神への反逆 3



戻ってきた神田は何も言わなかった。リナリーも何かを聞くことはせず、ただ任務から帰ってきたときのようにおかえりと言って出迎えた。相変わらずぶっきらぼうだったけれど、それでも神田も何時もどおりただいまと言ってリナリーの抱擁を受け入れた。ホッという安堵の溜息に、リナリーは泣きたくなってしまって、神田の梵字の刻まれた胸に顔を押し付けた。神田が息を詰めた。

しばらくして二人で任務に出たとき、床が崩れて神田が落ちた。黒靴(ダークブーツ)でおり、神田の上から瓦礫を全部どかしたけれど、彼の右半身はぐしゃぐしゃで、何が腕で何が足で何が胴体なのかもわからないほどに潰れていた。息も絶え絶えに彼が死んだと思ったその時、少しずつ彼の腕は骨を再生し、筋肉を作り上げ皮を纏った。その光景に神田もリナリーも目を見張った。三十分もすれば彼の肉体は綺麗に跡形もなく再生していた。血だけは足りなくて、神田は相変わらずふらついていたけれど、それでも。

少し怯えの走った目で神田がリナリーを見遣った。けれどリナリーは笑顔を浮かべた。絶望と歓喜が身を満たした。神田はもう「ヒト」ではない事に、リナリーは涙を流した。けれど彼は、怪我をしても死ぬことがなくなった。そのことが嬉しくて、リナリーはそんな自分に吐き気がするほど嫌悪感が募ったけれど、それでも笑顔を浮かべてしまった。

彼の首に腕を回して抱きついた。

「大好きよ、ユウ。好き、大好き、大好き。大好きよ。一人じゃないわ。大好きよ、ユウ」

それでもいつの間にかリナリーから笑顔はきえていた。あれ。どうして。彼の体中を走っていたはずの梵字が退いていく。胸のマークにすっぽりと全ては収まって、リナリーは泣いた。ひどいよ神さま。



それでもあなたが私の世界にいてくれるなら

2011年8月23日 (2010年9月5日初出)