その日、スザクは生徒会室で生中継を他の役員と見た。 突き抜けるような白がまぶしいその飛行艇から降りてきた柔らかな茶色の髪、万緑の色をたたえた瞳。 そして彼の差し出された手を当然のように取った彼女は、確かにあの七年前、ともに過ごした人なのだ。 テレビカメラの端に、驚愕に顔を染めたユーフェミアをはじめとする関係者が見えた気がしたけれど、 そんなのはもうスザクの目には入らなかった。 友達でさえも隣でテレビとスザクをしきりに見合わせたけれども、答えは一向に出なかった。



Mattare, piviere
2. calando 【次第に消え行く】



空いた口が塞がらないとはこのことだ。 コーネリアはただ、目の前にいる義妹を見つめた。 正確に言えば、義妹の斜め三歩後ろに控えている、彼女の騎士をただ、見つめた。 それに気づいているのかいないのか、彼女はただ、酷く美しい顔で薄く微笑んだ。
「お出迎え感謝致します、コーネリア総督。 私はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、枢機卿を務めさせていただいております」
「あ、ああ」
後ろから妹であるユーフェミアが、ひどくうろたえた視線をこちらに向けているのがわかった。 状況が把握できていないのか、立場も忘れたユーフェミアが戸惑いの声を上げる。 そしてそれは確実に義妹と騎士にも伝わって、片眉を上げさせたのだ。
「ス、スザク・・・!?」
「スザク?」
ぴくり、とルルーシュの片眉が上がった。 後ろの騎士は微動だにしない。
「スザク、なんでルルーシュお姉様のところにいるの!?昨日はちゃんと・・・っ」
「失礼。ユーフェミア副総督は誰かと勘違いしている様子」
戸惑いが大きくなりすぎ、ついにはわめき始めたユーフェミアにすぐさまルルーシュが割って入った。 そのしぐさは優雅であり、そしてなおかつ逆らえない程の威圧感を持っていて、ユーフェミアはただ息を詰めた。 会話の全ては聞こえないにしても、ここでの様子は全てテレビを通してエリア11全域に報じられているのだ、 無用な取り乱しは避けたい。 それにわれに返ったのか、コーネリアがルルーシュの方を向く。
「ルルーシュ猊下、一つ・・・聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「猊下の後ろにいる、ナンバーズと思われる人間は?」
戸惑いながらも忌々しげにつぶやいたコーネリアの視線はすでにルルーシュを向いてはいなかった。 ただただ、彼女の後ろに控えている騎士に向けられていた。 柔らかな茶色の髪、エメラルド色の瞳、黄色人種が持ちえる焼けた肌の色。 その男は紛うことなく枢木スザクの顔をしていた。 コーネリアとしても、ユーフェミアとしても、その場にいる人間、 生中継でその様子を見ている人間全てが答えをしりたがっている。 何せ枢木スザクはエリア11ではある意味で有名人なのだ。 ナンバーズ出の名誉ブリタニア人が第四皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士になったというのは、 ブリタニアを震撼させるほどの大ニュースだったのだから。 なぜ、ルルーシュの騎士と思われるその青年が枢木スザクと同じ風貌をもつのか。 しかし、その答えを持っているはずのルルーシュは再びぴくりと片眉を上げ、そしてコーネリアをにらみつけた。
「ナンバーズ?」
「・・・そうだ」
「・・・彼は私の騎士だ。それをナンバーズ、人間等と・・・我が騎士を侮辱するおつもりか?」
ルルーシュから敬語が消えた。 全身から不機嫌を隠さないルルーシュに、コーネリアは焦った。 そうだ、焦ったからといって自分は何をしているのか―――慌てて謝罪する。
「・・・申し訳ない。浅慮だった。」
「構いません。どうせ、ユーフェミア副総督の騎士である枢木スザクとの関係性をしりたいのでしょう?」
ピンポイントで聞きたい箇所を突いてくるルルーシュに、コーネリアが押し黙った。 その様子ににんまりと笑ったルルーシュが、ちらりと彼を振り向いた。
「・・・ゲンブ、自己紹介して」
楽しげな声音で告げられたそれに、今まで微動だにしていなかったゲンブ、と呼ばれた青年が一歩前に出る。 はっきりと告げられたその真実に、エリア11全体が絶叫した。 しかし、絶叫したのはアッシュフォード学園生徒会室で役員とテレビを見ていた枢木スザクだ。

「第三皇女ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア枢機卿猊下が騎士、枢木ゲンブです。 第四皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアエリア11副総督が騎士、 枢木スザク騎士侯は自分の双子の弟にあたります。」



ブリタニアで一番偉い皇女の騎士がナンバーズであることによって、 差別意識は次第に、緩やかに消えてゆく。変革は、たおやかに

2008年10月23日