「・・・こら、マオ」
「んんぅ〜」
すりすりと膝に頭を押し付けてくるマオの頭を、ルルーシュは溜息とともにそっとなでた。 その感触に気を良くしたらしいマオが、一層ご機嫌に甘える。
「いつ誰が入ってくるともわからないんだから、そんなだらけたことはしないの」
「いいじゃん、大丈夫だよぉ。聞こえてるからぁ」
椅子に腰掛けているルルーシュの膝元に座り込み、頭をなでられている様子は一見するとペットのようで、 一応品格のある場所でこういうことをするのはいかがなものかと思ったけれど。 外の様子をきちんと聞き取っているマオが、大丈夫だというのだからそうなのだろう。
深紅のビロードで出来たカーテン越しに聞こえるショパンの音に耳を委ねて目を伏せたところで、 下から甘えた声がかかる。
「ねぇ、ルル」
「んー?」
「しんくーにギアスを与えるの?」
その問いにぴくりと肩を震わせ、ルルーシュはマオを見た。その顔は嫌がるでもなく、ただ好奇に満ちていて。
「・・・さぁ。わからないな」
「しんくーなら僕いいよ、仲良くしても」
「そうなのか?」
ルルーシュと、かつてルルーシュにギアスを与えたC.C.以外の人間を徹底的に嫌う、 大の人間嫌いのマオが告げた言葉に驚きを隠せなくて、ルルーシュはついつい目を見張った。 うん、あのねーとマオがにっこりと笑った。
「しんくーはねー、ちょっと僕と食べ物の趣味が似てるんだよー」
「・・・そうなのか」
「あとねー、誠実だしねー、優しいしねー、初めて僕のこと見たとき、僕を変人扱いしなかったよ」
「・・そっか」
「『誰だこの男は?』とー、『黒薔薇姫の付き人か、』とー、『・・・子ども?』とー、『甘えん坊・・・』 とかねー、僕のルルへの愛情を示す言葉しか言わなかったよー!」
「よかったな」
「うん!それにね、ルルの彼氏にしたい理想の男の条件を全部らくらくクリアしてるんだよー」
「っ!?」
「C.C.から聞いたんだー」
へにゃりと笑って、マオはぐりぐりとルルーシュの膝に頭を押し付けた。 意識はフロアにいるであろう星刻に向いていて目を閉じてじっとしていることから、 マオが星刻の声を聞き取っていることが伺い知れた。



「・・・行こうか、マオ」
「うん!るるーーーるるるるエル!」
シンプルながらも動きやすい私服に着替えたルルーシュを見て、マオは嬉々として立ち上がった。 ルルーシュが髪に黒薔薇をつけたことに気付き、慌てて呼び名を変える。
そんなマオにくすりと笑い、ルルーシュは傍にあったトランクを持った。すかさずその手からマオが奪う。
「ねぇねぇエル、星刻はギアスを貰うかな?」
「さぁ・・・それは星刻に任せるよ」
「貰ったらいいよねー。ギアス貰ったらエルの名前を教えてもらえるんだよ!」
「それにしてはリスクが高すぎるような気がするが・・・まぁ、いいか」
「絶対貰うよ!星刻、エルのこと好きだもん」
「・・・・そ、うなのか?」
ふっと頬を染めたルルーシュににっこりと笑って、マオは腕に抱きついた。
「んー、あの時はまだ『好き』じゃなかったけどーでも『会いたいな』って思ってるから、多分ねえ」
「・・そうか」
「それに、あんだけ近づいてエルに惚れない男はいないと思うよ」
「・・・?」

不思議そうにマオを見たルルーシュに笑って、マオは静かに呟いた。
「だって黒薔薇の意味は―――『あなたは私のもの』、だもの」



薔薇の口づけ、甘く 3



黒の騎士団へのお土産は、何が良いと思う、マオ?んーとねぇ、チーズ君人形!

2009年7月2日