青春を謳歌。
俺とお前は青春の真っ只中にいる悪友同士、悪事はすべて共有しよう。
今いくよ青春、さよなら正義
本日の計画を頭にインプットする。
教室からゆっくりと廊下を歩くルルーシュはきっと体育教師である軍人のヴィレッタに見つかり、そして走りだすだろう。
合計、十秒。
息を切らしながら全力疾走をし、数々の生徒に見守られながら、化学教室に駆け込む。
十秒プラス三十秒で、合計四十秒。
その間に俺は駐車場にこっそりと赴き、今日もぴかぴかに磨いてある我がサリーちゃん号に近づく。
サドルにまたがって乗り心地を確認。
ルルーシュの特等席であり指定席でもあるサイドシートの足がくる部分に二人分の鞄、そしてルルーシュお気に入りのピカピカのチェスセットを滑り込ませて、後はルルーシュの姿が裏口から見えた瞬間にキーを差し込むだけ。
校舎端の階段を駆け下りるだろうルルーシュは、多分ミレイからの差し入れをもらってくるだろう。
あの人は面白いことも楽しいことも、モラトリアムも大好きだから、きっと逃げるルルーシュの味方をして何か投げてよこすだろう。
計画開始の合図が聞こえてから約二分、裏口からかけてくるルルーシュを発見して、キーを勢いよくねじ込む。
ブルン、と一度大きく震えたエンジン音をしばらく聞きながら、ルルーシュがこちらにたどり着くのを待つ。
今頃ヴィレッタは一つ下の学年であるフィリップ・ターヒューンを捕まえてびっくりしていることだろう。
何せターヒューンは顔こそルルーシュに及ばないが、黒髪、華奢な体格など、背格好だけはルルーシュに似ている。
乗馬部に一番近い近道をいつもの遅刻で焦っているところをヴィレッタにルルーシュと勘違いされ、今ごろ地面に臥せって伸びているはずだ。
エンジンが温まって程よい程度になったところで、息を切らしたルルーシュがサイドシートに滑り込む。
体勢を整えたところを見計らってアクセルを踏む。
流れるようにアッシュフォード学園の校門を後にしたすぐに、ヴィレッタが二人の名前を叫ぶ声が聞こえた。
笑える。
計画、成功だ。
リヴァルにとってのルルーシュというのは、リヴァルの中の基準で『特別』の部類に入る。
周りは二人を親友だというけれど、それは違う。
ルルーシュにもリヴァルにも、お互いはただひたすらに『悪友』だ。
それ以下でもなく、それ以上でもない。
二人はいつだって一緒に行動しているけれど、だからといって親友のようにいつでもどこでもベッタリで、
『隠し事しないから、隠し事しないでね』だとか、トイレに行くのも一緒だとか、そういうのはまったく無い。
ルルーシュが図書室に用があるのならばリヴァルは教室か生徒会室でルルーシュの帰りを待つだけだし、
自分も用があるなら一緒に連れたって行く。
二人はお互い『テリトリー』というのを持っている人間だ。
リヴァルの場合は二層くらいで、『特別』の部類と『その他大勢』の部類。
リヴァルはその他大勢にも分け隔てなく接する人間だから、話す程度に中の良い知り合いは必然的にその他大勢。
特別といっても家族は特別の別格みたいな存在で、あまり意識はしていない。
ミレイは確かに好きだけれど、こうまであまり意識されないと段々恋愛感情も薄れてくるというものだ。
いまや神格的な憧れの存在ではあっても、何が何でも手に入れたいような恋情の相手ではない。
だから特別の中でもちょっと変わったところにあるといえる。
生徒会のメンバーはもちろん特別。
特別だけれどだからといって何よりも大切にしたいわけじゃない。
けれど、ルルーシュだけは別なのだ。
リヴァルの中でルルーシュは、『特別』の最高ランクに初めてであった中一のはじめから鎮座している。
リヴァルと違って、ルルーシュの場合は四層くらいのテリトリーがある。
一番したが『その他大勢』、二番目が『それなりに気を許して此処まで入ってきてもいいってぐらい』ランク、
その上が『かなり仲がよく、それなりに自分も曝け出せると思える』ぐらい、そして一番上が『ナナリー』だ。
ルルーシュは甘い。
すべてのものを愛し、すべてのものに優しい、けれど自分に関係ないものには驚くほど冷たくなれる。
その他大勢というのはそういう存在だ。
多分、学園においての教員と友人以外。
生徒会メンバーは多分それなりに気を許して此処まで入ってきてもいいってぐらいの部類に入る。
シャーリーの元気娘っぷりには所々で元気付けられているところもあるようだし、
ニーナとは小難しい理論を並べ立て熱論を披露したりしている。
カレンとの関係はなんだか不思議なもので、恋人ではない、だが友人でもなく、ただの知り合いでもない。
そんな感じだとリヴァルは判断している。
そしてかなり仲がよく、それなりに自分も曝け出せると思えるのが自分と、ミレイであるとリヴァルは自負している。
スザクは、ユーフェミアの騎士になってからなんだが疎遠になってしまった。
今は帝国最強のラウンズの一人として遠い本国で任務をこなしているのだから、論外だ。
ミレイとルルーシュは二人だけでいやらしくない一線を越えたような関係だ。
奥底でお互いを理解している、そんな感じ。
ルルーシュにとってのリヴァルはじゃあどんな感じなのかといわれると、それだけが答えに詰まる。
でも、リヴァルはルルーシュがルルーシュを理解している以上にルルーシュを理解していると思う。
だからこそリヴァルは中一の初対面時からすぐにルルーシュと打ち解けて、
悪友というポジションにたどり着くことができたのだから。
そんなリヴァルであるから、彼は今記憶がある。
皇帝になにかをかけられたことも、
一年間ナナリーのことを忘れてロロとかいう少年をルルーシュの弟だと信じていたということも、すべて思い出した。
ひどく頭が痛かったことを、よくよく覚えている。
忘れたくない、思い出したいんだ!と思った瞬間にズキズキとどうしようもない痛みが襲ってきて、
次に目を開けたときにはすべてを思い出せていた。
だから今なら理解できる。
ルルーシュがなぜクラブハウスにすんでいたのかも、何でミレイがよくルルーシュの外出の用を聞いていたのかも、
何で自身の出自に関する込み入った話題をひたすら避けたのかも、何で軍人や皇族が嫌いなのかも、
よくよく考えればすぐにわかった。
自分との放課後の時間を費やしてまで熱中していた『ゲーム』とやらがゼロというのもよーくわかった。
しかし、よく考えてみよう。
『ゼロ』は『悪事』だ。
そして『ゼロ』が働く悪の組織は『黒の騎士団』だ。
どんな悪事も二人で働く悪友にそれを一度も打ち明けなかった。
これは裏切りだ。
けれどリヴァルはそれを責めたりなどしない。
なぜならリヴァルはルルーシュの『親友』ではなく『悪友』であるから。
ネチネチネチネチ、どこぞの女子高生のように裏切ったからもう嫌い!とか隠し事するなんて、
ひどいよ!といったものは存在しないし、決してしない。
そういう意味で考えれば、ルルーシュはスザクに対してものすごく気をつかっていたように思う。
リヴァルの思うスザクの親友象というのは、(特にルルーシュみたいな貧弱な親友ならば)自分が守って、
愛を与えて与えられて、二人の間に隠し事は一切なし、秘密はすべて共有し合って、
自分以外の人間と仲良くしているとひたすらに嫉妬してひどい、裏切りだ、なんで自分を差し置いてそんなこと、
という考えだった。
それをルルーシュも気づいていたのか、イレブンであったスザクが気兼ねなく学校に通えるように、
スザクが一人だと感じないように、軍でも一人やるせない思いをしないように、なるべく夕飯にさそったし、
スザクのすべてを受け入れようとしたし、何があっても『スザクの中のルルーシュ』をがんばってた。
それがひどく疲れる行為だということをリヴァルは知っている。
けれどルルーシュはそれを一度としてスザクに悟らせることなく、
ナナリーに対するようにスザクに惜しみない愛情を与えたし、
スザクが与えようとするすべてのものをなるべく理解して受け入れようとした。
軍人が嫌いで皇族が嫌いで、ナナリーを世界で一番愛しててスザクが好きなルルーシュが、
スザクがユーフェミアの騎士に就任したことでさびしそうな笑顔を浮かべていたのを、
気を遣いあうことのない悪友だからこそリヴァルは気づいた。
しかしルルーシュはやはり一度としてスザクにそれを悟らせることはしなかったし、
スザクは一度として気づくことも、気づこうとすることもしなかった。
それが、何よりも悔しい。
ルルーシュから与えられる無償の愛が当たり前だと無意識に感じていたスザクも、
スザクを包んでやりたいといつも思っていたルルーシュの前で『軍がかえるところ』のように言ったことも、
ルルーシュの嫌いな軍人という力を身に着けておきながら『何があっても守る』といったスザクを、
ルルーシュの表情にも、声にも、雰囲気にも、違和感も何もかも理解せずに、わかろうともせずに、
自分にとって都合の良いことだけを信じて前を見ていたスザクを、
自分が正義だといわんばかりに人の主張を握りつぶして自分の正義を推し進めようとするところも、
すべてにおいて、すべてがリヴァルは悔しかった。
もともとリヴァルはどちらかというとゼロ派だった。
さすがに、生き残ったものが強者で、
弱いものも敗れ去ったものもすべてがこの世の罪だという自国の主張は行き過ぎだと思うのだ。
だからこそ、リヴァルはルルーシュを止めはしない。
ゼロとしての記憶を、皇子としての記憶を、ナナリーの兄としての記憶を取り戻したのなら、
そして復活したのなら、自分は無知なルルーシュ・ランペルージを演じるルルーシュの隣で、
同じく何も知らないリヴァル・カルデモンドを演じるリヴァルとしていき続ける。
ルルーシュがゼロをやるときには、自分が口実となればいい。
「・・・再び修羅の道を歩むか?ルルーシュ」
「記憶を戻しに来て置いて何をいう?当たり前だろう」
「では、お前の後ろにいるそいつは?」
パイロットスーツの、血に染まった部分をなんとなく絞るように手でつまむ。
既に乾いたそれには意味が無いが、白に赤はあまりにリアルすぎて気持ちの悪い。
顔を上げて問いかければ、先ほどまでの純真なルルーシュ・ランペルージはどこへ行ったのか、
尊大笑みをもってフン、と鼻でわらった。
ふとルルーシュの肩越しに同じ学生服を着た男がいるのに気づいた。
確かリヴァルとかいうその男は笑ってウインクをしながら人差し指を唇にあて、シーというしぐさをしたことから、
ルルーシュに危害を加えるつもりは無いらしい。
そして先ほどのルルーシュの行ったことを見たはずなのに、その顔におびえも恐れも見えないことから、
受け入れているのだと理解する。
そして思い出しているのだということも。
「っ!?」
バッと振り返ったルルーシュの顔が驚愕に染まる。
よっ、と手を振りながらニカっと笑うリヴァルの笑顔は、この血と死体に塗れた生臭い空間にはひどく不釣合いだ。
「リ、リヴァル・・・!?」
「水臭いな〜ルルーシュ。俺たち悪友だろ?」
「何で此処に・・・!」
とっさに左目を手で隠す。
額に脂汗をため、焦った表情でこちらを見ているルルーシュに悲しくなった。
「何でって。手伝おうかな〜って」
「・・・は?」
一瞬、ルルーシュの顔があっけにとられた物に変わる。
しかしそれもほんの少し、険しい顔になると、今までと違った熾烈な表情でリヴァルを睨みつけた。
「どういうつもりだ、リヴァル!」
「どうって。まぜてほしいなぁと」
「だから意味がわからな・・!」
「ゼロ」
「・・・!」
一瞬ビクリ、とルルーシュの表情におびえが走ったのが見えた。
スザクのように批判されたり、拒絶されたりするのがこらえたのだろうと思う。
だって思い返してみれば、スザクがラウンズに上がったのはゼロを捕らえたという功績によるものなのだ。
スザクは、親友であったはずのルルーシュを売った。
自分はそんなことにはならない。
自分だけは、絶対にルルーシュを裏切らない。
「俺もまぜろよ、ルルーシュ。悪事は悪友で分け合うものだろ?」
「リヴァ、ル・・・?」
「ゼロをやるなら、そうすればいい。監視されててゼロがやりにくいってんなら、
俺と出かけることにすりゃいいじゃん。お前が望むんだったらいくらでもでかけてやるし、
口裏あわせだってやってやるよ?」
もちろん、その後のどうなったのかは『ゼロ』自身の口からしっかりと聞かせてもらう。
ルルーシュが信じられない、といった顔をする。
「・・・ルルーシュ、お前は俺を裏切った」
「・・・っ」
「俺とお前は悪友のはずなのに」
「・・・」
「ゼロをやってたことを黙ってたなんて、なんで俺もまぜてくんないんだよー!!」
「はっ!?」
ルルーシュがあんぐりと口をあけた。
まったく、美形は鼻をほじくってても美形だ。
「ったくさぁ〜あ、俺たち悪事はぜーんぶ一緒にやってきたはずなのに、
ゼロなんてビッグイベントを隠されてたとなっちゃ、このリヴァルさんが黙っていないわけよ!
俺だってさぁ、黒の騎士団のゼロの補佐とか相棒みたいな感じでやってみたかったのにぃ!」
「いや、あの、リヴァル・・?」
「あ、もちろん人命賭けた戦争だってことは理解してるぜ?おっけいおっけい、
俺はルルーシュもナナリーちゃんの事情もちゃあんとわかってるからな、そこらへんは大丈夫だぞ。
なぁ、えっと、緑色の美人さん?」
「美人というところは否定しないが、私の名前はC.C.だ。」
今までずっと傍観を決め込んでいたC.C.がぴったりとルルーシュの隣に寄り添う。
高飛車な発言におお、女王様っぽい!と若干頬を染めたリヴァルは、
こころの中でまさにルルーシュにぴったりなタイプだ、と感じた。
「どうする?ルルーシュ。この男は敵じゃないよ」
「・・・わかっている。リヴァルは、敵じゃない。敵じゃない、が・・・」
やっぱりいまだ警戒しているルルーシュは、気を張り詰めながらもチラチラとこちらをみることをやめない。
一方となりにいるC.C.とかいう少女は気を許したかどうかは知らないが認めてはくれたらしく、
リラックスした表情でルルーシュを見ている。
もう一息だ、と感じた。
わかれよルルーシュ。
「ルルーシュ、俺たちが悪事で気の合わなかったことなんてないだろ?」
リヴァル、そうルルーシュの口が動く。
「スザクにばっかとらわれんなよ。お前の隣には中一のころからずっと、いつだって俺がいただろ?
俺は悪友がテロリストで犯罪者でゼロだったぐらいで友情捨てられるほど、薄情な人間じゃない」
売り渡せる人間でもない、そういうと、ビクリと今まで以上にルルーシュの身体が跳ねた。
ルルーシュがゼロだろうが、ゼロがルルーシュだろうが、ルルーシュがルルーシュであることには変わりない。
「だが・・・リヴァル・・・それは、元には戻れない、血塗れた道だ・・・」
「うん、そうかも。でもさ、ルルーシュ」
深く息を吸って、笑顔を浮かべた。
コレは俺の意思で、ルルーシュが強制したものじゃない。
だからルルーシュが自身を責める必要は無いし、むしろ俺の共犯を歓迎して欲しいとさえ思う。
「世界征服だって、ヒーロー気取りだって、それはいつの世も男のロマンだろ?」
C.C.が笑った。
俺がわらった。
ルルーシュがわらった。
正義を殴打。
俺とお前は青春の真っ只中にいる悪友同士、悪事はすべて共有しよう。