新しいご主人様のところへやってきて一週間。
ご主人様に『ピザが食べたい』といってみる。 おこられるかもしれないとビクビクしながら待っていると、ご主人様からは何もかえってこなかった。 恐る恐る目を開ければ、そこにはびっくりした顔のご主人様がいて。 首をかしげた瞬間になきそうな顔で笑った。 それが嬉しくて思わず笑みを浮かべると、またすぐにご主人様は悲しそうな顔をした。 クシャリと私の頭を撫でて、待っていろという言葉と共に消えたご主人様は、 少ししてから湯気の立つピザを用意してもってきた。

新しいご主人様のところへやってきて一週間と一日。
長いすにおいてあった黄色いお人形をみつけた。 黄色くて、上には黒いシルクハットを被っていて、目は閉じていて、口は笑顔。 足は・・足というのかわからない足があって、全体的にべにょっとした感じのお人形だった。 得体が知れないからちょっと怖くて、しゃがんでちょんちょんとつっついてみると、 指の動きと同じように胴体?の部分がふににんとゆれる。 それが何だか楽しくて、いつの間にか危険なものかもしれないという危惧も忘れ去って触りはじめると、 なんだかすごく触りなれたような感触な気がする。 なんだかすごく気持ちよくって、ご主人様がいないのを良いことに長いすの上に寝そべって物体を腕に抱いて、 顔をうずめた。 数分後に帰ってきたご主人様は、そんな私の姿を見ておこるよりも笑顔になった。 目元が緩んで綻んで、嬉しそうに口元に笑みを。 ご主人様が好きなのかと思って差し出すと、またとたんに悲しい顔をされた。 嫌いなのかと思ってぎゅっと握り締めると、ご主人様が笑った。

新しいご主人様のところへやってきて一週間と二日。
する事がなかったので、長いすの上でご主人様の真似をやってみる。 手鏡を前に持ってきて、口を片方だけ上げて目を細めて、効果音は多分フフン、って感じ。 首をかしげて付いた肘に頭を乗せる。 身体をちょっとずらして足を組み、組んだほうの足の先をピンとはる。 鏡の前に移ったその姿はなんだか違う人みたいで、なんだか楽しかったものだから何度か改良を加えた。 格納庫から戻ってきたご主人様は、仮面をはずして私を見た瞬間一滴涙をこぼした。 びっくりして絶句してると、静かな部屋の中でご主人様が小さく何かを呟いた。 記号のようなそれがなんなのかはわからなかったけれど、その声で我に返った私は大慌てで立ち上がって、ハンカチをもってご主人様のところへ向かった。 なかせてしまってごめんなさい。 ご主人様、大丈夫ですか? そういった瞬間、ご主人様の眉間にしわがよって、私はまたおこられるのかと思って身を竦めた。 けれどそうではなくて、ご主人様はうつむいてそうだよな、と呟いた後になんでもないといって抱きしめてくれた。 それが嬉しくて背中に手を回すと、悲しそうなため息をつかれた。

新しいご主人様のところへやってきて一週間と三日。
ふとしたことでペーパーカットをする。 あふれ出た血が懐かしくてついそのままにしていると、ご主人様がじっとこちらを見ていた。 怪我しちゃいましたと顔の前に手をかざすと、悲しそうな顔をなさる。 血が止まらないのか、と聞かれて、そのうち止まると思いますと返すと、余計に泣き出しそうに目を細めた。 手を口に持っていって血をなめられる。 ご主人様になんてことを!と思ってあわてて離そうとするけれど、 なかなか止まらない血にいらだったのか、ご主人様はなめるのをやめなかった。

新しいご主人様のところへやってきて二週間。
突然キスをされた。 熱も愛も欲もない、触れただけのそのキスに驚いて首を傾げる私を見て、ご主人様はついにボロボロと泣いた。 そうだよな、当たり前だよな、といいながら痛いぐらいに抱きしめられる。 ご主人様、と呟くと、ご主人様じゃない、と言われた。 でもご主人様はご主人様なのに。

ご主人様は、私でない人をみている。



ジャメ・ヴュはいらない、デジャ・ヴュが欲しい



少女がやってきて一週間。
ピザが気に入ったのか、ピザが食べたいといってくる。 もしかして、と期待をこめて少女をみたら、不思議そうに首を傾げられた。
C.C.じゃなかった。
わかっている、C.C.じゃない。

少女がやってきて一週間と一日。
会議から戻ってきたら、少女が長いすに寝そべっていた。 腕の中にはなつかしのチーズ君。 顔をうずめてたから気に入っているのだ、きっと。 もしかして!と思ったら、チーズ君を差し出された。 彼女なら、好きなものを譲るなんてありえない。
C.C.じゃなかった。
わかっている、C.C.じゃない。

少女がやってきて一週間と二日。
本当に本当にC.C.が戻ってきた! 高慢な笑みと、つかれた肘と、組まれた足、間違いなくC.C.だ。 不意に涙がこぼれてしまった。 きっとここで、男のクセに泣くなんて甘ちゃんだなとか言われるに違いない。 ・・・そう、此処にいるかけよってハンカチで涙を拭くのは違う人だ。 そうだよな・・・。 思わず抱きしめた。 背中に手を回される。 本当はここで、甘えるなといって突き飛ばされるはずなんだ。
C.C.じゃなかった。
わかっている、C.C.じゃない。

少女がやってきて一週間と三日。
ペーパーカットをして、血がでた。 早く止まれ、早く止まれと思ってジッとみているのに、いつまでたっても血が止まらない。 苦笑する少女に止まらないのかと聞くと、いつか止まるといった。 早く止まって欲しくて、思わず手を引き寄せて血をなめた。 なのに一行に血は止まらない。 口の中は鉄の味でいっぱいだ。
C.C.じゃない。
わかってる、こんなの、C.C.じゃない。

少女がやってきて二週間。
あいつが一度したように、一瞬だけ唇に触れてみる。 どうか、と思って瞼を上げたら驚いて不思議そうに見られるだけだった。 戻ってない。 戻らない。 そうだよな、当たり前だよな。 つい少女の身体を掻き抱いた。 ご主人様、と呼ばれた。 ご主人様じゃない。
C.C.は、ご主人様なんていわない。
おれはおまえのごしゅじんさまなんかじゃない。


C.C.の願いを知っているのに、C.C.に今までの身体のままで戻ってきてほしい。
C.C.の生をしっているのに、C.C.にまたとなりで生きてほしい。
C.C.がいい。
C.C.が欲しい。

この少女は、いらない。
欲しくない。



ピザをよこせと言い放って、チーズ君だけを抱きしめて、 泣いたら馬鹿めとののしって、血なんて普通に止まっていって、キスはとっておきのおまじない。 それだけでいい、どうか帰ってきて

2008年8月31日