誰もいないと思っていた生徒会室の机に突っ伏して寝ている人影がいる。 ルルーシュだった。 近づく。 男とはまるで思えない線の細さ。 本当にこれが自分と同じ性別なのか。 歪んだ笑みを抑えられなくて、ジノは机に腰掛けた。 頭を撫ぜる。 ん、と身じろぎするルルーシュを気にせずに、ただ撫ぜる。 そこに慈愛だとかそういうものは存在しない。 独占欲の、征服欲の強い男がペットに対してするような、そういう撫ぜ方だ。 キスでもしてやろうかと思う。 それともこの身体を暴いてやろうか。 歪んだ自分の思考に気づきながら、ジノはただ手を滑らせた。 頬、首、額、耳、瞼、黒い制服から出ている肌に全てねっとりと手を滑らせる。 生徒会室の外に気配を感じた。 笑える。



心の臓を鷲掴み



気配がすべる音がしたけれど、気にはとめない。 再び長いまつげに指を滑らせる。 あごに手をかけようとしたところで、細い手がジノの手首を掴んだ。
「やめてよ、」
囁くように咎めた声は、ジノも良く知っている人間の物だ。 にやりと笑って後ろを向けば、複雑な表情を顔に映したカレンが苦々しげにジノの手首を掴んでいた。 ジノの方が体格がいいのは当たり前なので、手首も遥かにカレンのそれよりも太い。 力いっぱい掴んでいるカレンの指はジノの手首を回りきらなくて、ジノはそれを一瞥してカレンに向き直った。
「カレン」
「やめて。手を離して」
「離してるよ。カレンが掴んでるんじゃないか」
「じゃあ、じゃあその左手は何なの。触らないでよ」
見れば、無意識なのか掴まれていない左手はルルーシュの首の後ろに回っていた。 小指が少しだけ襟ぐりに滑り込んでいる。 無意識の産物は怖い物だ。 それだけ自分がこのルルーシュ・ランペルージに惹かれているのかと思うと、笑い出したい衝動にさえ駆られる。 泣きそうな声で離して、触らないで、と訴えてくるカレンを鬱陶しく感じながらも、ジノは再びカレンの方を向いた。 良く考えれば、カレンは女として中々良い身体をしている。 胸の大きさはジノの好みにジャストフィットだし、形も戦場で揺れている割にはきれいに整っている。 鍛えているためか身体に余分な脂肪はないし、腹から腰までのラインもいい。 太ももは鍛えているから細いとは言い難いが、それがあの戦いを編み出しているのであれば喜んでそれを許容できる。 カレンのプロポーションを値踏みするように上からざっと見たジノの視線に身じろぎをして、 カレンはジノと自分の立ち居地を変えた。 ルルーシュの側に回る。 自分の後ろに眠っている、もしくは眠らされているルルーシュがいるのだ。 絶対に守ると決めたのだから、絶対に。
「ルルーシュに近づかないで。ルルーシュに何しようとしてるの、」
「何って、別に。好みだからさ」
もちろん、カレンも好みだけど。 舌なめずりをするように、ほんの少しだけ舌を出したジノがぺろりと自分の唇をなめる。 その行動に若干身震いをしたカレンが、半歩下がってルルーシュを守るように立ちふさがる。
「やめて、」
両手を若干広げて、ルルーシュをジノの視界に入れまいとするその行動はまるで仔を守る母猫のようだ。 強い意志ながらも、恐怖ゆえか若干下がった眉に、勝てる、とジノは思う。 これ以上ルルーシュにはよれないカレンに一歩近づく。 カレンの身が強張った。
「カレン」
「、」
「カレン」
カレンの身が強張る。肩が跳ねた。
「今の、賢いカレンなら、私の言いたいことがわかるはずだ」
「いやよ、」
「カレンと私では、確実に君が不利なのはわかっているだろう?私はルルーシュが欲しいんだ」
「絶対に渡さないわ!守るって決めたの!」
「でも私はルルーシュが欲しいから、ひきたくない。 でもカレンは絶対にルルーシュを渡したくない。そして私はカレンも中々良いと思っている」
「・・・!」
「なあ、カレン。君ならどういうことかわかるだろう?」
カレンが若干からだの力を抜く。 諦めだった。 その瞳はすっかりと恐怖におびえていて、それはジノを喜ばせた。 しかしそれでも瞳の奥底にはルルーシュを守るのだと、 守るからそうするのだという決意がしっかりと現れていて、同時にジノを苛立たせもした。 ゆっくりと近づく。 左腕をカレンの腰に回した。 その瞬間、一瞬だけルルーシュの髪を梳いた。 身体を硬直させたカレンをほぐすように、ゆっくりと頭のてっぺんから撫ぜるよう手を滑らせて、髪を伝って頬へ落ち着く。 更に滑らせて耳を少しだけむさぼって、固定するようにがっしりと首の後ろを掴んだ。
「っ・・・」
「カレン」
いや、カレンの唇が動いた。 でも、とカレンの瞳に決意が篭る。
「カレン、ルルーシュを、守りたいんだろう?」
カレンの瞳に涙が溜まった。 ゆっくりと頬を伝え落ちて、ジノはそれを唇で吸った。 目を閉じたカレンが眉を寄せた。 毒々しげに言葉を吐く。
「・・・ひきょうよ、」
「卑怯で結構」
腰を引き寄せる。 頭を引き寄せる。 涙が溢れた。 あっけなくジノの懐に収まってしまったカレンは、ただ自分の唇をふさぐこの男の衝動が治まるのを、 後ろのルルーシュを想いながらただ待った。



今度こそ守るって決めたの、ルルーシュ。

2008年10月29日