幸せはいつだってここにある



黒の騎士団本拠地、斑鳩。 人払いをした甲板の上で、二人は向かい合っていた。 二人とも、黒髪で長髪だ。 背の高いほうが、相手の手をとった。 顔を寄せるようにして、額をあわせる。

「君を、迎えにいく」
「何を、言って・・・」
「もう、君は十分に働いた。ブリタニアの崩壊はもうそこにある。黒の騎士団は君の集めた精鋭たちだ。 きっと、合衆国日本はうまくいく。だから」
「星刻・・!」

黙れ、とでもいうように口をふさいだ。 これ以上聞きたくなかった。 それはまるで、まるで自分の罪を許してもらっているような感覚に陥るから。
「私は、もうすぐ死ぬ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアも、ルルーシュ・ランペルージも、ゼロも。」
「合衆国日本は?アレは、君が作った国だ」
「私は日本を率いるつもりは無い。ブリタニアのようにはしたくない。 ・・・ゼロが、合衆国日本を率いてはいけないんだ。」
そう、合衆国日本の建国を宣言したのは確かにゼロだった。 そしてその宣言は、間近に迫ったブリタニア本土での最終決戦で真実のものとなる。 きっとブリタニアは負ける。 一年の間にEUも中華連邦をも見方につけた黒の騎士団は全面戦争をブリタニアにしかける。 皇帝を殺し、新たな皇帝となるシュナイゼルが降伏し、日本開放を宣言するか。 皇帝を殺し、ブリタニアの崩壊をもたらしたゼロが日本開放をシュナイゼルに認めさせるか。 どちらが先でも構わない。 結果的にブリタニアは負け、日本はついに長年の苦渋を晴らし、自由となる。 だが、ゼロが日本を率いてはいけなかった。 日本人じゃなくてもいい。何人でも構わない。 だが、ブリタニア人であってはけしてならない。 そして、黒の騎士団を作り、建国を宣言し、ブリタニアを倒したゼロが合衆国日本を率いるという図も、 決して合ってはならない。 それではブリタニア皇帝と同じになってしまうからだ。 自由になったからこそ、ゼロではない、民衆の意見を尊重する国づくりをしていかなければならない。 もちろん、突然ゼロがいなくなって全てが機能するとは思っていない。 だからこそ、データーベースにこれから起こるであろう事への対処法を片っ端から入力していった。 思いつく限りの事件、事故、政治的法案、刑罰、組織のあり方、予算案、議会法案、人員の選出、外交問題、  国にかかわる全ての事柄を思いついた順からどんどん入力した。 それを素案にしてもいいし、何か困ったことがあったらベースを見たり、していけばいい。 次代の総帥が少しずつ情報を書き加えていって、データをより強固な物にしていけばいい。 だから、ゼロはもういらない。 この戦争で、死ぬべきだ。

「・・・君はどうするんだ?」
「私はブリタニアとの戦争が終わった後、C.C.の願いをかなえることになっている。 その後は・・・そうだな、C.C.と決めるさ」
「私の願い。今言ってやろうか?」
「!?C.C.!」
突然響いた声に、二人は勢いよく振り向いた。 当然だ、人払いをした、誰もいないと思っていた甲板に、何の気配もなく訪れたのだ。

「ルルーシュ。最初の私の願いは、死ぬことだった」
「しーつ」
「聞け。でもそれは、変わったよ。お前の作る世界を、お前の生きる世界を見たいと思った。」
「・・・」
「だから、私の願いは『二人で悠久の時を生きること』に変わった。 マオの作ったその白い家に二人で住みたいと、思っていた」
「C.C.・・・」
「だが、それは別に重要事項ではない。私にとって重要なのは、お前が生きていること。プラス、幸せなら尚いい」
独り言のようにつぶやき続けるC.C.の話の意図が、ルルーシュにはつかめなかった。 いったい何を?
「だから、私は別にその白い家じゃなくてもいいんだ。お前と生きることが出来るならばそれでいい。 お前の愛する人間が一緒でも」
そこで、ようやくルルーシュは話の意図がわかってきた。 つまり、この魔女は。 自分が最も信頼し、支えだと感じていたこの魔女は、ルルーシュに、愛する者―――星刻だ―――と一緒になれ、 とそういっているのだ。 だがそれは、ルルーシュからしてみれば戸惑いでしかない。 自分が一番愛した妹は? 親友だと思っていたあの男は? 自分に従い、共に進んでくれた騎士団員たちは? 生徒会役員達は? どうなる? ・・・・どうなる? 戸惑った表情から考えていることがわかったのだろう、C.C.があざけ笑った。 別に永遠の別れじゃないぞ、と。 それもそうだ。

動揺を浮かべ、俯いたままのルルーシュに視線を合わせるためか、星刻がひざをついた。 膝をついても、つないだ手はそのままだ。 顔を上げて見上げると、紫水晶がうっすらと水の膜をはっていた。 C.C.はルルーシュの隣に立っている。

少し息を吸い込んで、はく。

「君を迎えにいくよ、ルル。だから、生きてくれ」
「な・・」
「一緒に、暮らそう。中華連邦で。・・・天子さまに仕えろとは言っていない。 ただ、私とともに歩んではくれないだろうか?」
「星刻」
「その・・その、お腹の子とともに。三人で、暮らそう。幸せになろう」
「星刻」
「誰だって幸せになる権利を持ってる。それは君だって例外じゃない、ルルーシュ。」
「星刻・・・」
「ルル。君の望んだ優しい世界はもうすぐ出来上がる。ナナリー姫も、本当の意味で幸せになれる。だから」
「星刻っ」
「ルルーシュ。・・・共に生きよう。幸せに暮らそう。・・・頼む」
「・・・・星刻」
「私もついていく。厄介になるぞ」
「構わない。四人で」

「ルルーシュ。私と生涯を共にしていただけますか」


ものすごく、優しい笑みだった。 視線を横にずらせば、C.C.も同じ用に微笑んでいて、どうも目頭が熱くてしょうがなかった。 瞬きをすれば、涙がこぼれる。 自分を見上げている星刻にも、C.C.にも見られたくなくて、夜空に光っている流れ星を見て言った。

「ナナリーも一緒なら、五人でなら・・・」

視線を合わせて、何度も何度もうなずいた。

「ああ、そうだな。ナナリー姫も一緒に。私と、君と、C.C.と、ナナリーと、まだ見ぬ私達の子と」
「・・・どこまでシスコンなんだ、お前」
「ぅるさぃ・・・・っ・・・ふ、」



ああ、泣きたくなんて無かったのに。


どうしよう、幸せだ。