、皆一様に深呼吸をしはじめている。
ゼロは・・・ゼロは・・・!
『俺たち黒の騎士団にとってっ・・・ゼロはっ・・・・せぇーーーのっ!!!』


『『『『『『アイドルだっ!!!!!!』』』』』』



ぽく  ぽく  ぽく


ちーーーーーーん



一瞬にして固まってしまったのはブリタニア側だ。 今の今までずっと愛の告白をされたまま放って置かれていたゼロは、もはや涙目。 黒の騎士団の告白にやけくそでありがとう!!なんて叫んでしまっているあたり、限界だろう。 しかし彼女のそんな涙声が聞こえているのかいないのか、戦いをきっぱりとやめてしまった両者は、 ラウンズ3人対黒の騎士団で口論になっている。
「なっ・・ゼロだって僕らのアイドルだ!騎士団なんかには渡さない!!」
『ハッ、不肖の弟子の分際でよくもそんなことがいえたものだなスザク君!我らはゼロに直々に選ばれた人間だ!! 貴様らラウンズたちのようなストーカーとはわけが違うわっ!!』
「くっ・・・バカにして!!」
『っていうか君らそんなにゼロに大切にされてないんじゃない? 僕らはねぇ、作戦が終わるたんびにあのゼロに、あのゼロに、 『ご苦労だったな、ゆっくり休んでくれ』なんてものすんっっっっごいかんわぃい笑顔でいってもらってるんだからねっ!!』
「わ、私なんて頭撫でてもらったし、髪も結ってもらったし・・・ひ、膝抱っこだってやってもらったこと、ある!!」
『な、なにぃーー!?ひ、膝抱っこだと!?くっ、レベルの高い・・・!!!』
「ふふん、私は頬にキスしてもらったことだってあるんだぞ!!」
『フン、頬にキス?甘いわ、こちとら口の端にキスしてもらった事がある!!』
「なんだって・・・!?」
『口の端についてたご飯粒を食べられただけだから間接だけどな!!』
「僕なんて!小さいころゼロに『お前のお嫁さんになってあげても良い』って言われたことがあるんだから!」
「はっ!?なんだよスザクそれずるい!」
『話を湾曲させるなこの馬鹿弟子!!その前に『藤堂さんに奥さんがいたら』がくるだろうがっ!! ちなみに俺は独身だ、ゼロ!』
『ああっ藤堂さんだけずるいです!ゼロ、僕、今は綺麗な身だからね!』
『馬鹿朝比奈、男になんか任せられるか!!ゼロは私たち女と一緒にお茶と着せ替えに勤しむんだ!!』
「な、なんだと!!!!じゃあ、こっちはゼロの写真を持っている!ちなみに女子制服姿だ!!」
『じょ、女子制服・・・!そんな、ゼロ!』
『うろたえちゃ駄目よ扇さん!同じ制服なら私だって持ってるわ!ゼロにきてもらって写真を撮ればこちらのものだ!』
『そうだ!私たちのところにはサラシも肩パッドもつけていない状態で ゼロの衣装を身に着けているゼロの写真をもっているっ!身体のラインが丸見えな悩殺ショットだ、どうだ羨ましかろう!!!』
「くっ・・・すごい、そんないやらしいものをもってるなんて・・・・焼き増ししてくださいっ!!!」
『『『『『全力で却下するっっっ!!!』』』』』
「あれ?ていうか何でこんな話になったんだっけ?」
「知るか!それよりスザク、絶対に勝つぞ!」
「ちんたらしてたらころす、スザク・・・」
「えええごめん!でも確かに、る・・ゼロを渡すわけにはいかない!!」
『やってみやがれ、ゼロは俺たちのものだっ!!』
「ふん、コレを聞いてもそういえるかなっ!!」

「ゼロは私と二日前から交際中だっっっっ!!!!」


はい、再び


ぽく  ぽく  ぽく


ちーーーーーーん



騎士団員たちすべてがあんぐりと口をあけたまま呆けている。 ちなみにコレは藤堂も例外ではない。
「ええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

ど、どういう事、ゼロ・・・!? 団員たちがいっせいに蜃気楼のほうを見る。 ほえ!?なんて可愛らしい奇声をあげながらびくりと身体を震わせたルルーシュは、もうなにがなんだかわからない状態だ。
「フフン、聞いて驚け愚民共!我らが通うアッシュフォード学園において、先日イベントがなされた!」
かくかくじかじか、騎士団員たちもフンフンとこの時ばかりは素直にうなずきながら聞いていた。 だがそれもはじめのうち、話が後半に進むにつれ全員の顔が険しくなり始め、最後のほうではもう殺気だっている。

そ・こ・で、冒頭の冒頭の神楽耶の発言が、入るのだ。






「・・・あれ?なんか・・・え?も、・・・わけがわからない・・・」
ルルーシュは蜃気楼のコックピットの中でうな垂れた。 もう嫌だ、わけがわからない・・・。 神楽耶が発言してから、もう口論しながらKMFの戦いになってしまった。 KMF同士で組み合いながらゼロがいかに素晴らしいかを言い合うその姿は、 もうブリタニア軍と反ブリタニア勢力とは思えない。 もうどうにでもして、と涙を浮かべたゼロことルルーシュだったが、ピピっと音を立てて入った通信に顔を上げた。 星刻だ。
『ゼロ・・・大丈夫か?』
心配そうに見てくる通信越しの顔に、ルルーシュは不意に泣きたくなった。 ああ、優しい・・・お前は優しい男だ、星刻・・・!天子がなつくのもわかるぞ・・!
「し、星刻・・・お前・・・」
私の良心はお前だけだ、愛してるぞ!と良いそうになった・・・・が。
『その・・・すまない。天子様が乗り気で・・・・私の元に嫁いではくれないだろうか?』
ピシ、と石なった後に亀裂が走るのを確かに聞いた。

ぶ・・・ブルータス、お前もか!!



あ、あと一話!パパ達だしてジノとスザクに華を持たせなきゃ・・・! 何気に藤ルルっぽいのは仕様です。にしても藤堂さんかいててたのしいな・・・

2008年9月7日