拍手再録



不思議non恋愛カップル×2



2. おめでとうこの色男!(嫌味


羽ペンにインクをつけて、さらさらと書面にサインをしようとした手を、後ろから白くほっそりとした手が止めた。皺の刻まれた手からペンを抜き取り、さっとペン立てに戻してしまった。その拍子にペン先についていたインクが紙の上に跳ねたものだから、シャルルは未だ背中に抱きつくような状態で微笑んでいる相手をにらみつける。
「・・・ルルーシュ」
「おはよう、シャルル。久しぶりだな」
「なぁにが『おはよう、シャルル』だ。一ヶ月も連絡をよこさなかった奴が良く言う」
「だから言ったじゃないか『久しぶり』って」
コロコロと笑ったルルーシュは、そのまま先ほどのペンにインクをつけて、シャルルが今まさに書こうとしていた紙をひっくりかえして裏面に絵を描き始めた。器用に可愛らしい、デフォルメされた長髪の猫を描いたルルーシュはさらにふきだしも付け加え、『ひさしぶり、しゃるる!』と書き込む。
「ルルーシュ・・・書類に絵を描くなといつもいっているではないか」
「皇帝陛下がケチケチするな」
「・・・それで?何故お前が執務室にいるのだ?」
「シャルルに早く会いたかったから」
もちろん、それは冗談を含めた本心だ。どれだけ憎まれ口をたたこうと、いつだってシャルルはこの美しき共犯者のために時間を作るのだから、会いたいのであれば手っ取り早く電話でもすればいい。そうしなかったのは、別の理由があるからなのだろう。
「で、本当の所は?」
「うそじゃないさ。ほら、お前にアップルパイだ」
「・・・珍しい・・・」
「なんだ、いらないのか?」
「いるに決まっておるだろう」
「じゃあどうぞ」
しかもこの共犯者は、料理が果てしなく美味い。皇帝専用のコックももちろん美味いが、毒見を通すためにほんの少し冷めていることが多い。しかもブリタニア皇帝らしくブリタニア食ばかり。もちろん他の国の料理も食べはするが、エリア化してしまった国の料理はほとんどお目にかかれない。好き嫌いがあまりないシャルルにとって、ルルーシュの作る料理はバリエーションがあって最高だった。特にこの三時のおやつ。
「もうきってある。皿はこれ。あと紅茶」
「・・・何故そんなに機嫌が?」
「おめでとう、といいに来たからだよ、シャルル」
「おめでとう?」
「まぁた結婚だろう?今度は誰だ?公爵家の娘か。それとも大臣?」
「・・・いいや」
今までの皇妃は全員が政略結婚のため、ルルーシュの『おめでとう』は棘のあるものが多い。それを否定したシャルルの、ちょっとばかり高調した機嫌に眉を顰めて、ルルーシュは首をかしげた。
「・・・シャルル?」
「・・・。」
「・・・シャルル」
「・・・政略結婚ではない」
「へ」
「マリアンヌ・ランペルージ。第三世代のKMF、ガニメデを駆る騎士侯だ。・・・庶民上がりの」
顔をそらしてぼそぼそと喋ったシャルルの横顔を見て、少しだけルルーシュは固まった。耳が赤い。シャルルの共犯者:L.L.として連れ添ってもう二十年近くがたつけれど、こんなことは今まで一度としてなかった。執務室の机に積まれている書類の一番上に、マリアンヌに関する報告書を見つけて、ルルーシュはそれを上から順に読んでいった。

未だ顔をそらしたままのシャルルの目の前まで回って、ルルーシュはそのままスカートの型が崩れるのも気にせずに膝に乗り上げた。思いっきり抱きしめる。
「・・・おめでとう、シャルル。本当に」
「ルルーシュ」
「お前が嬉しいのは、素直に俺も嬉しい。おめでとう。今度の皇妃は、絶対俺も好きになれる」
抱きしめるついでに、フォークでぶっさしたアップルパイを口につっこんでやった。





3. おめでとう男女。(嫌味

「聞いたぞ、マリアンヌ。結婚だそうじゃないか」
「あらC.C.、久しぶり」
「久しぶりだな、マリアンヌ。まさかお前に嫁の貰い手あるなんて思わなかったよ」
「それはどうもありがとう。こんな男女でも、好きになってくれる殿方はいるものなのねぇ」
うそだ。マリアンヌは決して男女なんかではなかった。むしろ女よりも女らしい、けれど男よりも男らしい、そういう美女だった。それをC.C.もわかっているから、もうやめる。
「それで?次からお前は誰になるんだ?マリアンヌ・ランペルージ」
「名前は少し長くなってしまうの。初めまして、来月からマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアよ」
「・・・ほほーう」
お前もやるな、マリアンヌ。そういいながらニヤニヤするC.C.に笑って、マリアンヌは紅茶に口をつけた。クッキーを一つとってC.C.に食べさせてやる。
「陛下を守る側から支える側に変わっただけよ。愛と忠誠は何も変わらない」
「そうだな、それに何よりお似合いだ」
「あら、そう見える?」
「私にはな」
その含みを持たせた言い方に、マリアンヌが少しだけ唇に指を当てて考える。もしかして。
「・・・・・ギアス?」
「ザッツライト。お前と同じギアス持ちだよ、あの男は」
「知ってるの?」
「私のむかーーーーーしの共犯者が、いまや私と同じ存在なんだ。皇帝と契約してる」
「まぁ。なんてお名前かしら」
「L.L.だ。もっとも、アイツは昔の名を気に入っているからな。気に入った人間にはルルーシュと人に呼ばせてる」
「ふぅん。仲良くなれるかしら」
「なれるんじゃないか。お前達はどこかしら似ているから」
「本当に?いいわねぇ」

「ていうか、お前騎士やめるのか?」
「ううん、身篭るまでは戦場に出てくれて構わないって。むしろ出ろって」
「なるほど、さすが皇帝陛下だな」





4. 魔女の密会


「・・・久しぶりだな、C.C.」
「久しぶり、だ。ルルーシュ」
「飲むか?紅茶」
「ああ」
「何年ぶりだ?」
「八年だな。」
「そうか」
「これからはしょっちゅう顔をあわせることになるだろうがな」
「・・・なんだ、それ」
「お前のところの契約者、あのブリタニア皇帝だろう?」
「ああ。もう・・・二十年近い、かな?」
「物好きめ」
「世界の均衡が人目でわかるんだぞ?楽しいんだ」
「そうか」
「で?それがなんだ?」
「来月結婚するそうじゃないか」
「ああ。庶民上がりの騎士侯と、な。シャルルの初の政略じゃない結婚だから。・・・きっと俺も、その皇妃を好きになる」
「そうか」
「それがどうかしたのか?」
「んー?やっぱり、お前と私と、顔をあわせるのが日課になりそうだからだ」
「・・・・・まさか」
「そのまさかだ」
「・・・マリアンヌ・ランペルージは、ギアスユーザーか。それもお前の。」
「正解だ」
「へぇ・・なんのギアスだ?」
「未来予知」
「なるほど、面白い。未来予知と記憶改竄。使いようによっては最強だな」
「これからよろしく、元共犯者殿」
「一世紀ぶりの共犯ね。悪くないな」




5. おじさんと少女が一緒に寝てる

「しゃしゃしゃしゃしゃるる!!」
「・・・・・・・・・・なんだ、ルルーシュ」
目にも鮮やかな真っ白なネグリジェを身に纏ったルルーシュが、バン!と大きな音を立ててシャルルの寝室のドアを開け放った。ああ相変わらず美しいな、なんてどこか遠くで思いながら、シャルルはやっとのことで返事を返した。ルルーシュ、しゃしゃしゃしゃしゃるるってなんだ。
シャルルの返事にくしゃりとその美貌をゆがめ、泣きそうになりながらルルーシュは胸元に抱えていたうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
「緊張して眠れない!!」

「・・・・・・・とりあえずルルーシュ、式は来週だ」


シャルル専用の超キングサイズベッドにいそいそと滑り込みながら、ルルーシュはことのいきさつを話した。というか、誰もいないからいいものの、皇帝陛下の寝室で十代半ばの少女が一緒に寝てるってどういうことだ。
「落ち着け、ルルーシュ」
「だ、だって、やっぱり私は新郎付添い人なのか?ああ、でもお前は新婚じゃないのか?いやでも、マリアンヌとは新婚だものな?スピーチはすべきか。シャルルくん、マリアンヌさん、どうか幸せな日々を・・ってだめだ!披露宴はしないか!」
「落ち着け」
「シャルルが誓いの『I do.(アイ・ドゥー)』を『井戸』っていっちゃったらどうしよう!!」
「・・・・・。落ち着け」
「ペンを落としたりでもしたら!宣誓書にsを忘れてシャルルじゃなくてチャルレって書いたらどうしよう!!!わ、私はそんなことになったら・・っ」
「落ち着けといっているのに」
「おいまてシャルル、お前しろを着るのか?だめだ、お前しろなんか似合わないのに!!!」
「・・・皇帝服だ」
「ああそうか!でもマリーはウェディングドレスなんだろう?Aラインか?プリンセスか?マーメイドか?それともまさかのミニスカ!?ベールは長いのか?ひきずったらよごれるんじゃないか?どう思うシャルル」
「・・・私は知らん。ミニスカではないことだけは確かだ」
「そうか!私も着たい!」
「どこぞの男と結婚でもすればいいだろう?というか、もう結婚する年でもないだろうに」
「うるさいうるさい!何百年たとうと私が18で時を止めたことには変わりないんだからな!?ドレスに憧れをもって何が悪い、45で12人の子持ちが・・・!」
「子孫繁栄を考えている人間になんてことを・・!」
「ただの女好きがいっぱしの口を利くな!半世紀も生きていないくせに!」
「な・・・っ」
「・・・っ、ドレスといえば!!どうしようシャルル、私ドレスなんてもってない!」
「は?何着とあるだろう?」
「ばかかお前!お前とマリーの結婚式に、そんな古臭いものを着てたまるか!どうしよう、どうしよう、どうしよう、白は禁色だし、紫はセオリーどおりすぎて芸がないか!?」
「私の式に芸を求めるな」
「シャ、シャルル!」
「なんだ、ルルーシュ」
「ビスマルクを貸せ!明日にでも日本に行って来る!」
「日本?」
「着物だ!時代は着物だ!」

そうとなったら明日は早い!寝るぞ!といって、ルルーシュはシャルルを起こしていたのは自分なのにも関わらずぼすんと枕にうずまると、ぎゅうとぬいぐるみをもう一度抱えて眠りについた。時間わずか3秒。



6. 暴走

「ルルーシュ嬢・・・」
「なんだ、ビスマルク」
目の前の美女をちらちらと伺いながら、ビスマルクは遠慮がちに声をかけた。なんで、ナイトオブワンである自分が、皇帝ではなく、このような・・・ひどく美しい、少女の護衛をしているのか。それ以前に、なんでここにいるのか。
「かれこれ数時間、この香港空港にいるのですが・・・」
「黙っていろ。京都に行くか東京にいくか迷ってるんだ」
「はぁ・・・」
そんな事で。そんな事で、
「あの」
「なんだ」
「あの、陛下とのご関係は?」
「・・・・・・・・・・。聞いてないのか」
「はい」
「安心しろ。愛人じゃない。未来の皇妃さまでもないぞ」
「・・・は」



「・・・あの」
「なんだ、ビスマルク」
「着物は、良くも悪くも目立つと思うのですが」
「・・・・・・・・・」



時期は覚えていませんが、拍手再録。丁度L.L.ネタが熱かった時です。

2013年9月22日(初出不明)