「スザク、ナナリーの目と足は生まれつきじゃない。
ナナリーの心を守ってくれるだけの覚悟があるのなら、すべての出来事をお前に話そう。」
ポタリ、と点滴が落ちる。
真っ白な腕の腹に刺さった針が痛々しくて、思わずスザクは目をそらした。
どんなに話を重ねても、どんなに仲良くなっても、ルルーシュは決して母親の話はしなかった。
ほかの者たちから聞いた話では、普通皇子や皇女は母親との交流があまりないことは珍しくないらしい。
ルルーシュもそういうことがあって母親が嫌いなのかと思っていた。
だから何も聞かなかった。
I want my LOVE back
5. Love with Tears
「私たちの母親の名は、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。陛下の第五皇妃にあたる人だ。
母の出は庶民だったけれど、女の身一つでブリタニアの騎士候位まで上り詰めた女傑だったんだ。
その美しさと強さ、そして聡明さを陛下に見初められた母は、皇妃にと迎えられた。」
ルルーシュの母を語る声音は、スザクが聞く限りではとてもやさしかった。
本当に心から愛しているような穏やかな声が暖かくて、スザクは黙って目を閉じた。
「私やナナリーから見ても、ほかの者たちからみても、陛下と母様の仲はよかった。
陛下自身、ほかの皇妃は政略結婚の相手だったのもあって、初めて自ら皇妃に、と望んだ母様が大切だったんだと思う。
でも、母様は殺されてしまった。」
「え・・・?」
「殺されたんだ。
あの日、私は部屋で本を読んでいて、ちょうど三時だったから母様とナナリーとお茶をしようと思って下に降りた。
母様とナナリーはもう階段の下で私を待っててくれていて・・・それで・・・。」
ゴクリ、とルルーシュののどが上下する。
眉間にしわを寄せて、唇をきゅっと引き結ぶ。
少し青ざめながらもその目はギラギラとしていて、思わずスザクはびくりと身体を強張らせた。
本当にこれはルルーシュなのか?
「いきなり、テロリストがアリエスの離宮に入ってきた。
マシンガンを打ち鳴らして、階段の上のほうにいた私は助かったけれど、母様は、ナナリーを、かばって・・・・」
「うたれた・・・の?」
「・・・ああ・・・。ナナリーは、幸か不幸か、母様がかばったお陰で助かった。
でも流れ弾が足に当たって、ナナリーの足が動かないのはそのためだ。
目は、母様が目の前で死んでいくのがショックで、見えなくなった・・・」
「じゃあ、さっきのナナリーの、『おかあさま』って叫び声は」
「ナナリーは目が見えない分、気配とか、においや音に敏感なんだ。
たぶん、私の血のにおいと、銃撃って聞いてあの時の記憶がフラッシュバックしたんだと思う。
あれは、ナナリーにとって、トラウマ、だから・・・」
そういったきり、ルルーシュはぎゅっと目を閉じた。
小さな手が、指の先が白くなるほどシーツを握っている。
先ほどよりも悪い顔色にスザクはなきたくなった。
知らなかった。
ナナリーはいつだって笑っていて、かわいくて、幸せそうで。
足や目は生まれつきなのだと思っていた。
だってナナリーは足や目のことについて悩んだそぶりなど一度もみせなかったし、嘆くことだってしなかった。
だから、なんともおもわなかったのに。
そんな、ことって。
ぎゅう、とつめが皮膚に食い込んで、血がにじむくらい手を握った。
怒りに我を忘れそうで、どうかこんな姿をルルーシュに見せるなんてことはありませんようにと願った。
ルルーシュを守りたくてしかたない。
ナナリーのことを思いながらも、自分自身もトラウマに震えているその姿を。
「なぁ、ルル」
「・・・ん?」
「俺が、守るからさ」
「スザク?」
「ルルとナナリーの心も身体も、俺が守ってみせるから」
だから、俺を騎士にして