視線が絡む。
こちらを見てくるスザクの瞳はひどく真剣で、でも触れ合った体温からスザクの心臓の音がとてつもなく早かったから、
スザクも同じくらい、もしかして自分以上にどきどきしているのかもしれないと思った。
「・・ルルー、シュ」
ふたたびゆっくりと口付けられた唇は少しカサカサしていて、でもそれは紛れもなくスザクのもので。
ほんの一秒だったかもしれない、限りなく遠かったかもしれない、
時が止まってしまったこの空間で交わした好きな人とのキスは、何の味と聞かれても答えられない、
けれど確実に幸せの音がしたのは、重なった二人の鼓動でわかった。
その日から、二人は恋人になった。
I want my LOVE back
16. 感謝を捧げます
にこにこにこにこ。
今日のナナリーはすこぶる機嫌が良い。
今朝、遠慮がちにというよりもむしろ照れ全開でスザクがナナリーにルルーシュとの交際報告をした瞬間から、
ナナリーは見えないはずの目を輝かせて、「おめでとうございます!」と叫んだのだ。
その後うきゃー!と普段のナナリーから想像もつかないような奇声を上げて
(ルルーシュが泣きながら『ナナリー!?』と叫んでいた)車椅子フルスロットルでアリエス宮を駆け回り、
使用人全員にスザクとルルーシュの話をした。
いわく、『皆さん、お二人がついに、ついに、ついにお付き合いすることになりましたー!』×人数分だ。
ルルーシュが酷く焦って、というか赤面してナナリーを止めようと奔放したが、
使用人全員の『やっとですか!』というナナリーへの返事にあれ?となり、
通り過ぎるたびに『おめでとうございます』の嵐。
そんなにすごいことなのか?とどこか違う感想を抱いたルルーシュとは違って、
かげながら沢山の使用人に恋の応援をしてもらっていたスザクは
ペコペコと菓子折りを差し出しながら背を四十五度曲げて謝礼しまわりたい気分である。
「あとは騎士就任だけですね、お二人とも♪」
あれ、語尾になんかつかなかったか、とかスザクは思ったが、
そんなことはおかまいなしにナナリーははちきれんばかりの笑顔を二人に向けた。
内容も口調も関係なく、そのまばゆい笑顔にノックアウトされたルルーシュは退場だ。
「ルルーシュ様ー!?」
ふらりと身体を傾けたルルーシュを難なく受け止め、
―――この辺が成長したとスザクが自負しているところである―――
スザクは駆け寄ってきた執事にルルーシュを預けた。
「リビングのソファに寝かせておいてください」
本来ならば自分が運ぶべきなのだろう。
だがスザクはナナリーと話したいことがあった。
それをスザクの雰囲気で理解したのだろう、ナナリーも小さくうなずいて、スザクを見上げた。
ナナリーの身体を車椅子から抱き上げて、スザクは高台にあるソファの上にナナリーをおろした。
自分は座らずに、ちょこんと座っているナナリーの前に膝を着く。
「―――ナナリー」
「はい、スザクさん」
そっと持ち上げられた手をとって、スザクは目を閉じた。
自分のいもうとだ。
自分と、ルルーシュの愛すべき妹なのだ。
ナナリー。ナナリー、ナナリー。
「・・・まずは、今回のことだけど。応援してくれてありがとう」
「はい、どういたしまして」
「本当に嬉しかった。ナナリーも祝福してくれて、本当に嬉しい」
「私も、お二人が幸せそうでうれしいです。ナナリーは幸せですね」
心からの微笑を顔に浮かべるナナリーに目を緩めて、スザクはその細く白い指にそっと口付けた。
目を閉じる。
ナナリーの目が見えないだとかは関係ない。
正真正銘の誓いを立てたいのだ。
「―――ナナリー。俺はこの五年、自分のできる限りの事をがんばってきた」
「はい、知っています」
「ルルーシュの印象を悪くしないために、皇妃の名前も、皇子皇女の名前も経歴も趣味も好きなものも性格も、全部覚えた。
ブリタニア式の礼儀作法も身に着けた。今ではもう意識せずに行える」
「はい」
「ダンスの練習もした。スタンダードもラテンも全部覚えた。剣も銃も槍も覚えた。体術も覚えた。
護衛のやりかたも隠密のやり方も覚えたし、ブリタニア語は喋るだけならもうなんの問題もない。
書くときは、今でもたまに文法を間違えるけど」
「はい」
「ビスマルクさん・・・ヴァルトシュタイン郷も、騎士としての実力には文句もないと言ってくれた。
俺は、ルルーシュの騎士になるだけの実力をみにつけたと、思う」
「はい」
ふと、ナナリーに見られている気がして、スザクは頭を上げてナナリーを見た。
ナナリーの両目は相変わらず閉じられたままだけれど、
その意識と耳は全て自分に集中してくれているのだとわかっているから、スザクは再び目をとじる。
「ナナリー。・・・ルルーシュが、好きだ。ルルーシュを愛している。それは昨晩で、より確固としたものになった。
騎士なる覚悟も、愛も、忠誠も、俺は全て心に決めた」
「・・・はい」
「だから俺は、枢木スザクは、ナナリー・ヴィ・ブリタニア、貴女に許しをいただきたいです。
ナナリー、ルルーシュを永遠に愛し、守る事を誓います。俺を、ルルーシュの騎士に認めていただけますか」
ゆるりと、一度ナナリーを見上げてから頭をたれた。
額はゆっくりと手に取ったナナリーの手の甲に当てる。
―――どれくらいたっただろうか。
くすくすと頭上から聞こえてきたナナリーの笑い声に、スザクは困ったように顔を上げた。
「ナナリー?」
「スザクさんったら、」
ナナリーがゆっくりと手を伸ばし、スザクの肩に手を置いた。
ナナリーのやろうとしていることがわかったので、スザクもそのまま身を乗り出して、ナナリーの肩に頭を凭れた。
スザクの太い首に両腕を回し、ナナリーはゆっくりと息を吐いた。
ああ、この人が、最愛の姉の騎士になってくれるのだ。
「今更なこと、聞かないでください。もちろんです。もちろんです、スザク義兄さま。
私を、お姉様を愛してくれて、本当にありがとう」
義兄さま、なんて言葉にうっかりと涙腺を緩めてしまったスザクの頬に、ナナリーがそっと、親愛のキスを贈った。