The Irony of Romeo and Juliet
2. scarlet declaration
騎士を拝命して一週間後、ようやくスザクは学園に顔を現した。
放課後の生徒会室に入るなり、他のメンバーたちより賞賛と祝いの言葉が贈られる。
それに愛想良くありがとう、と微笑み返し、そしてきょろきょろと何かを探す。
ルルーシュなら所用で出掛けたとリヴァルが言えば、そう、とあからさまに落胆に肩が下がった。何様のつもりだ。
会長のミレイは理事長である祖父に呼び出されているらしく、ここにはいない。
スザク君も来たことだし、とシャーリーはリヴァルを引き連れて、奥の部屋にケーキと紅茶の準備をしに行ってしまった。
所在無さげにうろうろと生徒会室を彷徨ったスザクは、結局手を伸ばしたアーサーにひっかかれて席に着いた。
カレンのペンを動かす音だけが室内に響く。スザクはこちらを見ていた。祝うとでも思っているのか。
「・・・おはよう、カレン」
「おはよう、スザク」
その場凌ぎか、単なる静寂を破るためか、最早朝でもないというのにスザクは少し口ごもりながらカレンに挨拶をする。
それに顔を上げずそっけなく答えて、カレンはペンを走らせ続けた。
これと、これと、あとこの束も今日中に終わらせてしまいたい。
彼女の負担を減らしたいのだから、これくらいはして然るべきだ。
「あ・・・ルルーシュの所用って、なんだろうね?」
「さあ」
何故お前が気にするんだ?枢木スザク。
そんな理由はわかりきったことだったけれど、カレンは心の中ででもそう問いかけずにはいられなかった。
「あ、何か頼まれてるとか?重い物じゃなかったらいいけど、そうだったら迎えに行ったほうがいいよね?」
ルルーシュに会いに行く理由を見つけ、スザクがぱっと顔を輝かせた。何故お前がそんな表情をする。
独り言のように紡がれ続ける言葉の羅列。
今の彼女にとってそれらは猛毒にしか成り得ないというのに、この男はそれを理解しているのだろうか。
ああ苛立たしい。
「あっでも僕、ルルーシュがどこにいるか知らないや・・・カレン、知らない?」
「知ってる」
スザクの疑問に率直答えれば、案の定表情が喜色にそまる。気持ち悪い。
「本当?じゃあ・・・」
「でも、教えない」
今度は顔を上げてそういえば、何を言われたのか理解できないようにぱちぱちとスザクが目を瞬かせる。
視線を合わせ、手にしていたペンもテーブルに置けば、スザクが困ったように眉を垂れた。
「なんで?」
「なんでだと思う?」
謎解きのように、質問を質問で返されて、スザクの目に険しさが潜み始める。
ああ、お前はそうやって彼女を睨んでいたのか。枢木スザク。
にやりと笑ってスザクを見れば、彼がテーブルに少し身を乗り出す。
あのね、と子どもを諭すような言葉から始められて、
カレンはこのまま脳天にナイフを突き刺してやろうか、そう考えた。
「僕は今、ルルーシュに会いたいんだ。それにもし彼女が何か用事を頼まれていて、
しかもそれが重い物だったら、僕が持ってあげなきゃいけないでしょ?
ルルーシュは女の子なんだし、弱いんだから・・・」
「別にスザクがそれをしなくてもいいんじゃない?」
だから教えて。そう続けようとしたスザクの言葉を遮って、カレンはその手を突っぱねた。
話の途中だったのに、と眉間に皺を寄せたスザクが、カレンに剣呑な視線を向ける。
ルルーシュが来たならば瞬時に引っ込められるのであろうそれに、カレンは嘲笑った。
「ルルーシュに関係ないスザクが、なんでわざわざルルーシュを迎えに行くんだ?
しかも重い物を持ってたって、『スザクが持ってあげなきゃいけない』理由にはならないし。」
「・・・なんで?僕はルルーシュの幼馴染だし、それに」
「『ルルーシュを好きだから』?いい加減に分かれよ、枢木スザク。お前は手を退くべきだ」
精々第四皇女でも守っていろ。彼女は、ルルーシュは、俺が、俺こそが。
「ルルーシュは俺が守るからさ」
ざまあみろ。