The Irony of Romeo and Juliet
16. You're my Ioannes.



『各員、配置に付きました』
「ありがとう。全員その場で待機してくれ。くれぐれも攻撃はしないように」
『了解』
ピッと音を鳴らして電源を切れば、聞こえるのはガウェインのかすかな機械音と自分たちの布擦れ音だけになっていた。目の前のモニターにいくつかの画面に別れて映っているのは、大きな会場、押し寄せた日本人、佇むユーフェミア、彼女のアップ。ユーフェミアはこちらを静かに見つめている。その顔に微笑みさえ浮かべて、ユーフェミアはこちらを見上げていた。
「・・・ユフィ」
「憎いか?あの女が」
下の操縦席に座っているC.C.が見上げてくる。そこにあるのはルルーシュの過去や今を推し量った問いかけなどではなく、純粋な興味だった。
「・・・いや。憎くは、ないかな。どちらかというと・・・嫉妬に近い」
「嫉妬ね」
「羨ましかった、子供の頃からずっと。可愛い容姿、可愛い髪の色。真っ白な肌、柔和な瞳、生まれながらにして得ていた地位、そして、全てを押し通してかなえてしまう度を知らないわがまま」
「お前は趣味が悪いな」
「え?」
背もたれに首を預けたC.C.が、おかしそうにわらっていた。テレビに出て来る不細工なアイドルタレントを小馬鹿にする時の顔だ。
「そういうの、世間じゃビッチっていうんだぞ。」
不意をつかれたようにルルーシュがきょとんとした顔を見せ、そして数秒の後にくすくすと笑い始める。操縦席にある階段をのぼり、C.C.は無理矢理ルルーシュのシートに身を滑りこませた。一人分の座席に小柄の女が二人もすわると、窮屈だった。
「あとな、人のいやがる事を平気でする女の事を、性格ブスって言うんだぞ」
「俺の事か?」
「お前は平気でやってるわけじゃないからな。まぁ悪女程度だろう」
「充分悪そうな気がするんだが」
「よかった」
「え?」
「もうスザクの事は平気そうだな」
まっすぐに見てくるC.C.に、ルルーシュは言い返す言葉が見つからなかった。何が平気なのか、よくわからなかった。
「スザクの事で、ユーフェミアを羨ましいと思うか?」
「・・・・・・・」
「思ってないだろう?今のお前、心底ユーフェミアの事どうとも思ってないだろう」
「・・・・・・そうかな」
「そうさ。気分は?」
「・・・・・・サロメ、かな?」
「サロメ」
「そう、戯曲のサロメ。どちらかというと、今のわたしはサロメな気分だな。スザクがヨハンなんだ」
「そうか」
「そうだ。・・・ああ、そうすると本当だな、おれはユフィの事なんて考えてないのか」
「そういうことだな。なんだ、お前。あの男に死んでほしかったのか」
「・・・違うよ」
「違うのか」
「違うな。そう、俺はキスがしたいんだ。スザクと。いや違うな、とじゃなくてにだ。スザクにキスしたいんだ」
「だからサロメなのか」
「そう。おれは死んだスザクに、キスしたいんだ、きっと」



死んでるスザクと、キスがしたいんだ。

2011年12月28日