Because 4



「予告状」
優秀な副官が淡々と読み上げた内容を復唱して、ロイ・マスタングは深く椅子にもたれた。
「はい。『神なる翼』を名乗っています。オカルト系宗教団体のテロリストで、自称自警団です。本拠地をセントラルの何処かとし、東西で『聖なる左翼』と『聖なる右翼』として活動していました。大佐が半年程前に『左翼』を壊滅させましたので、どうやら右翼のリーダーが左翼と統合して出来たグループのようですね」
うぇ、宗教団体かよ、とブレダがいやそうに呟く。それにはハボックも賛成だ。軍に不満を持っていたり政策に対する意思表示だったりするテロリストはまだ制圧後も扱いが楽なのだが、宗教団体はそもそもの成り立ちとして国に求めている物が曖昧な上、行動理由も彼らだけの論理と思想だけで行われているため、非常に厄介だと言わざるを得ない。
「なるほど。して、それに教祖は実質的に加担しているのかね」
「それはわかりません。・・・が、わざわざ宗教団体から実動部隊をわけて存在させているのですから、教祖は大まかな指示を出しているだけと考えるのが妥当でしょう。もしくは宗教の信念の元に、その『自警団』のリーダーに任せているのかもしれません」
「なんにせよ、今日正午を回ってセントラルの何処かに爆弾を爆発させるという予告は来てるんだ。正当性も無い上何がしたいかもさっぱりわからんから腹立たしい事この上ないが、頑張ってくれ」
「アイ・サー!」
朝っぱらからヘビーな話だ。今日はエドに愚痴を聞いてもらおうと心に決めて、ハボックは早速場所を特定すべく動きだした。



「あー・・・これ、終わるんスかねぇ」
机の上に山積みにされた資料を見て、ハボックはげんなりと溜息をついた。今回のテロリストは以前ロイが制圧したグループなので、当然コピーではあるが当時の資料はこっちに持ってきてある。しかし細部に渡るものとは言いがたく、端的に言ってしまえば荷物を軽くしたかった為、核心的な情報、つまりちょっと調べればすぐ解りそうなものしかないのである。なので当然オリジナルを東部から持ってくる必要があるのだが・・・それには2日かかる、というのが今東方司令部を任されている人間の言葉だ。
今ハボック達がやろうとしているのは、テロリスト達の的の特定だ。『宗教団体』である為、何かを爆破するというなら当然彼らの信仰の妨げとなる物である筈だ。ハボック達に課されたのは、今まで彼らが起こしてきたテロの再捜査・・・等ではなく、本にすれば恐らく数百ページにも登るであろう彼らの『信仰』を綴った資料を読みふけり、彼らを理解し、その上で彼らが嫌いそうな物や建物の特定をしていくという物だ。正直これといって信仰心の無いハボック達には、辛過ぎる作業である。この中で唯一信仰していると言って良いフュリーでさえ、『信じるものがあるのはいい事ですね』程度である。読むのも記憶するのもむしろ趣味なファルマンとは違い、肉体労働がメインの彼らには酷といってもいい。只今の時刻は九時。最低でも後二時間で、どうにか突き止めろというのがロイの命令だ。
「うえーこいつらキモチワリー」
「神の身許を離れるときは身を捧げよ・・・って、エロい意味じゃなくてグロい意味かよ・・・」
「指・・・・」
「こっちは腕・・・」
「こいつは耳・・・」
「・・・こちらの男性は、アレですよ。アレアレ」
「「「「・・・・・うっわぁ・・・・・」」」」
皆、心無しかズボンの上からそっと手を当ててしまった。



結果から言うと、爆破対象物は簡単にわかった。と言ってもいい。

結局ハボック達は正午までに爆発の対象を突き止める事ができなかった。とりあえずはメジャーな場所を狙うだろう、とセントラルステーションやら病院やらを憲兵司令部にも増援を依頼して張っていたが、すべて空振りし。結局爆発したのは、その辺にあるアパルトマンの最上階だった。調べてみるとそこは『神なる翼』とはまた別のオカルト宗教団体の本拠地で、司令部に送られてきた次の予告状ではまた一時間後に他の場所を捕獲すると書いてあった。それさえ解ってしまえば後は簡単で、特に害もないからと放っておいた他の宗教団体の本拠地を片っ端から保護していけばいいだけだった。つまり「神なる翼」は、自分たち以外の宗教の存在が我慢ならなかった訳である。思わず呆れてしまったが、宗教なんて所詮そんな物だと割り切り、ロイたちは取っ捕まえたテロリストの一部を尋問にかけ、爆破対象の宗教団体とその本拠地を吐かせていた。ロイたちの素早い対応にテロリスト達も焦ってきたのか、それから予告状は送られてこず、時間等関係無しに爆発を起こしていた。といっても殆ど防いでいたので、被害は殆どなかったが。
そしてロイ達が最後の爆破対象とされている通りに向かっている時。
「なぁ、なんかこの住所見覚えねぇか?」
ブレダが隣に座っているファルマンにきいた。ファルマンがメモを覗き込む。
「そういえば・・・・ハボック少尉のご自宅は、この辺りであったのでは?」
「・・・おお」
二つの車両に別れて目的地、サン・リオ通りについたロイ達は、憲兵も連れて徹底的に調査しはじめた。ハボックは終始焦った様子で、それを見たロイが咎める。
「おいハボック、どうした」
「大佐ー・・・俺この辺住んでるんすよ?もし爆破でもされたらどうするんスかー・・・」
「そうなったらそうなっただ。貴重な物など置いてないのだろうどうせ」
「どうせ俺はあんたと違って貧乏ですけどね!!」
ドォオオン!!!
「・・・おい、ハボ」
「んだよ!」
「・・・・あれ、お前んちじゃねぇのか」
「は?・・・っーーーー!!」

ハボックのアパルトマンが、燃えていた。



な ん だ と 。

2011年7月15日