神さま、奇跡をください

俺は神なんざ信じネェ。
この言葉を言われたとき、ああ、やっぱりと思った。

神?んだ、ソレは。ンなもんアホな糞バカアホクソ共が作り上げた妄想だ想像だ空想だ 虚空の存在だ気持ち悪ぃよがって頼って信じるただの拠り所だテメェはそういう 糞クソッタレ的なものを信じるってのかアア胸糞悪いだが別にソレが悪いっつってんじゃ ねぇ信じる信じないはテメェの勝手だだが俺にメーワクがかかるんだったらとっとと そのアホな信じる心とやらを捨てて来いソレができねっつんだったら無宗教という これまた素晴らしい宗教にこの俺様が直々に連れ込んでやるぜそれでいいだろう?

別にわたしがクリスチャンだったわけじゃなくて、ただお母さんの家系がそうだったから必然的に自分も心がどこにあろうとクリスチャンであるしかなかっただけだ。 そうは言ってもまあ本当に信じてないわけではなくて、だって怖いときとかお願いするときとかはきっと無宗教の人だって「神様、」って心の中で思うものだとおもう。 神様神様、お願いします、どうかこの願いをかなえてください。

本当にキリストと言う存在を信じていたわけではなかったけれど、 でもアメリカ人のおばあちゃんからよく彼についてのお話を聞かせてもらってて、 本当にいたかどうかなんて、わたし達を見守ってくださってるだなんて、 心の底から信じることなどできなかったけれど、 でも世に伝えられている彼の英雄説を聞いてああ、 とてもいい人だったんだなんてことぐらいは思ったりもした。

けれど、彼に出会ってからはそんな存在なんてわたしの心の中には在りはしなくなって、いつしか「どうか神様、」なんて事を思うことすらなくなっていた。 だってあの人と付き合っていくに当たって(恋愛とか部活とか学校関係とかそういうのを全部ひっくるめてふくんで)神様なんてものを頼りにしていたなら、きっとわたしはもう死んでいるのだ。 彼の事をきちんと知る前から自分の中にいる神と言う存在を曖昧に思えていた自分をほめてあげたいほど、わたしは運がよかったと思う。 彼が神だとか言う存在を嫌うという事を知ってから信じるのをやめていたのなら、きっとそれは手遅れだったからだ。 きっと表情や態度の変化は普通の人にはわからなくとも彼にはきっと雄弁に語ることになってしまって、結局テメェはバカかアホか神なんざいネェよこのタコ!!といわれたのがオチだ。 よかった、神様はあまり信じていなくて。



ソレが起こったのは夢が実現した三年後、わたしは大きなおなかを抱えていて、彼は隣を歩いていた。 夢を果たした彼は今度は夢のまた夢といわれていたような聖地に足を踏み入れて、その中でも最強といわれる場所の司令塔と言うポジションを保持していた。 そんな彼を十五の春から見ていたわたしは彼の専属のマネと言う形に収まっていて、高校時代と何が違うと聞かれてもソレはきっと更に恋人から進歩した関係と、みんなの、から専属の、マネになったという事だけだと思う。 でもこのおなかがまたペタンとなる頃には二人の関係は更に飛躍していること間違いなしで、この子はわたし達を何と呼ぶだろう、お父さんお母さんかな、わたしの希望はパパとママだった。

青に変わってゆっくりと二人で一歩を踏み出した瞬間、右からトラックが飛んできた。 そう、当事者としては突っ込んできたよりも飛んできたの方がよっぽどしっくりくる。 とっさの事にわたしは反応などできなくて、でも何ももっていなかった自分の腕と手は大きなおなかを包み込んでいて、そして次の瞬間には高校時代から変わることのなかった暖かい体温に包まれていた。




黒いわたしの腕の中では女の子がスヤスヤと眠っていて、その子の柔らかい髪を撫でながらわたしは名前を呼んだ。 名前はわたしの独断で決めて、彼の名前の最初の文字の読み仮名を少々変えたものだった。 感じで書くとちょっとアヤシイ感じだったので、カタカナで思いっきりかわいくした。 わたしの隣にはお母さんと、彼のお母さんと、そして左隣にはセナと、モン太君とか、元デビルバッツの面々が並んでいた。 わたしは自分の真正面にあるお坊さんの光る頭よりももう少し上にあるこの場には不釣合いのような金髪とピアスをギンギンに光らせた彼の写真をずっと見つめていて、何このブサイクな写真、本物はもっとカッコイイわ、と最早意味の無い惚気を一人で、自分とこの子に向けていた。

最後のお別れをなさってくださいって言われて、皆が棺の周りに集まる。 わたしが近づくと皆は大きく場所を割って、わたしに顔が一番良く見えて、一番近くで触れられる場所に座らせてくれた。 生まれて間もないこの子をもう冷たい腕に収める。 力の入っていない手を動かして、胸の上に置いたわが子に置く。 とりあえず、自分の野望は完成された。 本当は光の宿る目とか、きちんと体温のあるからだとか、不適に笑う口元とかが実現してソレが起こればよかったのだけど、もうそんな事はできないから、とりあえずよかった、と思う。 わが子に彼を独り占めされたのが段々悔しくなってきて、負けじと自分もゆっくりと手を伸ばし、彼の頬を触った。 ゆっくりと撫でて、その感触を確かめる。

神?んだ、ソレは。ンなもんアホな糞バカアホクソ共が作り上げた妄想だ想像だ空想だ 虚空の存在だ気持ち悪ぃよがって頼って信じるただの拠り所だテメェはそういう 糞クソッタレ的なものを信じるってのかアア胸糞悪いだが別にソレが悪いっつってんじゃ ねぇ信じる信じないはテメェの勝手だだが俺にメーワクがかかるんだったらとっとと そのアホな信じる心とやらを捨てて来いソレができねっつんだったら無宗教という これまた素晴らしい宗教にこの俺様が直々に連れ込んでやるぜそれでいいだろう?

確かにそうだと思った。
特に、彼に出会ってからは。
自分の中にある神と言う存在を完全に否定して、最早その言葉すら心に表れなくなっていたハズなのに、わたしはなぜか口走っていた。
心の中では呟けなかった。
心の中では彼とまだ抱きしめあっていた。
言葉を聞いた回りの皆は、瞬間に顔をしかめて泣き出してしまった。

ごめんね。

「かみさま、きせきをください・・・・」


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7.神さま、奇跡をください / 唐突な別れに贈る7のお題 ** 配布元:TV