進撃の巨人のセクピスパロです。

セクピスをご存知無い方は、お手間ですがwiki先生のお世話になってください。(小説内でそれなりの説明はしていますが、事前知識があったほうがわかりやすいかと思います)
壁の中の世界では色んな情報が衰退しているので、希少種の頂点は人魚でなく先祖返りになっています。

リヴァイとハンジがいちゃこらしてます。友情的な意味で。私の中の友情はこんな友情。
きちんとしたリヴァエレ要素を求めてこられた方は申し訳ありません。

一言で言うと、リヴァエレの可能性についてエルリヴァハンがわちゃわちゃしつつ語ってる、みたいな。そんなお話です。

各キャラの魂現を勝手に捏造しています。

大丈夫ですか?ではどうぞ。



進撃のセクピスパロってみったー



絶対に巨人に殺されない人種がいる。そしてその人種の中に、人類最強と名高いリヴァイ兵士長は含まれていた。



「あ〜〜やばい寒い寒い寒い!」
 ガタンバタンと派手な音を立てながらかけずり回るハンジを横目で見つつ、リヴァイは目の前の書類をめくった。秋も更け、もうすぐ冬となるこの季節、朝晩の気温はめっきり下がるようになった。さらに本日は風が冷たく、雲行きが怪しいという事で陽の光が当たらなかったのだ。お陰で出番はもう少し先だと思われていた冬用の布団やらを団員が大わらわで出すという羽目になり、訓練が必要な時間分取れずに終わってしまった。暖をとるために逆に大運動をしていたハンジは先ほどシャワーを浴びた後にエルヴィンの執務室で書類整理をやっていたリヴァイ達のもとへやってきては、上着を着て毛布を被り寒い寒いと喚いている。
 そんな彼女の為に、エルヴィンとなけなしの優しさをひねり出したリヴァイは甲斐甲斐しく動いてやった。エルヴィンは大きいろうそくをハンジの前に出してやり、備え付けのクローゼットに常備してある予備の毛布や上着をハンジに寄越した。リヴァイは暖かい紅茶を出してやり、ハンジの背中を摩ってやった。
 二人がこんな風にハンジの世話を焼くのには理由がある。ハンジは体温が上がりすぎても下がりすぎてもいけないのだ。彼女のポケットにはハンカチが入っているのと同じくらいの当たり前さで体温計が常に入っている。少しでも息苦しさを感じれば即座に熱を測り、現れた体温によって暖まったり涼をとったりと対策を講じなければならない。これがただの冷え性の様な物ならば二人もこうまで世話は焼かない。だがハンジのこれは体質で、本能的なものだ。一歩間違えれば命にも関わる大事な事で、さすがのリヴァイも、大事な仲間に生死的な意味で寒いだ暑いだ言われれば手を貸してやらない事は無い。
「相変わらずだな、ハンジは」
 リヴァイがハンジの分のついでに淹れた紅茶に口をつけながら、エルヴィンは苦笑した。目の前にはソファの上で膝を抱えた、もこもこになったハンジがカップを抱えており、常の彼女らしくないしおしおとした様子だ。
「チッ、手間かけさすんじゃねぇよこのワニ野郎」
 そんなハンジを見て舌打ちをすると、リヴァイはふんぞり返ってソファに深く沈んだ。そんな彼を横目にハンジはジトリと睨んだ。
「湯浴み大好きな猫野郎に言われたくないよ・・・きみ、水が大好きって意味が分からないんだけど」
「猫が綺麗好きなのは常識だろ」
「猫が水嫌いなのも、常識だろう?」
「二人とも、よさないか」
 エルヴィンがなだめ、二人が黙る。ビッチリとカーテンを閉じて密閉された空間にだんだんと熱がこもり始め、エルヴィンの執務室は暖かい空間へと変わっていった。ハンジがようやく毛布を二枚脱ぎ、体温計で測った体温にほっと安堵のため息をつく頃には、リヴァイはうとうとと瞼が重くなるのを感じていた。
「あれ、リヴァイ。眠いの?」
 えい、とハンジがかけ声とは裏腹にそうっとした手つきでリヴァイの首をくしゃっと触ると、リヴァイはへろっと力を抜いてソファに突っ伏した。わあと歓喜の声を上げたハンジが、耳の後ろに指を滑らす。ぴくんと跳ねたリヴァイがハンジの手のひらにすり寄るように頬をよせて、そしてはっと目を見開いた。ばっちり瞳孔が開いている。躊躇いなく足を振り上げると、リヴァイは被いかぶさるようにしていたハンジめがけて容赦なく蹴りをお見舞いした。その足がハンジの隠された胸にダイレクトヒットしていたのはご愛嬌である。
 ごろんごろんとソファを転げ落ち床を転がっていったハンジを肩を上下させたリヴァイが見下ろす。その視線には殺気が込められていて、威嚇する様はまさに猫だった。
「ハンジ、テメェな・・・!」
 怒りとショックと羞恥でか、いっそ青白いほどに顔の血を引かせたリヴァイの米神にはぶちぶちと青筋が浮かんでいる。だが、ガバリと身を起こしたハンジの怒りも相当だった。どれほど部屋が暖かくなっても、石造りの床は冷たいままだ。せっかく体温を上げたというのに、リヴァイの蹴りの所為で冷たい床に頭を付けさせられた恨みは予想以上以だったらしく、ハンジの常の朗らかとした雰囲気は形を潜めていた。
「っっ・・・てぇええ〜〜〜!!なんだよ、私の所為!?私だってこんな冷たい石の床に転がされて寒いんだよ、自分の生態には自分で責任をもってくれよ!」
「それはオレの台詞だワニ眼鏡、その皮削いで高級バッグに仕立ててやろうか!」
「ああ上等さ、地域によっては猫を食べる種族だっているんだ、貴方をステーキにして売ってやる!」
 ゆらりと湯気の様な物が二人の背後にたちはじめた。幻覚のようにうっすらと現れた動物の影が、確実に二人を侵していく。ハンジの瞳孔が開いて歯が尖り、リヴァイの頭に丸い耳が生え始めたあたりで、エルヴィンはようやく重い腰を上げた。こうなったら二人は本能を優先させてしまい、リヴァイは手加減ができなくなるし、ハンジはいつものおちゃらけた調子で躱す事もできなくなる。
「よさないか、二人とも。魂現が出てるぞ」
 一触即発、二人そろって(潔癖性である筈のリヴァイですら)床に四肢をついてまさに飛びかからんとする体勢の二人の首根っこを、エルヴィンはがっしりと掴んだ。殺気を込めてエルヴィンを睨みつけた二人だったが、じわじわと絞められていく首の感触にようやく力を抜いた。獲物を射抜く様な視線が怖かったというのもある。

 彼ら三人は、斑類だった。
 巨人に対抗し得る、別の人類だった。







 ヒトとしてのそもそもの構造が違う、とハンジは言う。
 人間は皆猿から進化した、というのが、どの医学書にも載っている基本だ。それがどうやってか、進化の過程において、猿以外の動物の特徴をもったままヒトに進化した人類、それがリヴァイ達。通称斑類。人魚、熊樫、猫又、蛟、犬神人、そして蛇の目。それぞれ鯨、熊、猫、鰐、犬、蛇の特性を持つ種に分類される斑類の人口は、総人口率の約3%ーーーもっともこれは人類が壁内に撤退する前の数値なので、実際には1%ほどしか無いがーーーを占め、種族独特の特徴を持ち、それ相応の特殊な能力を行使する事ができる。しかしその特殊性故か、繁殖力がきわめて低く、人口が中々増えないというのが今も昔も変わらぬ問題だ。だが皮肉な事に、斑類はその繁殖力の低さとは裏腹に、性的に魅力的に見えるという特徴がある。

 この斑類という存在はただでさえ特殊で、それは斑類本人らにとってもそうだが、調査兵団に属する斑類ーーーリヴァイ達には殊更特別な意味合いがあった。

 人類の敵である巨人は、人間以外の動物には興味を示さない。それは幾度となく行われてきた壁外調査で既に確固たる事実として知られている事である。だがそれはあくまで普通の【ヒト】、斑類が言う所の猿から進化した猿人のみであるという事は、誰にも知られていない。
 とある日、壁外調査の途中で、ハンジが木から落ちた。ガスが無くなり木を上れなくなったのだ。
 絶体絶命、命の危険を悟ったハンジは、無意識に、本能的に魂現を出した。現れたイリエワニの姿に、巨人は一瞬何が起こったのか解らないように動きを止めると、きょろきょろと【人間のハンジ】を探して視線をさまよわせ、そしてどこかへ行ってしまった。
 それ以来ハンジは、壁外調査の度にこっそりと(もちろんエルヴィンとリヴァイには了承を得てから)独りになって、巨人と一人で対峙してきた。そこで解ったのは、巨人はハンジ達斑類が少しでも魂現を露にすると、とたんに人間としての認識を失うという事だった。
 以来、ハンジら三人は巨人と対峙する際、常に魂現を身体のどこかで露にしている。それだけで巨人達は困惑し、動きが鈍る。その隙をついて攻撃しているうちに、いつしか三人は調査兵団で最も長生きをしている三人になっていた。中でもリヴァイは元々の実力も相まって人類最強と称されるようになり、人類の希望とすら言われるようになっていた。

 この事実は、人類の希望となり得る物だ。この事実を広めれば、壁外開拓への一歩として何らかの道が開けるかもしれない。ーーーそんな希望が持てないのは、猿人の斑類に対する特性が故だった。
 猿人は魂現や、またそれに関する事柄を認識する事ができない。魂現そのものに関する話題、噂、会話、それら全てが記憶に残らないので、どうやっても、斑類外で斑類の存在を知らしめる事ができないのだ。
 だから今日も今日とて、エルヴィンらは調査兵団を先導し、より多くの巨人をヒトの兵士たちの代わりに殺す。









 リヴァイは、正直いって自分の両親を覚えてない。ただ、母親がとても身軽な女だったという事だけは覚えている。まだまだ彼が小さかった頃、母親は風に飛ばされた帽子を取るためにするすると木を登って帽子を取り、そして一回転して着地して見せた。だから父親がどうだかは知らないが、おそらく自分の魂現は母親の物を受け継いだのだろうと、リヴァイは考えている。
 リヴァイは、猫又重種のブラックジャガーだ。
 ハンジの持っていた動物学書によると、ジャガーの体毛は黄色で、背面には黒い斑紋に囲まれたオレンジ色の斑紋があるらしい。らしいというのは、壁内のジャガーは既に絶滅したか、元々存在しないからだった。リヴァイは黒い毛並みで、これは変種らしい。きっと壁の外に行けば存在しているのだろうけども、今の人間にそれを知る術は無い。
 ハンジは白みがかった鱗が美しいイリエワニだ。ハンジは母親がイリエワニで、父親がアメリカアリゲーターの、生粋の蛟だ。父親の種は少なくとも壁内では絶滅してしまったが、ハンジと母親以外のイリエワニは、母親曰くあと二人ほどいるらしい。両親が水中系のため自律神経が弱く、自動的な体温調節ができない。基本的に気候がさほど変わらない壁内での苦労はそれほどでもなかったが、それでも季節の変わり目や突然の雨には弱く、秘密を知っている友人達に頼る他なかった。
 エルヴィンはどうやらホッキョクグマという種らしい。これもまたハンジの学書からの引用であるが、ホッキョクグマについての記述は残念ながら無いに等しかった。寒冷地に適したからだであるという事、世界最大の熊である事しか解っていない。エルヴィンの両親は二人とも熊樫だが、父親はグリズリーで母親はヒグマと、ホッキョクグマの影は無いのである。ある意味先祖返りの様な形で魂現が現れたのだろうと考えているが、確かな事は何も解っていない。
 斑類が魂現をあらわにするのは、裸になるのと同じくらい恥ずかしい事らしい。らしいというのは、現代においてその概念がどんどん薄れつつあるからだった。特にリヴァイ達にとって、魂現をあらわにするというのは巨人に立ち向かう為の切り札と言っても過言ではない。しかも今現在において、自分たち以外の斑類は調査兵団にいないので、魂現を出してもバレる事は無い。魂現出し放題。リヴァイとエルヴィンは体毛で局部が隠れるため、一応恥ずかしいという事は無いし、ハンジはハンジで、イリエワニの状態で仰向けにひっくり返り、『このへんがおっぱい』なんて言われても、ごつごつした鱗のワニの胸など見てどうしろというのか。

 そんな内輪で平和なまま、殺伐とした巨人討伐を繰り返して行くのだろうと、三人はずっと思っていた。



***


 地下牢の中を、チーターがうろうろと動いている。
 先ほどまでヒトだったそれは、ベッドに縛り付けられていたのだが、動揺からかふとした拍子に変化してしまい、その際に拘束具も壊れてしまった。今は所在無さげに、どうすればよいかもわからずうろうろと室内を徘徊していた。しなやかな体躯は美しく、力強い瞳の引力が凄まじい。この檻の中の生き物を、リヴァイはかすかな感動と共に見つめていた。
 ただの猿人どころか、巨人に対抗し得る力を持つ斑類ですら衰退の一途をたどっていたこの壁の中の世界で、よもやこんな幸運が訪れるとは思っても見なかった。斑類の中でも稀少度の頂点にたつ、超プレミア種ーーー斑類の希望とも呼べる存在が、先祖返りがそこにいた。
「おい」
 フェロモンにやられて不埒を働こうとしていた憲兵団の見張りは気絶させた。リヴァイの反応にびくりと毛を逆立てたチーターはぴたりととまり、部屋の隅に移動してリヴァイの様子を伺う。見張りの腰から牢の鍵をとると、リヴァイは迷う事無く開けて中に入った。
「来い」
 あごをしゃくってベッドを指すと、チーターはおとなしくベッドにあがってちょこんとおすわりをしてみせた。傍にあった椅子を引き寄せてどかりと座り、リヴァイは目の前の動物を見据えた。
「オレの言葉は解るな」
 こくり。
「お前は、自分が何だか解っているか?」
 ふるふる。
「人間に種類があるのは知っているか」
 こくり。
「東洋人だなんだという人種の話じゃねえぞ」
 ぴたり。
「『人間そのものに』種類がある。オレやお前は、その違う種類の方の人間だ」
 最初から困惑した雰囲気を隠しきれていなかったチーターが、そこでようやくリヴァイを見つめた。
「呼吸をしろ。四肢でなく、二本足で立つ自分を思い出せ。お前の手のひらはそんな形か?自分の肌の色、髪の色、服の感触、自分の声、全部きっちり思い出せ。安定させろ」
 チーターの姿が幻影の様にぶれはじめて、そしてボンッと音を立てた。現れたのはチーターではなく少年だ。似通っている点は金の瞳一点のみ。呆然としている少年を見つめる。ややあって、「戻・・・れた?」と戸惑いがちな呟きに頷いて、リヴァイは再び口を開いた。
「この世には二種類の人間が存在している。猿人と斑類。斑類とはーーーー」



「リヴァイ兵士長は、ブラック・・・ジャガー、という動物なのですか」
「そうだ」
「それで、俺は・・・」
「チーターだ。さっき確認した」
「チー・・・ター?」
「これだ」
 ハンジの動物学書のとあるページを開いてみせる。『チーター』と左上に書かれたページには、チーターがひろい草原の様な場所で四肢を伸ばして走っている姿が描かれていた。
「・・・『淡黄色で、黒い斑点。地上最速の動物』・・・これが、俺ですか?」
「そうだ。おそらく中間種か、よくて半重といったところだろう。だが、まあ、お前にはあまり関係ない」
「え・・・どうしてですか?」
 困惑する少年の手から学書を取り上げ、本を閉じる。
「お前は超プレミア種だ。お前に限っては重種だなんだという概念は当てはまらない。」
「え・・・」
「先ほど説明に、付け加える事がある。斑類の重種は特殊能力を持つ代わりに、繁殖力が恐ろしく低い。だから繁殖力の強い猿人と子を生しても、生まれるガキは猿人だ。だが重種の能力を併せ持ちながら、猿人の繁殖力をも兼ね備える存在がいる。それがお前だ」
「・・・え?」
「先祖返り。重種の子供を産めるプレミア種。それがお前だ、エレン・イェーガー」








***

「おかえり」
 エルヴィンの執務室に入ると、毛布をかぶってソファで寝ているハンジが声をかけた。エルヴィンは紅茶を三人分淹れている。スカーフを襟元から引き抜き、少し考えてからハンジの首にかけてやる。
「ありがとう、暖かい」
「いや」
「それでどうだった?新兵は」
「悪くない」
「とりあえず、彼は我々調査兵団預かりになった。監視役は審議所での通り、リヴァイ、お前が担当する」
「わかった」
 ハンジの向かいのソファに座り、エルヴィンからカップを受け取る。芯まで冷えきったからだが暖まる。
「猫又だって?」
「ああ。テメェの学書借りたぞ、ハンジ」
「構わないよ。見たとこしなやかな感じの猫科っぽいなぁ。うーん。ヒョウとか?」
「チーターだった」
「へぇ」
 リヴァイが放った学書を危なげなくキャッチしたハンジが、ぱらぱらとページをめくる。チーターの項目に行きつき、ハンジはそれを熱心に読み始めた。
「えーと、Animalia Chordata Vertebrata Mammalia Carnivora Felidae Acinonyx A. jubatus….哺乳綱ネコ目ネコ科チーター属ね。・・・毛衣は淡黄色・・・黒い斑点、地上最速の動物、2秒で時速72キロメートル、最高時速が100キロ・・・へええ、対巨人にはもってこいな動物だなぁ」
 感心しきった声のハンジは、そのまま熱中してページを読み進めた。こうなると中々集中が途切れないのを知っているので、エルヴィンとリヴァイは彼女を放って話を続けた。
「地下室で拘束っつったが、あいつ先祖返りだぞ。さっき見張りの憲兵もフェロモンでやられてたし、意味ねぇんじゃねぇか」
「だからこそのお前だ、リヴァイ。あと彼には、魂現のコントロールも教えてやってくれ」
「ああ、さっきコントロールの必要性だけは説いといた。あいつ、自分の成りに驚いちゃいたが、巨人化能力と同じように『巨人を屠る為に必要な能力』として見てる見てぇだからな。常人には魂現は見えないんだから良いだろうと口答えしてきたから、」
「まて、・・・なんと言って説得したんだ。まさかあのとんでもない口上じゃないだろうな」
「口上だァ?」
 ニヤァとあくどい笑みを浮かべたリヴァイが、にやにやと年相応の、三十路のオッサンらしく下衆な表情を見せた。
「お望みどおり、『全裸でケツふりながら私は超貴重な先祖返りです、どうぞブチ犯してください』って言ってる様なもんだぜって言っておいた。嬉しいだろう、ハンジ?」
「全く、お前は・・・」
「え、リヴァイごめんなんて?聞いてなかった」
「・・・あの新兵に、あの口上を使って、魂現コントロールを納得させたんだ、リヴァイは」
「えええええええマジでか!!リヴァイおっさーん」
「うるせえ三十路ババア」
「噛み砕いてやろうか?」
「骨の髄までしゃぶってやるよ」
「お前達、よさないか」
 頭を抑えたエルヴィンが、静かに二人を嗜める。ハンジの興味がようやく本から離れたのを良い事に、エルヴィンは話を進める事にした。
「それでコントロールの訓練はリヴァイ、監視も兼ねてお前がやってくれ」
「それは別に構わねぇ、が・・・・ろくに人前に出せねぇってのに、どう訓練しやいいんだよ」
「ああ、それはあるよねぇ・・・実際に人前に出てみないと、どの程度魂現のセーブか効いてるのか解りづらいし、正直今は魂現のセーブよりも、エレンの巨人体の解析の方が私は重要と考える」
「ふむ」
 どうしたものかとエルヴィンがあごに手を当てる。
 世間一般ではエレンは巨人体精製能力をもった異端という認識だが、エルヴィンら斑類にとってはそれプラス先祖返りというダブルパンチだ。もちろんエレンの巨人化能力の実用化を推進させるのが目下の最優先事項だが、エレンがこのままフェロモンをまき散らすようでは兵団全体の統率が取れなくなる。
「そういえばさ、エレンの幼なじみ二人に話を聴いてきたよ。ミカサ・アッカーマンとアルミン・アルレルト。アッカーマンは首席卒業で、アルレルトは十位以内には入ってないけど、座学がトップだ」
「そうか。それで?」
「二人とも斑類だよ。アッカーマンは微妙に漏れていたから気付いてると思うけど、彼女は蛇の目の重種らしいよ。東洋人の生き残りらしくって、私の学書には乗っていないんだけど、どうやら東洋の種でハブっていう毒蛇らしい。アルレルトは犬神人の軽種。マルチーズっぽかったけど」
「それで?」
「二人はエレンの事をずっと猿人だと思っていたそうだよ。実際に子供の頃、エレンの前で魂現の話をした事があるらしい。普通にスルーされたそうだから、やっぱり先祖返りで間違いはないねぇ。成り魂や封印でふたをしていたというわけでもないらしい」
「そうか・・・なら、余計にコントロールは難しそうだな」
「ねぇ、15歳の子供にこんな事を望むのはおかしいって私も解ってはいるんだけど、一つ良いかな」
「何だい、ハンジ」
「エレンはさ、今両極端の世界で一番重要な所にいるんだよね。彼は巨人化能力を制御して巨人を駆逐する事ができる。同時に、巨人に対抗し得るのに繁殖が難しい斑類の世界で、重種の子供を産める身体を持っているんだよ。でも両方同時には行えないでしょう。私は確率と生存率の観点から、エレンは前線に出ないで子供を産んでもらうのが一番だと思うんだけど・・・世論的にはエレンは巨人でしか無い訳だから、前線から引かす事もできない。どう思う?」
 自身も女で在るからか、ほんの少し罪悪感をにじませた顔でハンジが問うた。彼女自身、女である事をとうの昔に辞めた身ではあったが、それでも一般的に言われる女の幸せというのがどういう物かはしっている。もちろんそれが斑類の世界では、男にも宛てがわれる事も。
「そうか、そうだったな・・・」
「どうもこうもしねぇよ。アイツがアンドロジーナスんなってガキ産んだ所で、そのガキが使い物になるっつー保証がどこにある?それに兵士にするにしたって最低12年は待たなきゃならねぇ。それよか巨人化能力で、せめてあの超大型巨人と鎧の巨人ぶっ殺したほうが当分の平和を稼げる」
「そうだね。いらん事を聞いた、忘れてくれ」
「やっぱ当分の問題はアイツの魂現コントロールだな。それが巨人に効いて動きが鈍るんならまだしも、周りの兵士を手当たり次第発情させてたらたまんねぇ。だから、」


「あいつには俺がブラインドをかける」

 そう言い放ったとたん、エルヴィンとハンジが動きを止めた。あんぐりと顎を落として凝視してくる二つの視線を軽くいなしながら、リヴァイはふんと鼻で笑った。
「え、待ってよリヴァイ。そんな事したら、エレンが貴方のメスだって思われちゃうよ」
「それでいい」
「え・・・」
「あいつは俺のメスにする」
「・・・正気か?」

「躾けて、巨人ぶっ殺させて、調教して、男の身体を受け入れさせて、人類最強の斑類のガキをどんどん産ませる。完璧じゃねぇか。イイ案だろう?」

 欲に濡れた獰猛な瞳のジャガーが、ぺろりと唇を舐めた。






(先祖返りのフェロモンにやられてたのは兵長もですよって話)


2013年9月21日(初出2013年6月2日)