「もの凄く生々しい話をしてもいいか、ルルーシュ」
「何だ、星刻」
「婚約指輪は良く『給料の三か月分』というだろう」
「デリアス社の広告だろう。まぁ、あいつは三か月分送ってきたが」
「ブリタニアでは給料の一か月分だ。 まぁ、当時デリアスがキャンペーンをはじめたときに、 ブリタニア人の一ヶ月の給与が日本人の三か月分に相当するかららしいが。ちなみにEUは二ヶ月だ。 中華連邦では二ヵ月半といわれているが、 私からしてみればなぜ生涯の伴侶を決めるのにそんなけちけちしているのかがわからないな。年収だろう」
「太っ腹だな」
「普通だ。白いウェディングドレスも似合っているが、初めはこんなものパッとしなかったんだぞ。 しかも発祥はブリタニアでもなくEUの一部であるイギリスだ。」
「私に文句でもあるのか」
「まさか。・・・洋服屋は純潔な花嫁には白をと宣伝したらしいが、 教会関係者は『花嫁が純潔なのは当たり前』だと批判されたらしい。 その後夜会で白がはやり始めて、それをみた庶民の女達が「私も白のドレスを着たい、でも高くて無理。 でも一生に一度の結婚式ならいいかも」と思って、結婚式に着るようになったらしい。 中華連邦は、そんなチョコがいつの間にかバレンタインの象徴になったみたいなドレスじゃないぞ。」
「そうか」
「ああ。キャンドルサービスだって、他国じゃまるでやってない。 考案したのはもちろんロウソク会社だし、発祥だって日本。 ロウソクをつけて回ることのどこがサービスなんだ。長ったらしくてありゃしない」
「それを言われたらおしまいだ」
「日本ではブーケを投げるんだろう。 中華はそんなことしないが、ブリタニアはガーターを花婿が口ではずすらしいな」
「花を投げるんだぞ。ロマンチックじゃないか。」
「自分が祝われる立場なのにか?・・・子どもが生まれたら、あの男は嬉々として高い高いをするんだろうな」
「まぁ、するだろうな」
「アレは虐待だぞ。ブリタニアじゃ犯罪ものだ。 実際に年間2000人もの赤ん坊が高い高いが原因のSBSで命を落としているというのに」

「・・・星刻」
「なんだ、ルルーシュ」
「『女が一人でいるとき、どんなふうに過ごしているのかを知ったら、 男は決して結婚などしないだろう。ヘンリー』」
「馬鹿か。結婚は一生涯、傍にいるという契約だ。夢を見るためにするんじゃない」
「『結婚は人生そのもの。戦場であって、バラの園ではない。スチーブソン』」
「そりゃあ、さぞかし私達は戦場が似合うだろうよ。そもそも、バラの園でうふふあははとお茶をする関係か?」
「・・・『王国を統治するよりも、家庭を治めるほうが難しい。モンテーニュ』」
「君の父親を見ろ。いい例だ」
「『結婚をして一人の人間が二人になると、一人でいた時よりも人間の品格が堕落する場合が多い。夏目漱石』」
「君、日本の文学も読むんだな。あの男は間違いなくだらけるだろう。私はそんなことないぞ」
「『平和な仲のよい夫婦ほどお互いにむずかしい努力をしあっているのだ、 ということを見逃してはならない。野上弥生子』」
「君達はそうなるかしれないが、私ならばどうだ?決して平和など訪れない。 けれど、仲をたがえることだけはない。・・・そう思わないか」
「『男が家庭を持ちたいってのは、思いきり阿呆になれる場所がほしいからだ。川端康生』」
「阿呆かどうかはしらないが、君に甘えたくないと思う男がいるのならば会ってみたい。」
「『結婚してからの一日一日は、相手の欠点を一つ一つ発見していく一日である。なだいなだ』」
「そうなったらあの男はきっと、心底君に呆れるだろうな。けれど私なら?君の欠点とて愛しく思う。いけないか」

『・・・枢木様、お時間でございます』
「星刻・・・もう、いかなきゃ」
「そうか」
「もう・・・いいのか?」
「・・・・・ああ・・・・いいの、だろうな」
「・・・そうか」
細い身体がドアをくぐっていく。白い純潔が床に引き摺る。顔にかかったヴェールはまるで亡骸への布のようだ。 広く開かれた背中はあの男が撫ぜるためにあるのだと思うと、酷く苛立たしい。 彩られた唇が、彼女がカケラほども信じていないカミサマとやらへの 誓いの為に奪われるのかと思うと、戦慄すら走る。
思わず腕を掴んで、引き寄せた。死装束のようなそれをひきちぎりたい衝動にかられながら、ヴェールを取って捨てる。 ドアを閉めて、膝をついた。 細い、薬指に彩られた陳腐な給料三ヶ月分の指輪を見遣って、それに噛み付いてから両手を取った。 あきらめるなどできるものか。

「―――枢木スザクの、どこがいいのかわからない。私では、ダメなのか。私を選んでは、くれないか」
「・・・・しん、くー・・・・」
『ルルーシュ、まだ?入るよ?』
「ルルーシュ、このままじゃもう会えない・・・・」
「しん、く、」
「何してるの、ルルーシュ・・?っ、星刻!?」
瞬時にスザクが星刻の手を振り払い、ルルーシュの腕をひっぱって後ろに隠す。 締め付けの強さにルルーシュが顔を歪めたのにも気付かないのか。
「何しに来た!」
「ルルーシュ、本当にその男いいのか」
「何しに来たと、聞いているんだ!黎星刻」
「ルルーシュ、」
「ルルーシュは僕のものだ!!お前になど渡さない・・・ずっと、一生僕のものだ!」
「愛して、いる・・・ルルーシュ」



真っ赤なドレスにしてしまえ



『結婚しました』と書かれている車に乗って、走り出す。
「いいのか?乗ってきてしまって」
「構わないだろう?」
信号が赤に変わり、車を止める。そうっと首の後ろに手を回して、けれど口付けた唇に遠慮なんてしなかった。

(私なら、指輪など三ヶ月と言わず年収だ。 君には染まりやすい白よりも緋色の衣装を着て欲しいし、 キャンドルサービスなんて君が時間の無駄だと思いそうな事、絶対にしない。考え付きもしない。あの男と違って。 ブーケなんて君に正確に投げられるわけないだろう?外して恥ずかしい思いをするのなら、しなければいい。 口でガーターも以ての外だ。君は高い高いの習慣なんてないからしないし。
君だけを愛している。君の欠点ぐらい喜んで受け入れよう。 甘えさせてくれるというなら、阿呆にだってきっとなれる)



失敗した感ありありな略奪愛です(にっこり

2009年4月11日 (2009年5月21日)