Mattere, piviere
7. tace 【休止】



『おはようございます、お姉様。ゲンブさん』
「おはよう、ナナリー」
「良く眠れたかい?」
『ええ、とっても。 今朝食を頂いているところで・・・あ、お姉様方はそちら、夜でしたね・・・ごめんなさい』
「いいんだよ、ナナリー」
ルルーシュのモニターに向けた笑顔が一層に柔らかいものに変わったのを見て、ゲンブはそっと笑った。 エリア11に来てから苛立つことの多い数日の間で、 少しでも最愛の妹であるナナリーと話すことが出来るのはいいリラックスになるだろう。
『あのね、お姉様。今朝はクロヴィスお兄様がいらっしゃってるんですよ』
「兄上が?」
『やあ、ルルーシュ。お邪魔してるよ。枢木卿も元気そうじゃないか』
「恐れ入ります」
「兄上、お久しぶりです。また絵ですか?」
『もう、聞いてくださいお姉様。クロヴィス兄様ったら、私の食べているところを絵にすると仰るんですよ!』
『いいじゃないか、ナナリー』
『嫌です、恥ずかしいです』
押し合い圧し合いするようにしてナナリーとモニターを奪い合っているクロヴィスの姿を見ながら、 ルルーシュがついに声を上げて笑うと、ゲンブは零れないようにそっとルルーシュの手からティーカップを抜き取った。 カチャリとテーブルの上のソーサーにカップを置いて、テーブルの中央へと滑らせる。 ルルーシュはナナリーとの会話に夢中で気づいていない。
「いいじゃないか、ナナリー。描いてもらえば」
『もう、お姉様!』
「だって、絶対可愛いよナナリーの食事姿。ねえ、兄上」
『そうだろう!「あーん」って口をあけるところなんてまたもう』
『お兄様!!』
「こら、ナナリー。ゲンブも可愛いって思うだろう?ということで兄上、帰ったら私にも一枚くださいね」
『もちろんだよルルーシュ!』
な?と小首をかしげて聞いてきたルルーシュに一つだけ頷いて、 ゲンブはさりげなくケーキの乗った皿をルルーシュの手に乗せた。 気づいたルルーシュが嬉しそうにフォークを手に持ち、ショートケーキの一番端っこにフォークの先端を沈めていく。

食事の合い間合い間に一言二言交わしていたルルーシュとナナリーだったが、 すっかり食事を終え、ナプキンで口元を拭いたナナリーがそういえば、と口を開いた。
『聞きましたよ、お姉様エリア10のテロリスト拠点制圧、おめでとうございます。 ボロボロだった政庁も建て直したとか。シュナイゼル兄様が、相変わらずお姉様の手腕は見事だと仰っていました』
にこり、と人好きのする可愛らしい笑みを浮かべたナナリーに、 自然とこちらも笑みを浮かべてルルーシュは苦笑した。
「まぁ、ね。ありがとうナナリー。でも、私一人の力じゃない。皆が私に協力してくれたからだ」
『それでこそ、私のルルーシュお姉様です』
しばらく二人で笑いあい、通信を終わらせる頃にはすっかりクロヴィスもスケッチを仕上げていた。 モニター越しに映し出されたスケッチブックの一面にはソーセージを頬張ろうと口をあけているナナリーで、 「あーん」という効果音が聞こえてきそうな愛らしさがルルーシュの笑顔を増長させた。 可愛い可愛いを連発するルルーシュにナナリーが真っ赤になるが、気にしない。 それから少しして通信を切り、ルルーシュはそのまま後ろのベッドに倒れこんだ。 ナナリーと話していたときは疲れなどまるで感じなかったけれど、良く考えればかなり疲れていたのだろう。 体が鉛のように重い。
「ルルーシュ」
「・・・ゲンブ」
コンコン、とノックをしてから部屋に入ってきたゲンブは、先ほど持っていった食器を片して来たらしい。 変わりに持っているお盆にはゆらゆらと湯気の立つティーカップが鎮座しており、 ずりずりと体全てをベッドの上に乗り上げたルルーシュは両手を伸ばしてゲンブからそのカップを受け取った。
「・・・おいしい。このハーブティー」
「寝る前と、疲れには丁度いいかなぁって。ルルーシュ好きだろ?」
うん、と頭を縦にふって、ルルーシュはまたコクリと一口飲んだ。 ハーブティーに直接疲労回復効果があるわけではないけれど、 精神的な疲れによる体の疲労をゆっくりと芯からほぐしてくれて、ルルーシュはほうと息をついた。
「・・・やっぱり、結構疲れてるみたいだ」
「当たりまえだろ?ったく」
「うるさいー」

すっかり飲み干したティーカップをトレイの上に戻して、ルルーシュはシーツの間に身体を滑り込ませた。 無事頭を枕に落ち着かせたルルーシュの首元まで、ゲンブが毛布を引き上げる。 そのままトレイを持って部屋を出て行こうとするゲンブの袖を掴んで止めた。
「ルルーシュ?」
「ゲンブ」
どうしたのかと、一旦トレイをテーブルに乗せたゲンブがベッドの端に腰かけ、ルルーシュの髪を梳いた。 その気持ちよさにうっとりと目を閉じたルルーシュが、シーツからゆるゆると手をだした。
「・・・がんばろう、な。もうちょっと」
その言葉に笑みを深くして、ゲンブはその大きな手をゆっくりとルルーシュのそれに絡めた。 上体を倒してルルーシュの額にちゅ、と口付けてから、不満そうなルルーシュを見て今度は唇に。
「ああ。がんばろう。・・・・おやすみ」
「おやすみ、ゲンブ」



たまには一休みだって必要です。

2009年1月20日