『おっはよぉございまぁーす!今朝のおは朝占い!最下位は・・・ざあんねん!カニ座の貴方! 今日の貴方はなるべくおとなしくして、あまりもめ事を起こさない方が良いかも! そんな貴方の今日のラッキーアイテムは・・・?ずばり、身近な子のヘアゴム!』
『今日の金運、仕事運、他の星座との相性も最悪!ラッキーアイテムで補正してね! でもでも、そんな貴方も恋愛運だけはちょっと高め!?気になるあの子と、ちょっとイイ感じになれちゃうかも!?』


3 けれどもこれは恋



届け届け届け!



「黒子。今日一日だけでいい。ヘアゴムを貸してほしいのだよ」
「・・・ヘアゴム、ですか?」
朝練も終わりにさしかかり、同じクラスであるため校舎につながる渡り廊下を二人でわたっていた時の事である。
「別にかまいませんけど」
そう良いながら、左手首に引っ掛けていた二つのゴムのうち一つを抜き取る。 差し出された手にそれを置いて、黒子は今更ながらも口を開いた。
「今日のラッキーアイテム・・・ですか?」
「なんだ、知っていたのか」
「はい、今日は・・・見てみようかと。残念ながら、後半しか見られなかったんですけど」
「良い事なのだよ」
だから、緑間のラッキーアイテムがヘアゴムだなんて知らなかった。 一つのゴムだけが残った手首を見やり、黒子は今日の髪型をどうしようかと考える。 授業中はうっとうしいため二つに括っているのだが、今日は別に一つにまとめてもいいだろう。

授業が始まり、黒子の斜め後ろに席がある緑間は手首に巻いたヘアゴムに目をやって、 そういえばと黒子のいる方向を見た。 彼女は普段、二つに結った髪を下げているのだが、今日は頭の中心でポニーテール一つにしている。 少し悪い事をしてしまったと思いながらも、緑間は無意識に手首のゴムを口元に持って行った。 心なしか、黒子が普段使っている柑橘系のシャンプーの香りがしなくも、ない。
「・・・・。―――・・・・ッ!?」
(おれ、は。今、何を考えたのだ・・・!?)
黒子の香りだとか、そんなの、今まで考えた事もない。
だと言うのに、なぜか急に香りが強くなり、鼻孔を刺激するかの様に、強く強くその存在を主張する。 まるで目の前に黒子が現れたかの様な感覚に、緑間は思考が揺れるのを感じた。
そういえば、前にもこんな事があった。しかもそれは、ついおとといの事だ。 いつも通りのパスをもらったはずなのに、その時の黒子は妙に変な浮つきを緑間の胸に植え付けた。 昨日はなんとか普通に行動したけれど(普段の自分ならわざわざ家まで送ったりしないなどという事は考えつかない)、 体中で感じるこの顔の火照りのまま最後の授業を終えてしまったらどうなのだろう。
いったいどうしたのだよ、俺。
額を押さえ、苦虫をつぶしたような顔でぼきりとシャーペンの芯を幾度となく折ったのは、別の話。




「そういえば、緑巻君・・・今日は、朝からラッキーアイテムもってたわけじゃないんですね」
レギュラーとベンチメンバーを混ぜ、3on3を初めて三十分ほどたったところで、 緑間はメンバーの一人と交代して休憩に入った。 すかさず黒子がタオルを手渡し、壁にもたれて座り込んだ緑間に冷えたドリンクを手渡す。
「ラッキーアイテム?」
はい、と答えながら、黒子はドリンクを飲みながら汗を拭っている緑間を見た。 その傍らで、緑間のふくらはぎに丁寧にマッサージを施す。
「いつもなら、朝練が始まる前にそろえているとおもっていたので・・・」
「そんなの、当たり前なのだよ」
「え?」
「ラッキーアイテムは、『身近な子のヘアゴム』だったのだから」

ぱちりと目を瞬かせ、黒子は緑間を凝視した。 マッサージを終えた手は硬直しており、うっとうしそうに顔にかかる前髪も振り払おうとしない。
「ぼ、僕って」
「ん?」
「緑間君にとって、身近・・・ですかね・・・」
「?身近だろう?」
平然とそう返されて、慌てたのは黒子だった。 視線を下にずらし、無意識に火照った頬を両手で包み、半開きになった唇はぱくぱくと開閉を繰り返す。 そしてそんな黒子の姿にぎょっとしたのは緑間で。
(うわ・・・!)
(く、黒子・・・?)
「い・・・」
「ん?」
「一番・・・・ですか?」

続いたのは、沈黙。己の言った内容を理解した黒子が、赤かった頬をさらに紅潮させて、慌てて口を開いた。
「・・へ、変な事いってすみません・・・っ!あの、タオル、キャプテンに配ってきますから」
立ち上がり、パタパタと逃げるように緑間のもとを去って行った黒子を、緑間は見つめ。 そしてゆっくりと、誰にも見られないように立てた膝の間に顔を埋め、頭を抱えた。

(なん、だ、あれ、は・・・っ!)
「反則、なのだよ・・・っ」

緑間に背を向ける瞬間の、黒子のはにかんだ、嬉しそうな顔と言ったら。
都合良く自分の良い方に考えてしまいそうで、恥ずかしさに緑間はタオルに突っ伏した。



み、身近・・・! い、一番・・・!?

2009年8月2日