「ルルーシュ?」
唐突にC.C.を押し倒し、ほかに何をするわけでもなく、
ただ何度も首筋の同じ場所に華を咲かせ続ける男の髪を、C.C.は掬っては落とした。
彼と、全く同じことをやった昔の契約者を、思い浮かべながら。
いかないで、ウェンディ
この男が何をやっているのかは、大体検討がつく。
はぁ、と多大な呆れと莫大な愛情に溜息がこぼれ出て、C.C.は思わずルルーシュの頭をぺしりと叩いた。
「馬鹿が、」
「・・・ああ、そうだな・・・」
C.C.の首から唇を離したルルーシュが、両手でC.C.の頬を包んで笑った。
キスされる?どんとこい。受け入れてやるよ、共犯者。けれど、決してお前の恋人にはなってやらない。
そう意図を込めて睨みつけると、ルルーシュがふっと息を吐いた。
「お前は、何をしても、俺の物には、ならないんだな・・・」
自嘲気味に笑いをこぼしたルルーシュの呟きに、ああやはりとC.C.は目を伏せた。同じ事を言っている。この、男。
愛をこめたキスマークでさえ、C.C.の身体は異物と判断し、その鬱血の後を綺麗さっぱり消し去ってしまうのだ。
外傷として血を流しているわけでもない、小さな小さな内出血は、唇を離したその数秒後にはすうっと溶け、
消え、そして元の真っ白な肌をさらけ出す。
自分を、酷く傲慢な男だと、ルルーシュは思う。
C.C.の、傷を負ってもすぐに再生する体を、死しても蘇生できるC.C.の身体を、便利だと思う。
不老不死が不便で、一生涯続く地獄だというのは経験したことがないからなんとなくでしか想像できないけれど、それでも。
若々しい美しさの中に、何百年も行き続けて来た強靭な精神が眠っているのだ。それはなんと高貴で、美しく、
ルルーシュを魅了するものだろう。
ルルーシュは、強い物に憧れるけれど、決してそれは肉体的な強さではなかった。
ルルーシュはむしろ、どんな逆境にあっても強く強く在れるような、精神的な強さがほしかった。
それこそ、C.C.の持ちえているような。
C.C.はルルーシュが初めて作った『共犯者』であり、全てを共有する『相棒』であるから、
彼女が死なないことはたとえ酷いと言われようとも喜ばしいことだった。
C.C.は何時も怪我を負うのではなく、ルルーシュの代わりに怪我を背負うのだから、
そんなC.C.が絶対に死なないのは、ルルーシュからしてみれば甘受して喜ぶべきことではあれど、嘆くことではないのだ。
死ねない体で憂うC.C.を思って憂うことはあれども。
だというのに、こういうときだけ彼女の不死の身体を恨めしいと思うのだ。
こうして自分が与えたいと思う、一種の愛の形すらを簡単に消し去ってしまうこの身体。
きっとどれだけ強く吸い上げても数秒すれば消え去って、ルルーシュをその肌の白さでもってあざ笑うのだ。
手に入れようと思うなど、百年早い、と。
C.C.の不老不死を、羨ましいとは思わない。今のこの世では酷く喜ばしいことだとは思うけれど。
そしてその喜ばしいことが恨めしい、と思うときこそ、ルルーシュは自分を酷く傲慢で、身勝手で、
自分のことしか考えられないような人間だと実感させられるのだ。
「なぁ、・・・C.C.、」
もう失わないと決めたのだ。
それは彼女が物知れぬ奴隷に逆戻りしたときの記憶から来る決意であり、誓いであり。
繋ぎとめておくためには何でもしようと決めたからこそ、血では跡を残せないからこそ、
ルルーシュには約束こそが、C.C.を繋ぎとめておける最終手段、最高の、愛情では無いかと、思いたいのだ。
「おれは、ピーターパンには、ならないから」
だからネバーランドにいかないで、ウェンディ