「・・・ど、どうだ?」
「・・・・。しょっぱい」
「・・・!さ、砂糖っ・・・!!」
青ざめるルルーシュを横目に、顔を顰めながら目の前の物体をみる。
きらきら光る赤いルビーのようなイチゴに、その土台となっている見た目はサクサクとしたパイ生地、カスタードクリーム。
作ってみたんだ、と初めてのクセに本当においしそうな苺タルトを口に運んだ瞬間、
口の中になんともいえない、というか、甘いとは天と地ほどかけ離れた味にうげ、と舌をだした。
それを見た瞬間絶句して顔を青ざめさせたルルーシュは、おそるおそる感想を聞いた。
おいしくない、まずい、もしくはせめて甘すぎるであって欲しいと思った感想は、しかし正反対の『しょっぱい』であった。
ろくに確認もせずに入れたためか、砂糖と塩を取り間違えてしまった事実にショックを受けたルルーシュは、
あわててスザクに水を手渡す。
「ご、ごめん、からかっただろう!?吐き出していいから・・・!」
「いや、食べる。飲み込む。」
ぎゅーっと目を瞑り、水で一気に飲み込む。
うはーっという効果音と共にあけられた大口にぽいっと
投げ込まれたチョコレートをもぐもぐと咀嚼して、やっと安堵の息を吐いた。
「ごめん・・・」
「大丈夫大丈夫。砂糖以外は完璧だった。」
次はがんばってよ、と笑って声をかけると、もちろん、という声が返ってきた。
ナナリーの前にお前に食べさせてよかった、と続けられた言葉に、思わず俺は毒見かよ!と耳をたれる。
だって苺タルトは初挑戦なんだ、はははっ、と身体を椅子に預けて笑うと、スザクも屈託なく笑う。
「お姉さま?スザクさん?」
テラスに備えられているスロープを使って庭に下りてきたナナリーが、笑いあうルルーシュとスザクに声をかけた。
ナナリーの存在を認識した瞬間に二人で飛んでいって車椅子の取り合いをすると、
お二人とも!とナナリーが抗議の声をあげる。
あの時のしょっぱい苺タルトを、全部平らげておけばよかったと今になって思った。
辛くてまずくて食べれたものじゃないとわかっている、けれどあれは確かに、ルルーシュが俺にくれた最初の味だった。
I want my LOVE back
11. 赤いルビーと塩タルト
「枢木、もっと踏み込めっ!」
「はいっ!」
「真剣だからといってひるむな!目の前を見ろ!」
「はいっ!!」
「今日もがんばってるなぁ、ナナリー」
「そうですねぇ。お姉さまもお疲れではないですか?」
「全然。むしろ軍人の粗相を洗いざらい読むことができて楽しいよ」
ビスマルクに剣技を教わるようになって二ヶ月がたった。
最初は木刀で始めていた剣技も、
スザクがもともと剣道で優秀な成績を残していたこともあって、すぐにそれは真剣に変わった。
それをテラスから眺めているルルーシュとナナリーは優雅にお茶をしている。
もっとも、ルルーシュは紅茶を飲みながらも手元にある書類をみているのだが。
今ルルーシュがチェックしているのはブリタニアの皇族・軍人・政治家の素行リストだ。
末端までは目が行き届かないので、主に将校クラス以上の軍人や、
ブリタニアにおいてそれなりの功績をの立てている人間の素行調査をまとめた書類を読んでいる。
そこから明らかに不正を働いているものや、アヤシイ者などをルルーシュが自らピックアップし、
その人物の行動を更に調査させる。
そこにその立場としての人間としてふさわしくないものを降格・もしくは処分し、別の適任者をあてがう。
それが今のところのルルーシュの枢機卿としての仕事だ。
スザクがもう少し腕が立つようになり、ルルーシュが一年間政務、
軍務を勉強してすべての分野においてのオールラウンダーになった後に、
二年に一回のペースでブリタニア本国、並びに全エリアを視察しに回り、自らの目でもって処分を下すようになる。
「お姉さまったら」
「だって、ナナリーこそ汚い大人が国を取り仕切るのは我慢ならないだろう?」
ナナリーがあきらめたように眉を下げて笑うと、ルルーシュが少しだけすねたように言った。
「それは・・・そうですけど」
「大丈夫。私が処分したかといって、とばっちりは行かないんだから」
「まあ」
そう。
ルルーシュが拝命している帝国枢機卿というのは、皇族直属機関のトップを勤める人間に与えられる称号である。
機密情報局とはまた違う分野で働くその機関は、皇帝からの信頼で成り立つ。
枢機卿というのはすなわち皇帝から絶大の信頼を置かれており、
また絶対に裏切らないという確信をもたれている者にしか与えられないのである。
その仕事は主に皇帝を害するものの排除であったり、
皇帝の統べる神聖ブリタニア帝国において得にならないものをピックアップし、
裏で不正を働いているものを除籍してぴったりの人材をあてがうなど色々であるが、
すべての起源が『皇帝のために』という忠誠心からくるものである。
ルルーシュも正式に枢機卿としての執務を始めたら自分の親衛隊、もしくは騎士団を持つことにしている。
名は『黒の騎士団』。
そう決めた。
「あー。早く一年経たないかな・・・」
そういった姉の声が何よりも柔らかかったのを、ナナリーは聞いた。