雪男の朝は、狸寝入りから始まる。



年上のお姉さんは好きですか?



ぱたぱたというスリッパの音を聞いて、雪男は布団をそっとかぶり直した。呼吸のペースを落とし、目を緩くつむる。がちゃっと遠慮の無い音を立てながら入ってきた人物は、雪男のベッドの端に腰掛けると優しくその肩を揺すった。
「雪男。雪男、朝だぞ。起きろ」
ほっそりとした白い、少し冷たい指先が雪男の髪を撫で付け、ちゅ、と額にキスを落とす。そうされてようやく、雪男はんん、なんてわざとらしくむずかって目を開けるのだ。
「雪男?」
「・・・おはよう、ねーさん」
「おはよう。もう朝ご飯出来るから、早く来いよ?」
「・・・・あい」
「ふふ、かーわい」
最後にもう一度ほほにキスを落として、彼女は出て行く。そうして欲しいが為に、雪男は『朝なかなか一人では起きられない弟』を演じている。




姉が出て行った後の部屋で雪男は素早く用意していた服を着て、髪を少し直してから部屋を出た。実はもうとっくに顔は洗ってある。
「おはようございます」
食堂に行けば既に父は定位置で新聞を広げており、姉はシュシュで長い髪を後ろに流しながらちょうど茶碗に玄米をよそっていた。
「オハヨ」
「おはよう、雪男。顔は・・・洗ったみたいだな」
「雪男、後ろハネてんぞ〜〜」
「えっうそ」
パッと手を後ろにやった雪男をみてニヤニヤした父が、姉にはたかれる。
「こーら、適当な事いうなって」
「いってえなあ〜〜〜おとーさん馬鹿になっちゃう」
「既にアホではあるが」
「んだと?あ〜あ、燐ちゃんがちゅーしてくれなきゃなおんない」
はいはい、と呆れた顔をした燐が、茶碗を父の前に置いて頬にキスを落とした。雪男の前にも朝食をそろえる。
「姉さんは?」
「もう食べたよ。今日は少し早く出なきゃ」
「・・・任務?」
「そう。多分遅くなるから、お弁当と豚汁と炊き込みご飯つくっておいたから、食べろよ」
「夕飯にもいないの?」
いただきますと手を合わせ、まず汁物をすする。へにょんと眉が情けなく垂れ下がっているのを大いに自覚しながら、雪男は燐に聞いた。
「うーん、任務自体は遅くとも夕方までには終わるんだけど、その後がなぁ・・・」
「またシュラさんなんかと飲みにいく約束したの」
「おま・・・なんかはないだろ、お姉ちゃんの親友だぞ」
「・・・ごめんなさい」
「四大騎士なんてチョーめんどくさいのに任命しちゃったから、今日からメフィストと淑女訓練なんだって。『四大騎士の紅一点だなんて騎士団の顔の様な物をこれからつとめるあなたがガサツじゃガッカリってもんでしょう。私厳しいですよ?BISHI☆BASHI☆いきますからねv』とか言われて〜」
「え?じゃあこれからもう姉さんのご飯食べれないの?」
「いや、今日はお試し?本格的なのは雪男が正十字行ってから始めるよ」
洗い物を終えた燐が、手を拭いてエプロンを外した。フックに引っ掛けて髪をまとめ直す。上質なノースリーブのボタンシャツに、オートマチックが二丁収まっているスリングを引っ掛ける。真っ黒なペンシルスカートにガーターベルト付きのニーハイ、左の腿にはベルトが巻かれてあり、ナイフが収納されている。上から物々しい祓魔師のコートを着て、燐は鏡の前にたち、襟を直して髪を撫で付けた。
「・・・今日はやけに重装備じゃない?そのコート、色々仕込みも入ってるでしょ?」
「まぁなー。今日のは数が多い上にエグイのばっからしいから、備えあれば鬱もなしってやつ?」
「憂い無しでしょ」
「あーはいはい、優等生の雪ちゃんは相変わらず賢くいらっしゃってお姉様は誇らしいどす」
「からかわないでよ」
「いーじゃん。ほいじゃ雪男、いってきます。父さんも」
「いってらっしゃい」
「・・・いってらっしゃい」
ちゅうと雪男の額にキスをし、同じように父の頬にもキスをする。
「ふー、終わったらシュラと飲み行くか〜」
「結局飲みにいくんじゃん!」
雪男がそういって振り向いたときには、姉は既に世界の果てへの戦いに出ていた。




「シュ〜ラ〜」
「り〜ん〜」
久しぶりにあった親友に、二人はお互い駆け寄って抱き合った。
「ひっさしぶりにゃぁ」
「ひさしぶり〜〜」
そのまま二人で腕をくみ、ヴァチカン本部の中を歩く。
「ちょっと聞けよアタシ今回氷山にいかされたんだぜ、ったくもー蛇に氷山とかお前らに心はないのか!ってーの」
「おれも・・・じゃなくて私もえぐかった・・・ロシアの外れにある小さな村の腐乱死体処理にまわされた・・・」
「オエ。ってか『私』?メフィストの訓練てやつ?」
「そうそう。『わたくしがより好ましいですがまぁわたしでも良しとしましょう。くれぐれもアタシだなんて言わないように』だと」
「んだそれアタシに対する宣戦布告?」

「あれ、あそこ新しいバールできたの?」
「そーなんだよ〜アタシ行きたいんだけど一人だとナンパがうっとうしくて」
「天使ちゃんと行けばいーじゃん」
「は?なんで?」
「いまイイカンジって聞いたけど」
「誰だよそんなデマ流したの・・・・」
「俺は天使ちゃんから聞いたわ」
「本人かよ!」
「お・・・私んち寄ってく?このカッコだとくつろげないし」
「いくいく。そんでさっきのバールよってこうぜ」
「おれっ・・・私新しいシュシュ欲しい」
「あーアタシも欲しい。ってか下着欲しい」
「シュラ下着いっぱい持ってんじゃん」
「これはビキニだっての!てか燐も買いにいこうぜ」
「いーよ。あ、」
「ワタシ」
「・・ワタシ新しい鍋ほしいわ」
「あー、出かけたらアタシワイン数本買うから燐ご飯作ってよ」
「いーよ。何がいい?」
「イタァリァアン」
「はいはい。あ、食材買わなきゃ。最近こっちの家に帰ってないからなんも無い」
「あー、ここ最近ずっと獅郎んとこに帰ってんな」
「雪男が受験だったからなー。ご飯美味しいの食べさせてあげたかったし」
「なんだビビリか」
「・・・いーかげん人の弟ビビリゆうのやめてくんね?」
「だってビビリじゃんあいつー」
「そーかなぁ・・・」
「お姉ちゃんにはヒタカクシにしてんのよ」
「あ、そーいやみて指〜。新色v」
「あっいーじゃんいーじゃんその色。燐に似合う」
「シュラは?」
「昨日の任務で禿げた・・・みてコレぼろぼろ」
「おわー!・・・でもいい色してんね。えー・・・何レッドだっけ」
「ワインレッド」
「あ〜それだ。シュラのセクシーな感じにあうじゃん?」

「燐、服借りるよ」
「いーけど、・・・わ、たしの服シュラには胸きつくない?」
「だいじょーぶ、ホルダーネックのキャミ着てシャツ胸開けるから」
「おー。あっそうだシュラさ、今度のパーティー行く?」
「パーティー?ああ、恒例の?」
「そうそう、私でなきゃいけねんだけどドレスが無くって」
「おっアタシが選んじゃる!」
「よろしく〜」
「セクシーで大人っぽく?」
「それでいていやらしくなくとメフィスト様が」
「クラシカルで?」
「でも適度な露出は美味しいんでお願いしますネッとメフィスト様が」
「燐あしキレイだからな〜〜ミニスカいいと思うけど」
「でも今年で四捨五入したら三十路だし!」
「うわ思い出させんな!あたしそこらへんじゃ18で通してんだからさぁ」
「それはサバ読みすぎだろ!せめて22とかにしとけ」
「燐読まない?サバ」
「弟がいるとサバなんて読めない」
「それもそか」
「なーこのスカートどう思う」
「いんじゃんいんじゃん?あ、アタシこのボディコンはいていーい」
「いーよー」
「・・・って入らん!美尻で評判のアタシのおケツが」
「えっうそ?」
「ちょっとおケツ触らして〜〜」
「俺らサイズ一緒じゃない?」
「ん〜・・・あー燐は腰が細いからなー・・そう見えるだけだろ・・・・・」
「こっちはく?普段のシュラのイメージからはちょっと違うけど、たまにはいんじゃねえ?」
「この小美尻め・・・」




「志摩?何やそれ」
「いまここに落ちてたんどす。えーと、あ若先生のや」
「奥村先生が落とし物やなんて珍しいですねぇ」
「せやなぁ・・・ってぞえええええなんやこの美人!」
「志摩お前かってに人のモン見んなや!」
「せやかて坊!見て!見てこのべっっっぴんさん!胸でか!腰ほっそ!美尻〜〜〜〜うっわ足きれえ〜〜〜〜〜首ほっそおお髪きれええええ!!!先生の彼女かなぁ!?」
「おい志摩」
「うっわ肌しろいわ〜〜すべすべしてそうやんなぁ」
「志摩さん」
「目の色ごっつ綺麗とちゃいます?青ですよ青!うっはああオネーサンのおっぱいにぱふぱふしたい・・・」
「おいコラ志摩」
「なんやの坊さっきから無反応で。こーんな美人なオネーサン見たら普通興奮するやろ!」
「へぇ・・・・?」

ゴリッ

「どういう風に興奮するんですかね。教えてもらっていいですか志摩君」



双子の姉弟も年上の彼女さんな雪燐も時折みかけるけど、シュラさんと同い年な十一歳違いの姉弟雪燐がない!あああ〜〜〜燐姉さんマジ女豹マジぺろぺろハァハァ老若男女シュラねえたまと一緒に翻弄しまくってほしいてか俺を翻弄してくれ・・・!ああああマジシュラねえたまパフパフしたい燐姉さんもパフパフしたい燐姉さんはDとかEとか標準よりおっきめで美乳でとっても美味しいのに親友があまりにもでかいから自分の胸がちっちゃいとか思っちゃってちょっとしょぼんとしてればいいと思うそんで好きな男のタイプは年上でたれ目でしぶくて男らしい、目尻にしわがあると尚良し!みたいなようは父さんを心底かっこいいと思っててなんで不浄王編とかで八百造さんみて一目惚れしたら俺の毛と服がどっかパーンなるわ・・・で雪男は姉さん僕はタイプじゃないのとか言うんだけど燐からしてみればおむつもミルクもやってあげて自分が育てたような弟に対してタイプもなにもないわけでむしろ好きになる男と理想の男は違う訳で燐の理想は顔がよくて頭がよくて優しくてなにをやらせてもパーフェクトなんだけどちょっと甘えたでちょっと泣き虫でもよくって料理が苦手で・・・っていうまさにパーフェクトな男な理想を詰め込んで育てたのが雪男なわけで実際に恋愛したいのは父さんみたいなしぶい男であってつまりそういう話だと思うんだ(pixivのキャプション。これはひどい)

2013年2月7日(2012年月日初出)