モニター越しにその映像を見たとき、ジノが真っ先に思ったのは『かわいそうに・・・』だった。
モニターに映っているのはイレブンと思わしき大柄な男たち。
ライフル、マシンガン、拳銃、剣、ありとあらゆる武器で武装した男たちは、
皆一様に額に赤いマルの描かれた白いハチマキを巻いていた。
場所は学校の講堂と思われる場所で、舞台に近い場所で生徒や教員たちがおびえたように縮こまっている。
ざっと見ただけでも20人はいるその武装過激派テログループは、
怖がっている人質たちをぐるりと見渡し、そしてニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
『このアッシュフォード学園は、たった今我ら日本解放戦線が占拠した!』
再び『かわいそうに、』と思う。
ただひとつおかしいのが、かわいそうだと思うのが人質へではなく、
カメラにドアップで映っているリーダーとその仲間に対して、だからなのだが。
ルルーシュワールド
ビクビクと身を縮こまらせている人質をぐるりぐるりと見渡し、解放戦線の一員は人質の選出にかかった。
幸いブリタニア人には美人が多い。
見た目も麗しく、いい女で、なおかつ弱そうな女を選んでやろうと、
一味は下卑た目線を送りながら人質の波をじっくりと見て回った。
ぎゅっと目を閉じて堪えていたものの、フッと自分の上に影が差したものだから、気になってニーナは上を見上げた。
しかし目の前に居たのは自分が何よりも嫌悪するその『イレブン』で、
テロリストという肩書きの相乗効果でニーナは大きく悲鳴を上げた。
「ひ・・・っい、イレブン・・・っ!!!」
「っ、何だと!?お前、今なんていった!」
イレブン、という語句に反応した一人が激昂し、ニーナの髪を掴んだ。
パニック状態になったニーナは劈くような悲鳴をあげ、男の声などまるで聞こえていない。
「いやぁっ!!やめて、怖い、怖いっ!!」
「俺達は日本人だ!訂正しろ!!」
「いやあぁあああっ!!」
「ちっ・・・!来い、お前を人質にしてやる!」
「ひっ・・・!!」
髪と一緒に肩を掴まれたニーナが、ずるずると強引に中央へ引っ張られていく。
ニーナ、と泣きそうに彼女の名前を呼んだシャーリーが、どうすればいいのかと周りを見渡す。
だが周りは不安そうな、泣きそうな顔をしていながらも、
自分が人質にならなくて良かったと安堵のため息すらついていた。
そんな薄情な周りの様子にチッ、と小さく発された舌打ちを、
傍に居たミレイとカレンはばっちり聞きつけ、そして振り向いた。
ぎょっとして見れば、そこには忌々しげに顔をゆがめた我らがルルーシュが。
彼の考えていることを瞬時に悟ったミレイとカレンがさーっと青ざめる。
「ルッ・・・ルルちゃん!!」
「だ、だめよルルーシュ、」
「・・・・・ごめん、ミレイ、カレン。でも」
((ああああああああああああっ!!))
「やめろ!!」
(るるちゃんのばかーっ!!!)
シーン、と講堂が静寂に包まれる。
「その子を離せ。俺が代わりに人質になる」
「・・・ぁあ?」
リーダーと思わしき男が、ゆっくりとルルーシュに近づく。
するりと荒れた掌がルルーシュの頬をなで上げ、その心地よさに男が口端を吊り上げた。
「中々の上玉だな・・・・おい、放してやれ!」
「きゃあっ!!」
ドン!と背中を押されたニーナが、勢いよく人質の中に倒れこむ。
シャーリーに受け止められて顔を上げたニーナは、涙に濡れた瞳でルルーシュを見上げた。
「ルルーシュっ・・・」
「大丈夫だ、ニーナ」
(あああああもうっ!ルルーシュのばかばかばかばかっ・・・!!)
心の中でルルーシュを心配のあまり罵倒しながら、カレンはこっそり手元の携帯を操作した。
相手はもちろん愛しのゼロである。
メールでルルーシュが人質になってピンチであるという情報を送信すると、
カレンはポケットに入っているナイフを手で確認して座りなおした。
ああ、早くこれをテロリストの脳天に投げつけたい!!
・・・・・・そのころ、黒の騎士団では。
「アッシュフォード学園を占拠か・・・拙いな」
「ああ・・・ルルーシュの通っている学園だ」
「あ、カレンが映った!」
一年前まで本拠地として使用していたトレーラーに集まった幹部達は、皆大型モニターを真剣に見つめていた。
目の端で捕らえたリーダーのゼロは黙りこくったままモニターを見つめていたが、
無論頭の中はテロリスト達抹殺計画でいっぱいのはずである。
そして、パソコンで情報収集をしていたディートハルトが新しい情報を皆に伝えようとしたときと同時期、
テレビのアナウンサーが声を上げた。
「大変ですゼロ、ルルーシュさまが」
『あ、ただいま新しい情報が入りました。テロリスト集団が人質を盾にした模様。
人質の名はルルーシュ・ランペルージ君、学園の二年生である、生徒会副会長を務める人望ある生徒で・・・』
「・・・・ですので、ここはまず冷静に」
「行くぞやろうどもぉおお!!!」
『ぉおおおおおおおおお!!』
・・・・・・・遅かった。
『人質の名はルルー』の時点でがたりと立ち上がって銃を手にしたゼロとC.C.以外の幹部達は、
モニターに後ろでで縛られて額に銃をこすり付けられているルルーシュの画像がアップされた瞬間、
藤堂の叫びに呼応し、そしてKMFに乗り込んだ。
ゼロは先ほどの状態にプラスして、ぼそぼそと呪詛のような言葉を吐き続けている。
・・・・・そのころ、やっぱり政庁では。
「先輩・・・」
「ルル様・・・・」
精鋭の軍を派遣した。けれど不安のぬぐえない焦燥感に、ジノとアーニャはそろってルルーシュの無事を願った。
隣に居るスザクは無表情にモニターを見つめるばかり。
・・・心配じゃないのだろうか。
生中継となっているその映像は、終始物静かに延々とリーダーが声明を発表しているだけのはずだった。
しかし、数分後、なにやらテロリスト側が騒ぎ始めた。
何事だろうと皆でモニターを覗き込むと・・・
『・・まれ!お前に何がわかる!』
『わかるさ!お前たちのしていることは間違っている!これで何かが変わるとでも?笑わせるな!』
『この・・・っ!』
ドカッ。と男が拳銃でルルーシュを殴った。
・・・・・もう一度言おう。男が拳銃でルルーシュを殴った。
当たり所が可笑しかったのか、顔をあげたルルーシュの顔には額ではなく頬にぱっくりと傷が開いていた。
血が。血が出ている。
その瞬間、ぴぴぴと目にも留まらぬ速さで携帯を操作したスザクは、すぐさま携帯を耳にあてた。
ワンコールで出た相手に話しかける。
「・・・あ、もしもし。ゼロ?」
『ああ、枢木か』
「僕、ヤルよ。いいよね」
『骨のカス一つ残すなよ』
「了解」
それだけ言い終えると、スザクはポケットに携帯をしまって颯爽といってしまった。
我に返ったジノとアーニャが両名ともKMFのドッグへ向かったのはその数秒後のことである。
「あっ・・・・ちょ!・・・・もー」
ランスロットから飛び出るようにして降りたスザクに、とっさにジノは手を伸ばしたがもう遅い。
しゅっぴーん!とどこぞのヒーローのように降り立ったスザクは、肉弾戦じゃー!
とばかりに武装したテロリスト集団に突っ込んでいったのだ。(ちなみに騎士団幹部は既に参戦済みである)
「るるーしゅをきずものにしたなァぁああああああああ!!!!!??」
スザク、それキズモノっていわねぇよ・・とは気楽にぽてちを食べながら人質の中に居たリヴァルのセリフだ。
いそいそとリヴァルの隣に戻ってきたルルーシュにぽてちを分けているあたり、かなり余裕だった。
ちなみにルルーシュは、
スザクの突撃にビックリしたテロリストがルルーシュの拘束を解いた瞬間にミレイに脇で抱えられ、
(抱えられるあたりが最早問題、)ぽいっと人質の波に戻された。まるで犬のようだ。
「おールルーシュ、おかえりー」
「ただいま、リヴァル。コンソメか・・・・のり塩は無いのか?」
「コイケヤでいい?」
「カルビーがいいかな・・・・」
「にっしてもさー、なんかブリタニアと騎士団入り乱れてない?いいの?」
「さあ・・・?」
頭上を弾丸やらナイフやらが飛び交い、他の人質たちは皆悲鳴を上げて縮こまっているというのに、
リヴァルとルルーシュは本気で余裕だ。
指についたのりと塩をぺろりと舐め取ったルルーシュが、
「のど渇いたな、お茶」「はいよ」なんて会話まで交わしているのだから、
きっと目の前のナイトメアなど関係なくなった肉弾白兵戦などどうでもいいに違いない。
スザクがテロリストに突っ込んでいった数秒後、現れた幹部以外の騎士団員達も皆飛び出した。
見境無く敵を殴り倒していく様は見ていていっそのことすがすがしい。
中にミレイが楽しそうに参加していたのは見なかったことにしておく。
数分後に現れたゼロにルルーシュは目を輝かせ、
そしてその目の輝きに当然のことながら気づいたゼロがにこやかに手を振り、
テロリスト達を蹴って殴って抉って折ってくりぬいて刺して
蹴って殴って抉って折ってくりぬいて刺して蹴って殴って抉って折ってくりぬいて刺して・・・・・・・・・・
****【少々お待ちください】****
ぴんぽんぱんぽーん
「・・・・ふぅっ!」
ぐい、と腕で額の汗を気持ちよさそうにぬぐったスザク及び非テロリスト集団側は、ぐるりと周囲を見渡した。
周りにいるのは死んではいない屍累々。一様に床に伸びている男達の下からは、
不思議なことに血溜まりが一つも出来ていない。
スザクに一番近い場所で伸びていた男は少しだけ「ぅ・・・」とうめき、
そしてその瞬間スザクに足蹴にされて気を失った。
念を押しておくか、とスザクが気絶している男を殴っていると、
周りにはスザクと同じように未だにルルーシュの柔肌に傷をつけられた恨みを持つ人間が
沢山テロリストを足蹴にしたりフルボッコにしたりしてストレスを解消していた。
その様子に人質であった生徒達も緊張がとけたのだろう、(なぜだ、)わぁっ!!と歓声を上げて立ち上がった。
今にも自分達の救世主へ走ろうとする最中、
真ん中から一番先に勢いよく飛び出してきたのは言わずもがなるルルーシュである。
「ルルーシュ!」
自分に向かってくるルルーシュを力いっぱい抱きとめるべくスザクが腕を広げ、
ルルーシュがちかづいた瞬間に腕を交差させようとした瞬間・・・・
「ゼロっ!!」
「ルルーシュ!」
ひしっ
と抱きしめあったのはスザクの丁度後ろにいたゼロとルルーシュである。
・・・・・・・あれ。
「ああルルーシュ、私のルルーシュ!お前の美しい白磁の頬に傷をつけるなんて・・・!大丈夫だったか?」
「そんな、ゼロ、俺は大丈夫だ。そんなに心配するな。リヴァルとシャーリーがちゃんと手当てしてくれたから。
それよりも、助けに来てくれて嬉しかった・・・!」
「当たり前だろう?ルルのためなら、私はたとえ火の中水の中・・・どこへだってとんでいくよ・・・(うっとり」
「ゼロ・・・そんなに、俺のこと・・・・(きゅん」
「愛してる、ルルーシュ・・・ずっと一緒だ(きゅーん」
「ゼロッ・・・・おれも・・!(ずっきゅーん」
・・・・その砂糖のように甘いゲロを吐きそうなのは一般で、
中でも強いミレイ・カレン・ジェレミア・咲世子の四名はうっとりしながらハンカチで感動の涙をぬぐってみている。
鋼の精神である。ちなみにこの中で唯一この空気に突っ込みを入れられるC.C.は諸事情で参加していない。
スザクにもらった鍵で、こっそりとある場所に向かっているからである。
ちなみに、ルルーシュが完全にゼロに惚れきっていることをしっているスザクは、
ルルーシュを傷つけることだけはしたくないため、「いいなぁゼロ」と指をくわえてみているだけである。
きっと彼は今晩もまた、アーニャに隠し撮りしてもらったルルの可愛い写真をオカズに夜を過ごすのだ。
こうして、ある一夜のテロリスト襲撃事件は幕を閉じた。
暗い暗い、政庁の一角にあるナイトオブセブン枢木スザクの管轄である独房の中、
苛立たしいとばかりに渋い顔して拘束服に身を包んで座っているテロリスト達に、一人の客が来た。
こんな時間に何の用だ、と一様に足音のする方向へ目を向けた男達は、皆驚きのあまり目を見開いた。
緑色の髪をした美女がそこにたっていたからである。
「・・・なんだぁ?おねーさんが俺達の取調べをするのかい?」
下卑た笑みを浮かべる男達をよそに、カードキーで牢を空けたC.C.はその身を滑り込ませ、牢の鍵をロックした。
ついにイヒヒとかいう完全にキモチワルイ笑みを浮かべた男達は、しかし、次の瞬間殺気に身を振るわせた。
パキ、と骨がなる。
「・・・どうも」
ビクっ!!と男の肩が跳ねる。
ぼき。
「ああ、私が誰かって?・・・お前達が傷つけてくれた、ルルーシュ・ランペルージの保護者だ」
ぺき。
「ヒィッ・・・!!」
ぱき。ぽき。
「さて。・・・中華四千年の技・・・どいつからいこうかナァ・・・・?」
ボキ。
「ぎゃああああああああああああああああっ!!!!」
政庁に叫び声が木霊した。
「あ、C.C.おかえり。どうだった事情聴取・・・って、何だその血は・・・」
「ん?大丈夫だ、私の血じゃないからな」
「そうなのか?なら、安心だな」
「ああ。ところでルルーシュ、ゼロは?」
「えっ・・・」
「ん?」
「いや、その・・・・えと」
「ああなるほど、泊まるのか。楽しめよ。」
「えぇ、ちょっ、C.C.・・・!」
「可愛がってもらえ」
「っ・・・!!」