自分以外の誰もいれたことのない秘密基地にルルーシュとナナリーを連れて行ってから、三人の仲は格段によくなった。
ナナリーはもともと好意的だったが、やはり見知らぬ土地に目も足も見えない状態でやってきた緊張はあったのだろう、
自分の最愛にして最大の味方である姉がいたからこそ、
ナナリーは笑みを浮かべることができていたのではないかと、今になって思った。
そのナナリーも、ルルーシュがスザクに気を許したことが手伝って、今まで以上に心を開いてくれるようになった。
ルルーシュへの気持ちとは違う、まるで本当に自分に妹ができたような感覚がスザクはうれしかったし、
事実ナナリーはルルーシュがスザクに褒めちぎらなくても充分かわいい女の子だった。
そしてルルーシュがナナリーに過保護なまでに世話を焼くのを見ると、スザクもだんだんとそうしたくなってくる。
スザクはそこまで器用なほうではないし、ナナリーも女の子なのでルルーシュほどあれこれと身の回りを
世話してやることはできないが、それでもナナリーの髪を整えたり、
車椅子でいけない場所に背負って運ぶのはスザクの仕事だった。
ルルーシュが朝からいなくて、ナナリーの病院の予約がはいっていない日はたいてい
咲世子という日本人のやさしいお手伝いさんを交えて二人で折り紙を折ったり絵本を読んだりして、
目の見えないナナリーが退屈しないようなことをして遊んでいた。
お昼ごろに二人で玄関の外まで出て行き、ナナリーが車から出て走ってくるルルーシュのほほにキスをして、
その後三人でお昼ご飯をたべる。
このときの車椅子だけはルルーシュに譲っていた。
その日、ナナリーは通院のスケジュールが入っていなかったため、スザクと一緒にずっと枢木本家で遊んでいた。
ルルーシュはやはり外交官としての政務に追われていて、朝食を一緒にとったきりあっていなかった。
ナナリーにゆっくりと手で確認させながら、今日は折り紙で鶴を作っていた。
かなりいびつな形になりながらも、折り紙をしたことのない外国人、
ましてや目が不自由な女の子が折ったにしては会心の出来に、スザクも咲世子も手をたたいて喜んだ。
だがナナリーは自分では納得のいかなかったのか、ほほを膨らませながらもう一度折りはじめた。
その様子がかわいくて思わず噴出すと、ナナリーがすねた。
「スザクさん!」
「ご、ごめんごめん!でもすごいぜナナリー、一発でここまで折れるんだから。」
「本当ですよ、ナナリー様。とってもお上手です。」
「・・・・ありがとうございます。でも、もっと練習しますね。」
「うん。でもナナリー、もうそろそろルルーシュがかえってくるころだ」
壁にかかった時計を見ると、短針はもうすぐ正午をしめしていて、ルルーシュがじきに帰ってくることを知らせている。
その事実にあわてて折り紙を手放したナナリーの車椅子をつかんで、ドアを開けてくれている咲世子のそばをとおりすぎた。
玄関ホールにたどり着くと、なぜか開け放たれている玄関に使用人たちが群がっていた。
何事かと思って車椅子を近づける。
スザクとナナリーに気づいた使用人が声を上げた。
「あ、スザク様、ナナリー様」
「どうしたんだ?なにかあったのか?」
「もうすぐルルーシュ様を乗せたベンツが到着するのですが・・・何か様子がおかしいのです。」
「え?」
「ものすごいスピードを上げて山を登ってきているんです。まるで焦っているかのような・・・」
「ちょ・・・ちょっとみせて!」
わらわらと道をあける使用人のそばを通り過ぎて玄関をでる。
すると、いつもは静かにゆっくりとくるはずのベンツが猛スピードでこちらへむかっていた。
びっくりしてみていると、いつもは玄関の前にきちんと到着するはずのベンツがキキーッと
タイヤを鳴らしながら乱暴に車を止めた。
半回転しながら急なブレーキを踏んで完全に止まった車を見て絶句した。
窓は割れており、車体のところどころが銃撃を受けたようにへこんでいる。
文字通りドアをたたくようにして出てきた運転手と、ルルーシュにつけられた護衛二人がよろよろと車から這いでた。
「は、早く、医療班・・を・・」
一人の腕にはルルーシュがぐったりとしている。
「ルルーシュ!!」
何が起こっているのかわからないのだろう、
ナナリーが説明を求めるようにきょろきょろとしているのを見つけた咲世子が、そっと耳に現状をささやく。
一瞬で顔を青ざめさせると、ナナリーはわなわなと震える唇で叫んだ。
「お・・・お姉さま!?ルルお姉さま!」
「何事!?何があったの!」
「お、奥様!」
中から普段のおっとりさを捨てた綾乃夫人が顔をだし、現状を見てすぐに何かを察したのだろう、護衛に説明を求めた。
多少怪我をしながらも、運転手やルルーシュを抱えた護衛よりもましな状態だった一人が口を開く。
「そ、それが・・・政庁を出てしばらくしてから銃撃を受けまして・・・。幸い皆銃撃は掠っただけなのですが、
ルルーシュ様が、割れたガラスを背中に受けたせいで怪我をなさって・・・。
病院に向かうよりも本家の医療チームに見せたほうが早いと判断しましたので・・」
「わかりました。お医者様を呼んで!ルルちゃんを早く運んでちょうだい!ほかのものの怪我も診て頂戴。動いて!」
固まったままだった面々の中でいち早く立ちなおった綾乃がてきぱきと指示をだしはじめる。
わっと走りさっていく使用人たちを見て、少しばかり肩の力を抜くと、いまだ抱きかかえられたままのルルーシュに近づいた。
「ルルちゃん、私がわかるかしら?大丈夫?今、お医者様を呼びましたから・・・」
「あやのさま・・・ナナリ、は・・・」
苦しそうに顔をゆがめながらも声を発するルルーシュに顔を顰めながらも、
いまだつったままで動かないスザクを軽くたたいて意識を戻した。
はっと我に返ると、スザクがあわててナナリーをルルーシュのほうへ押す。
スザクもナナリーも、二人の顔は蒼白だった。
「おね、おねえさま、ルルーシュおねえさま、」
「だいじょうぶ、ナナリー、大丈夫だから」
動揺している所為か、ここ最近はまったく使っていなかった母国語であるブリタニア語に戻っている。
ルルーシュもそのまま返す。
「ねぇ、さま、おねえさま・・・おねえさま・・・」
「だい・・じょうぶ、だ・・・ナナリー・・・」
ナナリーのほほに手を添えて微笑んだルルーシュは、そのままくたりと気を失ってしまった。
医療チームが運んできた担架にうつぶせに寝かせられたルルーシュが運ばれていく。
「い、いや・・・」
青ざめた表情でわなわなと唇を振るわせるナナリーに、咲世子が声をかける。
「ナナリー様?」
「いや、いや・・・いや、おかあさま・・・お姉さま・・・お母様っ!!」
「A型の方は集まってください!ルルーシュ様の出血が思いのほか多量です!!」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」
I want my LOVE back
4. 過去の口径今の光景
真っ白な肌に浮かび上がる赤い筋を見て吐き気がした。
ルルーシュをこんなにしたやつらを殺したくて仕方なかった。