The Irony of Romeo and Juliet
9. I die. You, beam of sunshine



額に脂汗、首筋に冷や汗。引き攣った口元、歪んだ瞳、それでも尚失われない、傾国の美貌。 目の前で華やかに笑う彼女に、ルルーシュの心はどれだけ悲鳴をあげているだろう。助けてあげたい。 けれどルルーシュがそれを望まないから、カレンはこうして、建物のかげから見守るだけだった。

人々が彼女に気付き、わっと人間が集まり始める。帽子とめがねでどうにかなったものか。 ひゅぅっとルルーシュが喉に息を詰まらせた瞬間、カレンは目にも止まらぬ速さで駆け出した。 胸に抱きこみ、顔を隠す。すぐに抱き上げて走りだした。
「ルル、ルルーシュ・・っ大丈夫!?」
出店の影にそっとルルーシュを降ろし、咳き込んでいる彼女の背を優しく撫ぜる。 ようやくおさまってきたころ、ユーフェミアの喜びが、ルルーシュの絶望が、世に放たれた。


「行政特区日本!!」


ルルーシュが頭を掻き毟り、自らの身体を抱きしめるように縮こまった。 朱と紫が混じった左目から、とめどなく涙が溢れた。
「ひ、ぃ・・・っぁ」
「ルルーシュ!!」
苦しそうに酸素を求め、パクパクと口を開く。焦点の合っていない瞳は何処を見ているのだろうか。 過去か未来か、それとも絶望しかない現在か。 明らかに呼吸が出来ていないその様子に焦り、カレンは声を荒げた。どうすればいいかわからない。
「ルルーシュ・・・ッ、ルル、ルル、ルル、ルルーシュ!C.C.、C.C.、C.C.、来て!」
「静かにしろ、カレン。怪しまれるぞ」
すぐに後ろに姿を現したC.C.が、静かにルルーシュの隣に座り込んだ。変装と称してかぶっていた紙袋を手に持つ。
「カレン、ルルーシュを仰向けに寝かせろ。紙袋はこれだけか・・・穴が開いているが、この際仕方ないな」
C.C.に支持どおりに寝かせ、顎を上げて気道を確保する。 相変わらず苦しそうなその状態にどうしようもなく泣きたくなって、カレンはくしゃりと顔を顰めた。 C.C.がそっと紙袋を口にあてがう。
「泣くな、カレン。男だろ」
「だ・・っだ、って、ルル、ルルーシュ、が、」
「大丈夫だ。・・・ちっ、やはり駄目か」
一向に良くならないルルーシュの状態に、C.C.が紙袋を放る。 いきなりの行動にパニックになり、カレンはC.C.の肩を揺さぶった。
「何・・・っ何が駄目なんだ、C.C.っ・・」
「慌てるな」
「慌てるなじゃない!!なんで、ルルーシュ、何これ」
「過呼吸だ。死にはしない」
C.C.に説明に愕然とし、カレンは叫んだ。
「何それ、過呼吸って何!」
「精神的ストレスから来る症状だ。 呼吸機能がある意味麻痺したような状態になって、酸素の吸いすぎで二酸化炭素が足りなくなる。 頑張って吐こうとしても吐けないんだ」
「じゃあ何をっ」
「私が今紙袋でしたのがそうだ。 ルルーシュに、自分で吐いた二酸化炭素を吸おうとさせたんだが・・・やはり穴が開いていたから無理だった。 お前がやってやれ、カレン」
「何っ・・・俺、紙袋なんて持ってない!」
完全にパニックに陥り始めたカレンの頬をひっぱたいて、C.C.は正面からまっすぐカレンの視線を射止めた。 両手で頬を包む。

「カレン、人間の吐く息は二酸化炭素だ」
その言葉に目を見開き、カレンが目を瞬いて固まる。次の瞬間には髪を払い、深く深く息をすった。止める。 形全てに沿うように、ルルーシュの唇とを深く合わせて、カレンは肺が潰れるかもしれないという程息を吐いた。 すぐさま息を吸い直し、それを何度も何度も繰り返す。

次第に呼吸が戻り始めたルルーシュに安堵して、カレンはそっと痩躯を抱き起こした。 細い手をC.C.が握り締めている。
うっすらと目をあけたルルーシュは、一筋の涙を流し、苦悶の表情で意識をぱたりと手放した。

「ななりー」



マリアンヌ、お前の子がまた奪われていく

2008年4月16日