The Irony of Romeo and Juliet
8. you shall not Die, but you shall Live



「カレン、」
「はい」
ふんわりとした白いレースに覆われた白い手が、そっとカレンを呼び寄せる。 先程まで読んでいた本を置き、カレンはすぐさま歩み寄った。 窓際で本を読んでいたルルーシュは、膝に読みかけの本を乗せていて、 その本にきちんとしおりが挟まっていることを横目で確認すると、カレンはゆっくりと跪く。
「・・・カレン」
「なに、ルルーシュ」
再度呼ばれた名前に名前で返せば、幾許かルルーシュの表情が和らぐ。 口をつけた紅茶で濡れた唇は、この輝く青空の下では酷く神秘的なものにしか見えない。 これが他の女ならば、男を誘う悪しい欲望にしか見えないだろうに。
するりと取る事を許された、白い指先を持ち上げて、そっと万感の意を込めてキスをする。 囁かれた言葉に、眩暈がしそうだった。
「そばに、いろ」
「―――は、い」
声は裏返っていなかったろうか、かすれてはいなかったろうか、 聞こえる程度の大きさだったろうか、はっきりと口にしただろうか。 そんなどうでもいい事の心配をしながら、カレンはルルーシュを仰ぎ見た。 カレンをじっと見下ろすその瞳は真摯で、カレンは吸い込まれそうなその紫藍の輝きに見入る。
「未来永劫、おれの傍に」
享け賜った言葉はとろけるほどに甘美で甘く、カレンは首を振って顔にかかった髪をはらった。 そっと、本当にそっと、丁寧に丁寧に手の先に口付ける。

「・・・もちろんです、俺の姫君」

ゆっくりと、瞼と両の手に与えられた口付けは、泣きたくなるほどに優しかった。



カレン。カレン、カレン。カレン、俺の騎士。カレン。

2008年4月16日