ルルーシュがバレンタインにチョコレートを作り始めたのは小学校四年の頃だった。 その時既にルルーシュは物事を達観していて、日本のバレンタイン文化に対して鼻で笑っているような女の子だった。 それが少しだけ変わったのが、友達の一人にチョコレートを作ってくることを強要された四年のまだまだ寒い春。 その年バレンタインは丁度学校最後の日、金曜日で、 特にチョコレートの持ち込み禁止令も無かった学校はドキドキしている女の子と、ソワソワしている男の子達で溢れかえった。 何の変哲もない真っ白な紙袋に大量のチョコレートを詰め込んでその日学校にやってきたルルーシュのチョコレートは、美味しくて。 男子はすっかりルルーシュのチョコだけに夢中になったし、 女子はほのめかした側であるくせに、ルルーシュがチョコレートを持ってきた事を恨んだ。 スザクもこっそりもらえたそのチョコレートは、他の男子が持っているやつとはほんの少し違っていて、 子供心に少しドキドキしたのを覚えている。 本命じゃないのは明らかだった。 少しだけ違う包装、スザク好みの甘さ加減。 これだけの要素があってもこれは本命じゃなかった。 本命にしては、酷く恥ずかしがりやなルルーシュは平然と渡しすぎていた。 けれどスザクにとって、ほんの少し華やかなラッピングと甘めのチョコレートはまるで ルルーシュのスザクへの愛を示しているようでもあったから嬉しかった。ドキドキした。 来年ももらえるかと期待した。

小学校五年のバレンタイン。 去年の甘美が忘れられない男子はこぞってルルーシュのチョコレートに期待した。 それとなく仄めかして止めさせたかった女子は、男子の猛抗議によって黙らざるを得なかった。 その年も仕方がなくルルーシュはチョコレートを作り、持ってきて、 そして皆が騒いでいる間にこっそりとまたスザクにくれた。 ピンク色をしていた去年のそれはオレンジ色に変わっていた。

小学校六年のバレンタイン。 小学校最後の年。さすがに焦りを見せた女子達はルルーシュに話しかけた。 元々自分から意気揚々と作ってきていたわけじゃないルルーシュは、一にも二もなく頷いた。 女子達が頑張ってきたその日、去年とは少しだけ違う騒がしさの中、 またこっそりとルルーシュは、スザクにだけチョコレートを手渡した。 その年は赤色だった。


中学に上がって、スザクは少しずつ落ち着きというものを得、そして人気を得るようになった。 沢山の女子からチョコレートをもらった。 人好きのする笑みと態度で受け入れ、受け取った。 何かが変わっても変わらずルルーシュはチョコレートをくれ続けた。 スザクもルルーシュからのチョコレートだけは受け取った。 中学一年のバレンタインは薄ピンクだった。

中学二年はマゼンタだった。

中学三年はオレンジ色に近い黄色だった。


高校に上がり、やっぱりルルーシュはチョコレートをくれた。 高校一年は目にも鮮やかなオレンジだった。 この年から違和感を感じた。

高校二年、その年のチョコレートはなんだか少しだけ違った。 バレンタインの前日、ルルーシュの家に呼ばれたスザクは、 キッチンでチョコレートを作っていたルルーシュの味見を任せられた。 ほんの少しだけスプーンに掬われたそれは、スザクの好みよりも少し苦めで、思わず眉を顰めてしまった。 その表情を見たルルーシュが、不味いのかと不安になったけれど、美味しいと応えることでそれは避けた。 次の日の当日、スザクはさらに違和感を覚えた。 その年の包装のリボンは、赤とピンクの二本をあわせた物だった。 はさみを使ってくるくるとリボンの端を巻いて、それを今までとは違って、 人前では無いけれど堂々と渡してきたルルーシュに。 中身のチョコレートは、今までとは違うハート型だった。 そして味見したときのとは全然違う、きちんとスザク好みの甘さのそれに、 スザクはいつの間にか姿を消したルルーシュを探して駆け出した。


夕日が差し込み、ルルーシュの白い肌をオレンジ色に染め上げる時間、スザクは一階の音楽室付近でルルーシュを見つけた。 ただまっすぐに窓の外を見つめるルルーシュがなんだか気になって、後ろからそっとスザクは近づいた。 ルルーシュは胸にチョコレートを抱いていた。 茶色い包装に控えめな桃色。けれど所々に白が挿してあるそれは、明らかにスザクがもらった物とは違っていた。 それにドキリとした瞬間、ルルーシュの細い体が跳ねた。 一瞬ばれたのかと思ったけれど、誤解だった。 ルルーシュの前にあった窓が開いたのだ。 逆行によって見えなかったその顔をみた瞬間、ルルーシュの表情が和らいだ。

唐突に泣きたくなって駆け出した。
ずっと本命じゃないのはわかっていた。けれど一番特別だと思っていた。



was mine.



心の奥底で、いつか本命になれると願っていた

2009年2月14日