別名「エレンの処刑が決まったときに」
その日から、彼が死ぬまでの、彼の日常と、彼を取り巻く人々の心。
(を書こうとしてふつうに挫折しました)





「嫌いだ」
 鉄の棒に殴られたような衝撃が、ミカサを襲った。
「エレン・・・?」
「嫌いだ、お前なんか」
 ミカサ、とエレンがつぶやいた。
「何で俺なんかかまうんだ。何で俺なんか好きとかいうんだ。なぁミカサ。俺はお前のことが嫌いだ。嫌いで、嫌いで、嫌いで」
 憎憎しげにいうエレンの瞳に、ミカサは泣きながら口付けていった。
「そんなに、私のことが嫌い」
 エレンは一瞬だけ跳ねて、そして苦々しく口にした。
「嫌いだ」
「そう。私は好き」
「お前なんか、嫌いだ」
「私は好き、エレン」
「お前なんか、家族じゃなけりゃよかった・・・ッ」
 搾り出したエレンの言葉に、ミカサは傷ついた顔をする。そうするとエレンはもっと苦々しい顔をして、ミカサの手をぎゅうぎゅう握り締めた。
「私のこと、家族じゃなければと、思っている?」
「思ってるよ・・・ッ」
 顔をめいっぱいゆがめて、エレンは吐き出した。
「俺なんかより、もっといい家族がいたはずだ・・・」
 ミカサは、もうなりふり構わずエレンに抱きついた。
「エレン、それは違う。それは、絶対に違う。だって、私は、エレンといて、寒かった事など一度もない。
一緒にお風呂に入った日のことを覚えている?雪の日に一緒に遊んだことは?私が始めてつくったクッキーを食べてくれた日のことは?初めて私に花冠を編んでくれたことは?アルミンとの間にいれてくれたことは?一緒に手をつないで帰った日のことは?嵐の夜に二人でくっついて眠ったことは?

 エレン、私は全部覚えてる。私はあなたに会えて、あなたの家族になれて、幸せ。

「だからエレン、安心して。あなたが死んでも私は生き続ける。あきらめたりなんかしない。死んだらあなたのことを思い出すことすらできない。だからずっと生きる。年をとっておばあさんになっても、ずっと、ずっと。あなたの分まで海をみて、外の世界だって満喫する。あなたがいなくなっても私は生きる。ねえだから、エレン。私にあなを突き放させないで。あなたが、私の幸せであるあなたが、私があなたを嫌いになるようになんて仕向けないで。ねえ、エレン・・・」

「最後に一度、好きだといって」


「好きだよ、ミカサ。お前が俺の家族になってくれた時、涙が出るほど嬉しかった・・・」


真実と嘘の勢力図/





「俺、死んだらここに名前、刻んでもらえるんですか」
 

「さあな。そんなことまで俺が知るか」
「はぁ・・・

よっこいしょ

「おい、やめろ。きったねぇな」

「うわっ、冷たい。冷たいですよこれ。こんなところじゃ眠れませんよ。地下室より寒い」

「こんだけ冷たけりゃ、安眠なんてできやしないですね。そのうち俺、化けてでるかもしれませんよ」
「そいつぁいいな、退屈せずにすみそうだ」
「兵長の寝枕に現れてやりますから」
「手は洗ってからこいよ」
「相変わらず潔癖だなぁ、もう・・・」
エレン、目を閉じる。
「兵長、おれこの中でずっと起きてますからね。石なんで声は届きませんけど、でもすぐここにいますから、さびしかったらいつでも来ていいんですよ」
「はっ、さびしくなったらな」
「もちろんです、でも、さびしくなんてならないの、わかってますよ。」

エレンはいつの間にか大人びた顔で笑った。

「俺だけじゃなくて、リヴァイ班のみんなでじーっと、兵長のこと見つめてますから、毎日。さびしくなんてなりゃしないですよ。そのうちただ見守ってるだけが祟りに変わって、背筋寒くなりっぱなしかもしれませんよ」


追伸 墓石は冷たすぎてとても安眠など得られそうにありません /



「処刑は、リヴァイ兵長が?」
「いいや、憲兵団から精鋭を選抜する」

「そうですか、しっかり狙ってくださいね。うっかりうなじから逸れたとこでも削ごうものなら、俺、うっかり巨人化しちゃうかもしれません。痛くて」



狙いを定めて、外さないでね




/ 3秒あげるから、走って逃げれば? /大好きだよ、二番目にね /殺伐とした愛の咏 /曾祖母の恋愛話 /わけもなく泣きたくなった / いつか恐れて立ち竦む、思った以上に脆い君 /急ごしらえの勇気でもあなたを救うことができるなら /あの頃たしかに私たちは恋をした /きっとそれは抽象的で、でもこの世で一番直接的な /暗闇を食む蟲のように、ただ苛立ちを食い潰していたのかもしれない /限界強度を超えたときにわたしが失うもの / 君に愛を、僕には罰を / あの時の正解を今教えてください /違うんだ、そういう事ではなくて /

脈打つ暗闇に飲み込まれてゆけたなら /道路脇に寄せられた汚れた雪みたいな /素足でその愛を踏みつける /最後の引き金はこの僕が引こう /

僕らは同じ体温で生きていける 

この先たぶん死ぬまでずっと

/ この世の殆ど全てのことが目に見えぬものであるのと同じように /喉が焦げるほどの衝動、知ってる? /返して、あのころの私を /やがて僕らが彼らを殺す日 /神の見えざる手が叫ぶ /正しい重さで僕に降りかかる運命を (何度呪っても、) /そんな事は到底ムリで、願っても仕方がない /思い出と呼ぶにはあまりに残酷で、記憶と呼ぶにはまだ鮮明すぎた/ 君の捨て台詞、聞こえないフリ /

「これ、ハンジさんにプレゼント」

「俺の巨人体です。」
「消えないように、って願いをこめながら巨人化して、自分で切りました。そしたら案の定、蒸発して消えなかったんです。すごい痛かったですよ」


その愛が蒸発しないよう、行き場を見失わないように /騙し合う二人は最後に愚かな約束をひとつだけ/ 退屈に首を締め上げられる /冒険者たちの墓場 /
金貨何枚で君を買えるだろう /苛立ちを喉に詰まらせて窒息 /演目は遂に最終章へ /



「おい、お前ら!外に出ろよ!!」

「世界は、残酷だけど、やっぱりやさしくて、きれいでっ・・・」




「生きろ! 生きろ! もがいて、生きて、生きろ!!」


叫べ 届かなくとも 声にならずとも ただひたすらに



/ 言葉は君を救わないよ /



背徳にまみれた死に神 /


迷宮エントランス /






掴んで触って引き裂いて /

一日でも早く幸せになって、

その日々が一秒でも長く続きますように






ギアスで書いた「無題」のように、オムニバスっぽい感じでやりたかったです。普通にむりでした。お題は「hazy」様よりお借りしています

初出:2013年11月7日