パーフェクト・モラトリアム
ルルーシュ・ランペルージの朝。
目覚ましは必ず六時四十五分に設定。
リンリンと鳴り響く目覚ましを叩きに叩き、約四十五分かけて七時半に起床。
よろよろと寝起きの状態で洗面所へ赴き、勢いよく蛇口をひねる。
朝日に煌いて輝く水を手ですくって顔を洗い、洗顔フォームを使ってもう一度丹念に洗う。
フカフカのタオルで顔を丁寧に拭いていけば、学園の貴公子ルルーシュの出来上がり。
歯を磨いた後は自室へ戻り、カーテンと窓をあけて空気の換気を。
まぶしいぐらいの太陽をその身に受けながら、クローゼットからシャツを取りだす。
ベッドに投げ捨てたパジャマは後で洗面所にある洗濯機へ。
掛け違えないようにしたから順にボタンを留め、上から二番目は暑いのでほうっておく。
黒のスラックスをスルリと身につけ、上のジャケットを学生鞄の隣においておけば、学生ルルーシュの誕生である。
驚くほどよく似合うセピア色のエプロンを後ろでに結ぶ。
手首を覆っていたシャツを肘の辺りまでまくれば、彼の顔つきがとたんに変わる。
調味料の置いてある棚の隣にあるバスケットからパンを二枚取り出して、オーブントースターで三分。
その間に冷蔵庫の中を覗き込み、残っている材料をチェックする。
取り出したのは玉ねぎにベーコンと、あと細かく刻んだモッツァレチーズを少々と、卵を二個。
玉ねぎをみじん切りに私、ベーコンを一口サイズにカット。
割って溶いた卵にすべてを流し込み、菜箸で軽く混ぜ合わせる。
油を引いてずっと熱していたフライパンにゆっくりと注ぎ込み、くるんとひっくり返しながら表面を焼く。
タイミングを見計らって火をとめれば、後は余熱で外はふわふわ中はとろとろなオムレツの完成。
パンが焼ける音がしたからトースターから取り出し、バターを塗ってさらにおく。
オムレツも少し大きめの皿に入れると、とたんに食卓が華やかになる。
しかしここで終わらせてはいけない。
野菜室からトマトとレタス、クルトンを出し、それぞれを食べやすいサイズにカットして透明なボウルに入れれば、
あっという間にモーニング・サラダの完成だ。
暖かい紅茶のポットを置いて、シルバーをしかるべきところに置いたなら、主夫ルルーシュの朝の食卓の完成。
誰よりも愛してやまない妹の部屋に赴く。
カーテンを開けて部屋に光を差し込ませると、音を立てないようにそっとベッドに近寄る。
ベッドの端に腰掛けて、白いシーツの上に散らばっているやさしい色合いの髪をなでる。
今朝一番の優しい声で呼びかければ、最愛の妹が身じろぎをし、おきる。
その目が開かれることはない。
おはようと朝の挨拶をし、着替えを済ませた妹の両脇に手を入れて抱えあげて車椅子へ。
ストンとその場におさまった妹に背を向けて、車椅子を押せば、一気に兄ルルーシュだけだった食卓は華やかになる。
他愛のない話をしながら食事を終え、家政婦として働いてくれている女性が現れるのを待つ。
彼女が来てからいったん自室に戻り、鞄の中身をチェック。
本日の三限と四限目は悪友である男とサボるから教科書は必要ない。
無事にすべてあることを確認すると、ジャケットを羽織ってきちんとボタンを上まで留める。
学生鞄を持って部屋を出れば、そこには二年A組ルルーシュが現れる。
振り返ってきちんとベッドメイクされたベッドを見れば、シャツ一枚の共犯者の姿が。
そういえば朝からずっといたなと考えにふけっていれば、一言いってらっしゃいと聞こえてくる。
再度振り返ればその視線は既に目の前の雑誌に向かっており、こちらを見ている様子はない。
しかし耳と神経はこちらに向かっていると知っているので、ルルーシュはただ一言、彼女と妹ナナリーに向けて言えばいい。
「いってきます」
優しくとろけるように言ったその言葉は、ルルーシュ・ランペルージの完璧なる一日をはじめるのだ。