ごくり、と大きく喉がなった。
どきどきする。右手を左胸に当ててみれば、驚くほど跳ねている。ショック死するんじゃないかというほどだ。
Would you love me, if I avow
話には聞いていた。ていうか、噂だ。
軍だとか、寮だとか、刑務所だとか、閉鎖的な男所帯の空間にずっといると、
同姓相手にそういう気持ちになるとかいう話は聞いたことがあった。
確かにここは学園の寮だけれど、別に男子校じゃない。
普通に女子も居る共学だ。
寮はライフスペースだから男子と女子で別れているだけだ。なのに。
この気持ちは、なんなのだろう。
幼い頃からずっと一緒だったルルーシュ。
可愛くて、美人で、頭が良くて、細くって、料理が上手で、家事をやらせれば完璧で、シスコンで、
運動神経は普通なのに体力がこれでもかというほどに無い、大好きな大好きな幼馴染。
もちろん、女の子じゃない。
男だ。
言っちゃ下品だが自分と同じモノがついている、れっきとした男だ。
断じて女ではないし、両性具有なんてどこの神話だ?なんてことももちろん無い。
スザクはいたって普通な性癖を持った普通の異性愛者だったし、これまでも色んな女の子と付き合ってきた。
そういう子達はもちろん好きになったし大切にした。
恋人という自覚もあったからそれなりに他の女の子達とは違う扱いもした。
なのにすぐ別れる。
やっぱり心のどこかにぽっかりと穴があいていたから。
その穴が何だったのかなんて、わかるわけがない。
わからなかったし、自分はれっきとした異性愛者であるという前提が心にも頭にも占めていたからだ。
けれど、夢を見てしまった。
自分がルルーシュを組み敷いて、ルルーシュがあえかく泣きながら自分に翻弄されながら喘ぎ、苦しそうにスザクの名を呼ぶ。
背中に回されたつめが食い込んで、それすらもスザクを快感に導いた。
紅潮した頬に、涙で濡れた輝く瞳。
絶頂を迎える寸前に愛してる、とたどたどしく呼ばれ、スザクは―――そこで目が覚めた。
起きた時のスザクは汗がびっしょりで、ハッ、ハッと息が切れていた。
同室のルルーシュがおきていやしないかと心配して、ついで蘇ってきた夢の記憶に顔を赤らめ、
そして大切な幼馴染になんて不埒な夢を、と青ざめ、そして自分の状態に再び赤面した。
ルルーシュに対してそんあ夢を見た挙句、そんな、こんなになるなんて―――!!
そこからのスザクはルルーシュからして見ればよそよそしかった。
ルルーシュに顔を覗き込まれるとうわぁああ!?と奇声を上げて後退る。
それを訝しく思わないルルーシュじゃない。
何度もスザクに理由を聞こうとしたが、その度にスザクは意味不明な理由つけてその場から離れた。
もしかして、顔も見たくないほど嫌われたのかと、ルルーシュは思った。
自分は、何かしただろうか。
ついこの前まで普通だった。
朝からおかしくなった。
自分はその前の夜に何か変なことでもしてしまったんだろうか。
嫌われるようなことを言っただろうか?しただろうか。
大好きなスザクが、自分を嫌いになるだなんて、そんな悲しいことはいやだ。
だからこそ意を決したルルーシュが、授業に行くために部屋を出て行こうとするスザクを呼び止めたのも無理ない話。
それにスザクが焦ったのも無理ない話しだった。
「な、何・・・ルルーシュ」
「スザク、ココ座れ」
「え」
「いいから、座れ」
スザクの手を引いて、勢い良く引っ張る。
反動でポスンとルルーシュのベッドに腰掛けることになったスザクが、赤面して焦った。
「る、ルルーシュっ!」
「・・・スザク」
なんでそんなに焦るんだ、スザク・・・。
悲しそうにしかめられたルルーシュの表情を見て、スザクの鼓動がドクンと跳ねた。
もしかして、自分は彼を傷つけていたのだろうか―――そう思うと、
どうしようもなく嬉しいという気分と申し訳なさがスザクの心を波立たせた。
そういえば、最近自分はルルーシュに対して冷たい態度というか、よそよそしい態度ばかりを取っていた。
「ごめん、ルルーシュ・・・」
そう謝罪した瞬間に、ルルーシュの顔が驚愕に見開かれた。
スザクはずっと避けていたことに対して謝ったのだが、ルルーシュはそれを嫌いになった、ごめん、と受け取ったらしい。
悲しそうに目を伏せた。
ごめん、だってルルーシュ、僕はこの幼馴染という関係を壊したくない。
君に嫌われたくない。
同じ男にこんな気持ちを抱かれるなんて、迷惑なだけだとわかってる。
ルルーシュが色っぽ過ぎるから、近くにこられると押したしてめちゃくちゃにしてしまいそうで、怖い。
だから距離をとろうとしていたというのに、ルルーシュ・・・。
「スザク・・・なんで、俺を避けるんだよ・・・」
ルルーシュの顔が泣きそうに歪められる。
ああ、だめだって―――そんな顔をされたら、ルルーシュ、僕は・・・。
見ちゃ、だめだ、と思うのに、手が震える。
手を上げて、涙をぬぐって、その唇を塞いでしまいたいという自分いがいる。
抑えろ。
「スザク、ちゃんと俺を見ろ・・・」
ルルーシュが目を閉じた。
ボロボロと溢れ出た涙に、自分の中の何かが決壊する音を聞いて、スザクはルルーシュの手を掴んだ。
そのまま後ろのベッドに押し倒して、スザクはようやく腹をくくった。
ああ、天国の母さん地獄の父さん。
貴方達の息子は今、同性愛に走ります。