星刻の借りているマンションの一室は、一人暮らし2LDKという広さの割りに、想像したとおりシンプルだった。
趣味がいいためか所々に配置されている家具はアクセントが聞いていて、
基本的に白と黒でまとめられている部屋を一人暮らしの殺風景というイメージを払拭させる。
今日ルルーシュは、昼食を作るという目的で星刻の家に訪れていた。
招いた星刻も、普段は教師と生徒という立場で、表立って二人でどこかへ出かけるなど気の利いた事はできない。
ならばせめて、少しでも二人で時間を過ごせれば―――と、いう思いで誘ったのだ。
誘われた時、ルルーシュはこれまで以上に自分が料理が得意だったことを、誇らしく思ったことはない。
大事な人に自分の作った料理を食べてもらって、『美味しい』といってもらえた時の幸福感はずっと知っている。
しかも、それが妹や弟、兄などに作るときとはまた違って、自分が『恋』した人に食べてもらうなら、
なおさら―――経験は無いが、それはどんな喜びなのだろう。
家に着いたのが十二時少し前だったので、すぐさま準備に取り掛かる。
買ってきた材料の中に、例の物がきちんとあることを確認して、
ルルーシュは星刻がリクエストした料理を作り始めた。
レタスだけ
「・・・ルルーシュ?」
なんだ、これは?と困惑気味にルルーシュを見た星刻は、彼女がにこにこと頬杖をつきながら見ているのをみて、
何か彼女を怒らせるようなことをしただろうかと、恐る恐る口を開いた。
「・・・昼食を作ってくれるのではなかった・・のか?」
「え?」
一体どうしたのだろうとルルーシュを見ながら言った言葉に、今度はルルーシュがあっけにとられる。
星刻の困惑が、今目の前におかれた料理?なのだと悟ると、ルルーシュは頬を染めつつ笑った。
「ああ」
今、星刻の前に出されている料理・・・もとい、サラダ?は、透明のサラダボウルいっぱいに盛られたレタスだった。
正確には、レタスとちょっとのレモンと塩なのだが、星刻からしてみればレタスオンリーという感じだ。
先ほどまで沢山の料理のいい香りがしていたというのに、これは一体どういうことか。
「ちゃんと、お料理もあるけど。・・・先生には、まずこれを食べて欲しくて」
「・・・レタスを?」
「うん」
そこまで言うということは、何かレタスに特別な意味があるのだろうか。
それとも、ルルーシュはレタスが大好物・・・とか?
ルルーシュの大好物なんて、苺とプリン以外にあるなんて思わなかった。ぐるぐると思考の渦に沈む。
「・・・もう、先生知らないの?」
ぷくりと頬を膨らませながら拗ねるルルーシュを見て、
やはりこのレタスには何か意味が有るのだろうと悟り―――しかし何の心当たりも無い星刻は、
苦笑しながらすまない、と謝った。
「残念ながら、そのようだな」
「もう・・・」
不満げにため息を漏らしたルルーシュが、テーブルの上に置かれていた星刻の手を持ち上げ、ひっくり返す。
広げさせた星刻の掌に指を滑らせた。
「『レタスだけ』・・・これをね」
ルルーシュが、ゆっくりとアルファベットで星刻の掌に綴っていく。
「『Lettus alone』・・・レタス、アローン」
「・・あ」
「・・・わかった?」
目尻を下げ、照れくさそうに、嬉しそうにはにかみながら笑ったルルーシュを見て、
星刻はルルーシュへの愛しさが込みあがるのを感じた。
「・・・Lettus alone・・・Let us alone。・・・『二人だけにして』」
「好きな人に初めて食べてもらう料理はね、これって昔から決めてたの」
そういって笑うルルーシュを引き寄せて、その柔らかな唇にキスをした。