10 HEARTLESS



1. ミミあり幼女とミミなし少年

最初に目に入ったのは、そのミミ。ついでその黒い髪。そしてゆらゆらとゆれる尻尾。
ミミは先週落ちた。 自分はこれでいいと思っているけれど、さすがに15という年齢で落ちると母が卒倒するので、 ロイドに買ってこさせた猫ミミを装着している。 尻尾は元々短かったから服で隠しているといえばいいし、 ミミは自分の意志で動かないことが難点だが、相手に感情を悟らせないという意味では最適だ。
ふらふらと皇宮を散歩しているはずが、いつの間にかどこかの離宮の庭へ迷いこんでしまっていた。 他の離宮とは違って自然をそのままの状態で保っているようなその庭は、 植えつけられた薔薇や百合のほかに雑草とも取れるような野花まで咲かせていた。 しかし雑草が野林になっているというわけでもなく、丁度いいくらいで手入れされていた。 そしてその中央に、なにやら座り込んで何かをしている少女が。 少女はパステルカラーのドレスを着ており、長い黒髪をしていた。 大きくも小さくも無いミミに、長くて綺麗な細い尻尾。
(ああ、マリアンヌ后妃の第三皇女か)
このブリタニア皇宮において、黒髪を持つ人物は第五后妃マリアンヌ意外に居ない。

音を立てないように近づいて、そっと少女の手元を覗きこむ。 先ほどからずっと編んでいたそれは白と黄色の野花をメインにして作られた花冠で、 三歳という年齢にしてはうますぎるほどの出来具合だった。
「上手いものだね。」
そう素直につぶやいて、慌てて口を噤む。 ハッとびっくりしてシュナイゼルの方を振り返ったルルーシュの顔が心底驚愕に満ちていた。
「っ・・・!?」
「あ、ああ、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。」
目を見開いて呆然としている少女に、慌てて顔の前で手を振る。 どんな幼子でも落ち着きと微笑で応えていたはずが、この少女の前ではなぜか発動しなかった。 なんとか危害を加えるつもりは無いと、ジェスチャーを交えて伝える。

「しゅないぜるでんかは、るるのかあさまにごようですか?」
その言葉に、衝撃を受けた気がした。発音はたどたどしいながらも、きちんとした会話が成立している。 なにより三歳であるのに、敬語も完璧。 シュナイゼルを兄ではなく殿下と呼んだあたりから、 自分とシュナイゼルの位をよくわかっているのだろう、ものすごく頭がいい。 そのきらきらと吸い込むような輝く紫の瞳に吸い寄せられそうになりながら、 シュナイゼルはそっとルルーシュの頭に手を伸ばした。 最初はびくりと身体を強張らせていたルルーシュだったが、シュナイゼルの優しくなでるその体温に酔って、 ミミを手に擦り付けるようにすりすりとした。 その様子を見て思わず鼻血を噴出しそうなくらいKOされたシュナイゼルが、勢いのままにルルーシュを抱き上げる。
ルルーシュ、ルルーシュ。ルルーシュ。
どうして君はルルーシュなんだ!
「ほぁ!?しゅ、しゅないぜるでんか!?」
「私はシュナイゼル、第二皇子でルルのお兄様だよ」
兄様、言ってごらん。 しばらく上を向いたリ下を向いたり、左右をみてあーだとのうー・・・だのとうなっていたルルーシュが俯く。 そしてぽつりと、シュナイゼルの首に腕を回しながらひとこと。
「しゅないぜる、にいさま・・・」

恥ずかしそうにモジモジとつぶやいてる姿を見ながら、ロイドと先週したばかりの会話を思いだす。
『シュナイゼル、戦闘機か、せめて騎士くらいもったらぁ?死んじゃってもしぃらないよぉ?』
『騎士はそろそろ考えてる。戦闘機は運命の相手のようなものだからね、気長に待つさ』
人類はこの地球上において何十億人という数が住んでいるのだから、 遇える確立は何々億分の一だとちゃかすロイドに、この目の前の子を見せてやりたかった。

運命の相手は、こんなにも近くに存在していた。

ああ、私の未来の戦闘機。




2. マッド再来

「う〜〜〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜〜〜あぁぁああ〜〜〜〜〜〜」
「うるさいよ、ロイド」
「うっそ、マジで?何でそんな機嫌いいのシュナイゼル」
教室に入るなり聴こえてきたマッドの甲高い嘆きに顔をしかめる。 やはりわかってしまうのか、この腐れマッド。 ロイドの座っている席の隣の机に鞄を置き、シュナイゼルは椅子に身を滑らせた。
「・・・わかるか?」
「わかるよぉ。今ならたとえ心優しいご老体でも地獄の果てまで虐め倒せるって顔してるもん」
「なんだその不名誉なたとえは」
耳を掴む。ちなみにミミじゃなくて耳のほうだ。両側に引く。引く。引っ張る。 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいたい!とロイドが叫ぶが、気にしない。 離された耳を指でこすりながらも、興味深々なロイドの視線はやまない。 一つため息をついて、シュナイゼルは机に肘を突いてあごを乗せた。
「聞きたいか?」
「聞きたい聞きたい」
「戦闘機を見つけた」
ロイドが固まる。固まる。笑顔のままで固まった。
「え」
「戦闘機を見つけたんだよ、ロイド。私の唯一だ」
誇らしげに笑みを浮かべる。その笑みに事実なのだと悟ると、ロイドは硬直をほぐすようになんとか言葉を紡いだ。
「だって、シュナ、え、昨日の今日」
「そう。私の義妹だよ。ルルーシュというんだ」
しかし、ロイドの努力の甲斐なく、ロイドは再び固まった。 次の瞬間に聞こえた絶叫に、今度はシュナイゼルが固まり、そして頭を抱えたのだ。
「・・・・・・・・・・マリアンヌ皇妃のぉおおおおおおお!?!?」
忘れていた。こいつはマリアンヌ皇妃の大ファンだった。




3. ケーキの箱を手土産に

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ」
「気持ち悪いよ、ロイド」
「だあって」
「気持ち悪いよ」
シュナイゼルの離宮からアリエスまでの道のりを歩く。シュナイゼルは普通に歩いていた。 ロイドは歩きながら踊りながらスキップしながら進んでいる。 片手にはマリアンヌが好きだというモンブランとルルーシュの好きな苺タルトが入った箱を抱えているが、 どれだけ奇抜な動きをしようとも、その箱だけは水平に持ったまま崩さない。 本当はナナリーにも何か用意したかったが、まだ乳児である。 ケーキなんて食べられるはずもない。 ウキウキドキドキワクワクした表情も声音を隠すことなどないとでも言うように、ロイドがくるくると笑った。
「だぁってマリアンヌ皇妃だよ?しかもその皇女殿下だよ? それがシュナイゼルの戦闘機だよ?僕会いたいほうだいお〜〜〜め〜〜〜でぇ〜〜〜とぉおおお〜〜〜〜〜っ!!!!」
「ロイド」
「マリアンヌ様の皇女殿下ねぇええ〜〜〜〜強いんだろうなぁすごいんだろうなぁ早く会いたいなあ マリアンヌ様もルルーシュさまもあいたいなぁあああああ〜〜〜〜っ!だってマリアンヌ様だよ? 元ナイトオブシックスだよ?陛下と同じ名前が身体に出て騎士兼戦闘機になったお方だよ?陛下の! そのまま皇妃になっちゃった人だよ?強いんだよ?その人の娘だよ?あっはぁあああああ〜〜〜っvvv」
なんだこいつは。悪友にいつも以上に危ない香りを感じ、 シュナイゼルは次の瞬間にマリアンヌ皇妃に気をつけるように言っておこうと心に誓った。 そしてルルーシュには触らせない。
「言っておくがロイド、ルルは私の。私の、私の戦闘機だからね。べたべた触ることは禁ずる」
「ええええぇええええ〜〜ぇ?」
へにょりへにょりとロイドが眉と目じりとミミと肩と尻尾をたれさげる。 この様子だと、ロイドは何が何でもルルーシュにお近づきになるつもりなのだろう。 だが、誰がさせるか。にっこりとわらって、
「シュナイゼル・エル・ブリタニアが命ずる」
「・・・・・あーはいはいいえすゆあはいねすシュナイゼルでんかぁーー」




4. 娘さんを僕にください

「初めまして、マリアンヌ皇妃。第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアです」
「まあ、初めまして。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアです」
「実は先日、貴女の長子であるルルーシュと話をする機会がありまして」
「聞きましたわ。とてもよくしてくださったと」
「はい。とっても可愛らしいですね、ルルーシュは。 それでその後我が離宮に戻ったのですが、胸に名前が出たのですよ。HEARTLESSという」
「まあまあまあ」
「私はルルーシュが私の対だと思って伺ったのですけれど」
「あらあらあら。ルルーシュ、ちょっといらっしゃい」
「はい、かあさま」
「ごめんなさいね、ちょっとだけ母様に見せてね」
「へっ?ほわあ!」
(・・・シュナイゼル、外で娘の胸元をこっそり開くなんてマリアンヌ様って大胆だね)
(・・・そうだね)
「あらあらまあまあ。ルルーシュ、名前が出てるじゃないの」
「本当ですか?なんと?」
「HEARTLESSですわ、シュナイゼル殿下。まあルルーシュ、良かったわね」
「へ?ええと、ほぇ?」
「マリアンヌ様・・・いえ、お義母様」
「はい、シュナイゼル君」

「娘さんを僕にください」
「大事にしてやってね」


「・・・・・・・・初めまして、ルルーシュ殿下。見事あの皇子のものになってしまいましたね」
「・・・・・・・・ほぇ?」



5. 母と娘

「私が陛下とお会いしたときは、別に何があるわけでもなかったわ」
「そうなの?」
「そうなの。私はただ陛下のためにナイトオブシックスとして力を奮えることが誇らしかったし、 剣と銃とガニメデさえあればそれでよかったわね。でも陛下はたまにとてもお寂しそうなお顔をなさっていたし・・・ 何でかしら、ドキドキした、というのも違うのだけれど、 どうにかして差し上げたいという思いが強かったように思うわ。
そんな時に、クーデターが起こったの。陛下を皇帝の座から引き摺りおろそうとする輩が起こした、ね。 どうにか守り抜いたわ。そこら一帯血まみれだったけれど、玉座に座る陛下はかすり傷一つなくて、 とっても安心してのを覚えてる。その日からかしら、陛下が私を信頼してくださるようになったのは。
名字でなくてマリアンヌ、と名前で呼んでくださるようになって、私事があって抜けなければならないときも、 こっそりと私にだけは教えてくださった。陛下も信じられないような顔をしていたわ。 何でラウンズと言えど、一騎士でしかない私にこんなに沢山のことを話しているのだろう、と。 思えばあの時、陛下にも私にも、名前は出ていたのね」
「きづかなかったのですか?」
「だって、私も陛下も、名前は背中に出ていたんだもの。 私が任務で負傷して、医者に背中を見せるまでは気づかなかった」
「へいかは?」
「そうね・・・私が負傷した際に、サクリファイスと戦闘機に現れるという名前が出たという話を、陛下にしたの。 後に本人から聞いたのだけど、嫉妬してくださったらしいわ」
「しっと・・・?」
「やきもちよ。そう、あの陛下が」
「へいかは、どうやってかあさまが対だとしったのですか?」
「私が絆を見てしまったの。糸が見えたのよ。 思えば、お互いを認識していない対がどうやって見えたものかと疑問だったけれど、でも見えたの。 私の周りをぐるぐる回る、シルクのリボン見たいな赤ーいとってもきれいなリボンがね。
気になってひいてみたら、陛下が呼んだか?って。私は何も言っていないのに。
だから陛下にご無礼をお許しいただいて、リボンがどこに繋がるかたどってみたの。 私、その時全く先を見ていなくて。ただリボンをたどるのに必死だったから・・・ そしたら、わたし陛下の胸に手を置いてしまっていて、すっごく焦ったわ。 ふふ、今思うと笑っちゃうわ、だってその時ほんっとうに焦ったのよ? 陛下のお体に何の許しもなく触れるだなんて!って。
それで、その意味を考えたら、とっても恥ずかしくなって、同時に嬉しくて、誇らしくて、陛下を見上げて、笑ったの。 許しを得るでもなく、陛下の手を取って、リボンのある、私の胸の中心にあてて、私は陛下の胸の中心に手を当てて。 許しを請うたわ。『陛下、私を陛下の戦闘機にしてください』って。 そしたら陛下も見えたのかしら、私達の周りを取り巻くリボンに目をやって、 その始まりであるお互いの胸の中心を見遣って、抱きしめてくださったの。
とっても恥ずかしかったわ、あの時は。ううん、あの時は恥ずかしくなかったけど、今は恥ずかしいわ。 ホント、絶対に話さないってきめてたのに」
「え、でも今」
「そうなのよ、だってルルーシュが自分のサクリファイスを見つけたのよ?嬉しいじゃない、嬉しいのよ。 私はサクリファイスよりも戦闘機の方が好き。戦闘機は危ないけれど、でも自分の娘が自分と同じ戦闘機だなんて。 対を見つけただなんて、嬉しいのよ。だから話しちゃうわ」
「・・・なんではずかしいんですか?」
「だって、だって陛下、私を抱きしめてくださったときに、・・・ああもうどうしようかしら、陛下の所為だわ。 『お前は私の物だ、マリアンヌ』って言ってくださったの。 あの時は嬉しかったけれど、今思うとなんて恥ずかしいこと言ったのかしら、あの人」
「か、かあさま・・・」
「ね、わかる?ルルーシュ。今はまだシュナイゼル殿下のこと、全然わからないかもしれないわ。 ただたんに優しくて好きなおにいちゃんかもしれない。でも名前が出たのよ。運命なの。 唯一なのよ、ルルーシュ。きっと、シュナイゼル君のこと世界で一番大好きになるわ。 だって私も、ルルーシュとナナリーのこと世界で一番大好きだけど、陛下のことは世界で一番愛してるもの。 ルルーシュとナナリーは世界で一番の二番目に愛してるの。 サクリファイスと戦闘機って、そういうものよ。お互いで一つなの、ルルーシュ」
「おたがいで、一つ・・・」
「そう。ゆっくりと愛していけばいいわ。ゆっくりと、愛されていけばいいわ。 貴女はシュナイゼルというサクリファイスの、唯一の戦闘機だもの」




6. サクリファイスと戦闘機、夫と妻、父と母

「シュナイゼルとルルーシュに、同じ名前が出たそうだな、マリアンヌ」
「ええ、陛下。HEARTLESSという名が、胸に。シュナイゼル殿下は胸に横並びに、ルルーシュは縦に名前が」
「名の意味するところは、まだわからんか」
「ええ、けれどきっとすぐにわかることでしょう。対ですから」
「対だから、な」
胸にそっと手を置いて、凭れた。ゆっくりと抱きしめられる。結婚して、四年。名前が出てから五年がたった。 きっと数多くいる皇妃の中でも、この人の膝に座らせていただけるなんて私だけなんだろう。 そう思うとやっぱり嬉しくて誇らしくて、マリアンヌは一層シャルルに擦り寄った。 年の差だとか、身分の差だとか、そういうのは二人には関係ないのだ。 だって、お互いが唯一の運命だと知ってしまったのだから、遠慮なんて必要なくなってしまった。 身篭って、騎士としての役目は終えてしまった。 戦闘機として戦うことももうあまりないけれど、でもその関係は終わった事はなかった。名前もずっと背中にある。
「本当は、ずっと不安だったんです。ルルーシュは、あの子は優しすぎる。 一つのものを愛せない・・・全てを愛したまま育ってしまうのではないかと、心配で」
「だが、サクリファイスが現れた」
「ええ、そうですね」
「私はどちらかというと、ルルーシュのミミが消えた時、 その相手が兄であるシュナイゼルの可能性が高いだろうという事実の方が怖い」
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・目を瞑れますわ、禁断の愛くらい」
「・・・・・・・・・そうだな、子を成すまでに至らなければな」

うふふ。
ははは。
だいじょーぶだいじょーぶ




7. DEBUT

「兄様」
「ルルーシュ」

「私、八歳になりました。あの日から五年・・・お待たせしてしまって、ごめんなさい」
「ルルーシュ」
「私、サクリファイスも、戦闘機もよくわからなくって。でも、もうわかるんです。 私が、兄様とずっと一緒にいたいって心がいうのが、わかるんです。 きらきらした糸が私と兄様をとりまくのも、見えるんです。・・・お待たせしました。 ごめんなさい、兄様は、ずっと私を待っていてくださっていたのに」
「ルルーシュ、」
「私を戦闘機にしてください。シュナイゼル兄様・・・私の、サクリファイス」

「もちろんだよルルーシュ、待ち草臥れた。私は、この日だけをずっとずっと待っていた」




8. 12才と24歳

「これはスペルによる闘争であることを宣下する」
「受けて立つ!」
目の前の男女のパートナーが激昂する。体躯のいいその男が女を守るように立っている辺り、戦闘機なのだろう。 その顔を真っ赤にする激昂の仕方がなんともおかしくて、ルルーシュは苦笑した。そして考える。 こういう輩は、自分は絶対に強いと思い込んでいる。だからルルーシュがオートで闘争に臨めば、必ず憤るだろう。 その絶望が目に見えておかしくて、思わずルルーシュは後ろのシュナイゼルを振り返った。 シュナイゼルが必死に笑いを抑えている。 周りからして見れば優しい微笑にしか見えないのだろうが、ルルーシュにはわかる。 明らかに声を大にして笑いながら嘲たいのに、後の絶望を見たいがために我慢しているのだ。 死よりも恐ろしい絶望を、シュナイゼルはこの男に対して望んでいる。 戦闘機であるルルーシュは、それに応えるだけだ。
「こちらはオートで行かせてもらう」
「なんだと!!??」
「オート!?」
予想通り相手が激昂してくれる。今度はそれを完全に無視して、システムを展開するべく名を紡いだ。
「こちらはHEARTLESS。意味は『心なき者』。敵への愛はなく、慈悲もなく、哀れみも無い。 敗者であるお前達への感慨も有りはしない」
「な・・・!!」
「戦闘システム、展開」
一瞬でまばゆい光がルルーシュとシュナイゼルを包む。 次の瞬間には自身をあざ笑うかの様に見下している二人を見て、男は憤った。 「バカにしやがってっ・・・おい、展開だ!」
「わかってる!」
「俺達の名はRESTLESS!休むことを知らない熾烈さだ!」
「それは熾烈とは言わない。自身の身体を省みないのはバカのすることだ」
「な!!!」
語った名の意味を聞けば、バカらしいことこの上無い。すぐさま否定してやると、もう怒った! とばかりに男は今まで以上に―――今までも十分過ぎるくらい怒っていたが―――怒りを見せた。 すぐさま風の刃を何度も繰り出す。それを一言でもって防ぐと、ルルーシュは後ろに居るシュナイゼルを仰ぎ見た。
「兄様」
「ハエがうるさいね、ルルーシュ。一分でやりなさい」
「はい、シュナイゼル兄様」
そして貴方に、勝利のキスを




9. 苺プリンの重要性

宣言どおり一分以内で勝利を収めたルルーシュは、現在シュナイゼルと手をつないでいた。 目的地はアスプルンド邸。今回の目的はちょっと庶民チックな苺プリンだ。
「ルルーシュ、陛下は私を今度エリア15の総督にするそうだよ」
「じゃあ私は副総督ですか?」
「いや、今回は総督補佐をしてもらいたいんだ。実力主義といっても、子どもが副総督なんじゃ示しがつかないからね」
「わかりました」
程なくすると、レンガ造りの美しい邸が見えてきた。アスプルンド邸だ。 チャイムを鳴らして名前を告げると、すぐさまメイドがドアを開ける。 ロイドの部屋まで案内されると、 中にはぐるぐる回るローラーつきの椅子に座っていたロイドがコーヒーをすすっていた。
「あぁあれれぇええ〜〜〜〜?僕は戦闘機さんだけお呼びしただけなんだけどなぁ? サクリファイスさんはお帰りいただきたいんだけどなぁ」
「あいにくだがロイド、私は最愛の妹をお前のようなマッドの所に預けるほ酔狂ではないよ」
ルルーシュは知らないことだが、ひそかにロイドはルルーシュのことを狙っている。 プリン好きという共通点があるため、それを理由にルルーシュを自宅に招くこともある。 しかしそれは必ずといっていいほどシュナイゼルが同伴していて、 シュナイゼルがどうしてもいけないときは側近であるカノンがついていた。 ルルーシュはすでに紅茶を飲みながら一人苺プリンを堪能している。かわいい。

「どう?戦闘機ちゃんは」
「かわいいよ。そして何より、強い」
「あ、やっぱりぃ?絶対強いと思ってたんだあの子、罵倒語のボキャブラリー豊富そうじゃない?」
「ははは、ロイド殴るよ?」
「かーんべーん」

戦闘機を巡る、マッドとサクリファイスの戦い




10. リトルナイト

「騎士もつけず、あんな幼い少女が護衛だなど・・・シュナイゼル総督は何をお考えか」
「さあ・・・?貴族の女共がシュナイゼル殿下は『そういう嗜好』もちだと噂していたのを聞いたことはあるが」
一列に敬礼をしながらも、ひそひそと話すことは止めない。何せ自分達は末端の末端なのだ。ばれることはあまりない。 視線の先には、先頭きって歩くシュナイゼルと、そのシュナイゼルと手を繋いで歩いているルルーシュがいる。 仲良くおしゃべりをしながら悠々と軍人達の間を練り歩く二人に、一部の軍人達は下種な発言しかしない。 何でかって、今回このエリア15の総督に就任することになったシュナイゼルは、 護衛らしい護衛は一人もつけてこなかったのだ。 来たのは義妹である第三皇女ルルーシュと、側近であるカノンやその他仕事関係で管轄下においている人間だけ。 皇族の中では今もっと次代皇帝の有力候補と言われているだけに、これだけ身を守る人間がいないのはおかしかった。
「何でも、ともに来たルルーシュ皇女殿下はシュナイゼル殿下の戦闘機らしい」
「お強いのか?」
「さあ?でもまだ12歳だぞ」
そのまましばらくしていると、シュナイゼルとルルーシュが向かった方向がなにやら騒がしい。 まさか刺客かと思い、軍人達が一気に隊列を崩して二人の方へ向かった。 見れば、末端兵の一人がナイフを持ちながら突進していた。しかし、それはカノンが取り押さえる。 杞憂だったか、と思った矢先、捉えた男の後ろから銃を持った軍人が出てきた。反応しきれなかったカノンが叫ぶ。
「殿下!」
「―――うるさい」
一瞬、何が起きたのかはわからなかった。 男がはなった弾ははじき返される。何が起こったのか自分でも理解していないおとこが、慌てたように再び銃を構える。 しかし、引き金を引いても弾はシュナイゼルにはあたらない。 ―――ルルーシュが防いでいたから。
「目には見えない空気の壁。侵入は許さない。それが人でも、弾丸でも」
静かに、唱えるようにルルーシュが目を伏せる。 口から紡ぎだされた言葉は目に見えない結界のようなものがシュナイゼルとルルーシュを覆っていた。
「・・・ここから、離れたい。風よ、そのままこの・・・どうしよう、兄様」
スペルを唱えていたはずのルルーシュが、困ったようにシュナイゼルを見上げた。 それを見たシュナイゼルが、にこりとルルーシュに微笑む。
「ゴリラでいいんじゃないかな」
「そうですね。じゃあ、このゴリラみたいな軍人を、独房まで飛ばしたい。 心地よさはいらない。台風ぐらいの強さで」
スペルを唱え終わった瞬間に、男の体がどこかへ消える。シュナイゼルがにこりと笑って振り向く。
「私が護衛をつけてこなかった意味をわかってくれたかな?」
アルカイックスマイルでこちらを向く。会話を聞かれていたのだと悟って、慌てて回りの人間と跪いた。
「い、イエス、ユアハイネス!」
「申し訳ありませんでした!」
「構わないよ。なれてるしね」
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、まさしくシュナイゼルの護衛代わりとして認められた瞬間だった。




拍手再録2。この二人かわゆす。King of Messiahのくくりに入れようかと思ったけど、 これはこれで別物なので断念。

2008年12月21日