一度会議室を見渡して、ルルーシュはそっと部屋の後ろの席に座った。 自分の隣に置かれた席にゲンブも着席したのを確認して、部屋にいるメンバーを見渡す。 総督であるコーネリアや副総督ユーフェミアをはじめとするこのエリア11の政庁議員の顔と 名前を頭の中の情報と組み合わせていって、ルルーシュはフンと鼻を鳴らしていすに身を沈めた。 スザクはいない。 隣でゲンブも同じように息を吐く。
―――下卑た奴等ばかりだな

コーネリアの勢いにあわてたようについていく議員。 馬鹿な発言をする能の無い男。 そして何より、居心地悪そうに、コーネリアの横に座るユーフェミア。
―――ダメだな、エリア11は

呆れたように吐き出した溜息に気づいたのはゲンブ一人。



Mattare, piviere
6. caldamente 【熱をもち】



「―――報告は以上です」
「ご苦労。ゲットーの見回りはどうなっている?」
「ゲットーの周辺を以下一等兵が定期的に見回っています。他に・・・」
会議室を出た後のコーネリアに次々と報告をしていくダールトンとギルフォードに、三人の後ろについていくユーフェミア。 上下関係が違うんじゃないか、とゲンブは思ったが、そんな感情はおくびにもださない。 だが三歩斜め前のルルーシュはもちろん気づいていて、先ほどから会議が終わった後も録音機を止めていないし、 ユーフェミアの行動・発言を逐一紙に書き出していた。
・・・ああ、なるほど。
―――ユーフェミアを、引き摺り下ろす気か。

「―――失礼」
先ほどまでよどみなく行われていたコーネリアへの報告が、ルルーシュからの静止の声でぴたりとやんだ。 何事だと振り向いた三人に、きょとんとした何もわかっていないような表情でこちらを見てくるユーフェミア。 その本気で何も知らない、真っ白なあどけなさにある種の感動を覚えつつも、 ルルーシュはいらだつ感情が自分の中に芽生えるのを感じた。
「・・・どうかなされたか、枢機卿」
「少したずねたいことがある」
怪訝そうな顔で聞いてきたコーネリアにそういえば、彼女は少しためらった後にコクンと一つうなずいた。 相変わらず無邪気な顔でこちらを見てくるユーフェミアに――― 会議が終わったのにも関わらずユーフェミアのところへ姿を見せないスザクに対しても心の中で――― 侮蔑の視線を送れば、案の定ユーフェミアが身をすくませる。 それを無視してダールトン、ギルフォード、コーネリアを視界に入れると、なんなのかと騎士二人が見てきた。 ゆっくりと口を開く。
「先ほどからの報告。ゲットーの視察、テロ対策、その他諸々の政策。 これらの報告は本来副総督であるユーフェミア皇女が総督にするものであるが、 かわりに総督の騎士がそれを行っている理由を聞かせていただこうか」
「!」
一番反応したのはコーネリアで、やはり一番最後に、ゆっくりと首をかしげたのはユーフェミアだ。 なんて馬鹿なおんな・・・なんて、たった一つしか違わない自分の妹に感じながら、ルルーシュは溜息を吐いた。
「・・・ゲンブ」
「はい」
ルルーシュからの視線を受けたゲンブが、持っていたファイルの中からユーフェミアに関する中間報告書を取り出した。 それを受け取ったルルーシュがざっと目を通し、ひらりとコーネリアたちに見せてから再び目を通し、口を開いた。
「監査三日目、ユーフェミア副総督はクロヴィス美術館特別絵画コンテストジュニア部門の賞状の授与、 ならびにスピーチを披露。その後孤児院に慰霊訪問。四日目、副総督はエリア12総督ではなくその娘と食事。 その後騎士枢木スザク卿と数名の護衛を付けてバベルタワーでのスピーチ。 監査三日目、四日目、五日目、そして本日六日目にも全ての会議には出ているが、発言は一切無し。 ・・・確か、ユーフェミア皇女を副総督に推したのは貴方だったとは思うが、 コーネリア総督・・・―――ユーフェミア皇女を副総督にして、貴方は何がしたかったのか」
「っ・・・」
「それ、は・・・」
「答えてもらおう。まさか本国においていく妹が心配だったから、等という理由ではあるまいな?」
強く眼光を光らせたルルーシュがにらむ。 それに息を竦めたコーネリアがバツが悪そうに視線をずらした。



国は、人は、お前達のものじゃない

2008年11月17日