The Irony of Romeo and Juliet
03. Tango Romeo Alfa India Tango Oscar Romeo
スザクががたりと音を立て、椅子を若干後ろに下げる。
ああ、立ち上がって俺に何かするんだろうな、と悟りつつも、カレンが微動だにすることはない。
スザクが呪いを吐き出そうとしたところでシュンと自動扉が開き、
疲れを吐き出すように髪をかきあげながら入ってきた彼女に、スザクが瞬時に表情を和らげて立ち上がる。
カレンは既に立ち上がり、終わった書類を一まとめにしてからルルーシュに向かって歩いていった。
「ルルーシュ!」
「あ?ああ、来てたのか、スザク。騎士就任おめでとう・・・・カレン」
「何?」
「これなんだけど」
スザクが固まる。なんだこれは。なんだこれは。
ルルーシュの名前を愛しそうに紡ぎ、駆け寄ろうとしたけれど、それはルルーシュのそっけない挨拶でおわってしまった。
しかも彼女は、すぐさま目の前の男の名前を呼び、そして手元の書類に関して聞き始める。
あまりにもあっけないそれに、スザクは面食らい、
若干傷つき、けれどそれも疲れた顔をしているルルーシュをみて納得した。まあ、ルルーシュも疲れてるし。
それならば自分が助けなければ。
そう思ってスザクは二人の間に割って入り、驚いて肩を弾かせたルルーシュが顔を上げる。
ほんの少し後退ったルルーシュの身体を後ろのカレンが柔らかく受け止め、
そこでようやくルルーシュは言葉を発した。
「何だ?」
「手伝おうと思って。それ、なんの書類?」
スザクの言葉が聞こえなかったのか、
ぱちぱちとルルーシュが目を瞬いて、次の瞬間にはゆっくりと口元に孤を描いた。
「今までの学園祭の予算案と、各クラス・部活への振り分け。
でもいいよ。しばらく来てなくて、お前わからないだろうし」
あっさりとスザクの申し出を断り、ルルーシュは再び書類に視線をうつしてカレンを会話を始めてしまう。
それがむかついて、スザクは歯がゆい思いでそれでもなんとかできないかと考えた。
再度口を開こうとしたところでルルーシュが視線をスザクに移し、淡々と用事だけを述べる。
「ああ、スザク。暇ならあっちの倉庫から段ボール三つ持ってきてくれ。資料1・2と4。わかるだろ?」
「え?なんの資料?」
「バカ、学園祭のに決まってるだろ?。結構思いから」
「あ、うん・・・わかった」
倉庫に行き、数ある段ボールの山から目当てのものを探すのには苦労する。
しかも学園祭の資料といっても、系統だけでも数種類あり、どれの1と2と四なのかがわからない。
倉庫から顔を出し、ルルーシュに来てもらおうとするけれど、それはカレンの溜息によって遮られた。
心底呆れたように場所割りに関する資料だと言われて、
スザクはカレンに聞いたんじゃなかったのにと思いつつもありがとうと声をかけ、それらを探し始めた。
三つとも探し当て、そして他の山を崩さないように出してみっつとも抱えて倉庫を出る頃には結構時間がたっていたけれど、
カレンとルルーシュはやはり資料のことに関してまだ話し合っていた。
なんで一枚の書類にそんな時間がかかるのだろうと思ったけれど、
二人は既に席についていて、二人の周りに積まれている書類を見る限り、
他の書類に関しても話し合っているであろうことが伺い知れた。
テーブルから少し離れたところにある本棚の前で段ボールを三つ降ろし、
スザクは自分の仕事を終えたことを嬉々としてルルーシュに報告しようと振り向いた。目の前の光景に絶句する。
ルルーシュが手に持っている書類の一部分を指差しているカレンの袖を見遣ったルルーシュが、
袖の糸がほつれていることを指摘する。気付いたカレンが苦笑し、
ルルーシュの繊細な手がカレンの細くも逞しい手首をそっと掴んだ。
両手で掴み、カレンに柔らかく微笑みかけるその表情は、
ついぞこの前までスザクだけが得られるものであったはずなのに。
椅子に立てかけてあった鞄からコンパクトなソーイングセットを取り出し、
繕ってやるとルルーシュがカレンの腕を胸元にまで持っていく。
すいすいと縫われていく袖を有しているカレンの腕はしっかりとルルーシュに抱きとめられていて、
そして縫い続けるルルーシュを見るカレンの視線は熱が篭りつつも慈愛に満ちた物だった。
なにあれ。なんで、ルルーシュ。
一瞬、スザクの頭に裏切りという文字が過ぎる。なんで、ルルーシュ、僕を、。
そう搾り出そうとした喉はしかし、ひゅーひゅーと掠れた声しか出せはしなくて。
明るい雰囲気を振りまきながら人数分の紅茶とケーキを用意して持ってきたリヴァルがルルーシュの姿を見つけ、
歓喜に声を上げる。
その頃には袖のほつれも直し終わったルルーシュが立ち上がり、屈託の無い笑い声を上げた。
ルルのカップも持ってくる、と走って給湯室に戻っていったシャーリーにスザク君も座っててね、
と声をかけられ、ゆっくりとテーブルに近づく。
賭けチェスの話に花咲かせているルルーシュとリヴァルの横を通り過ぎ、カレンの前に立った。
億劫そうにスザクと視線を合わせたカレンが、笑いながら立ち上がる。
ルルーシュとリヴァルに、そういえば俺も今日お菓子を持ってきたから取ってくるね、
と声をかけ、スザクの横をを嘲笑いながら通り過ぎた。
裏切り者、と囁いて。