「えっそれで燃えちゃったの!?全部!?」
「おお・・・」
その日の夜。本来ならばチーム全員で残業をし、休日返上で事件の後処理をしている筈だが、ハボックは一人免除されてバーに来ていた。皆から哀れみの目で見られ、そして放心状態だったハボックに、帰宅していいというお達しがきたのだ。帰宅する家も無いのに何処へ、と思ったハボックだったが、どちらにせよ仕事に集中できそうにもなかったので、とりあえずエドワードに愚痴ろうと来たのである。
「セントラルに来てからずっと忙しくて、金やら通帳やらは全部職場の金庫に保管してたから、無事だったんだが・・・」
丁度一曲弾き終わったエドワードが、来ていたハボックから普段よりもきつい酒の匂いに気づき、話をきき始めて一時間。酔っていたハボックは肝心の部分にたどり着くまでに一時間もかかったのだ。
「まぁ、労災おりただけでも幸いだぜ・・・。服とかも全部無くなっちまったから、コレで給料から出せなんて言われたら俺死ぬ・・・」
ハボックの顔は想像でしか見た事はないけれど、何故だか彼の頭に垂れた耳が見えた気がして、エドワードは腕を上げた。頭を撫でようと手のひらをおろすけれども、すかっと空気をきる。けれどその拍子に肩に触れたので、手を滑らせて頭にたどり着いた。
「くっそ、今日は飲む!飲んでやる!」
「おお、飲め飲め!」
アメストリスは十八歳から飲酒可能だ。当然、エドワードも飲んでいた。
「ジャンのアパルトマンにかんぱーい!」
「かんぱーい!!」
そして二人は飲み続けた。途中からくだをまき、べろんべろんになりながら泣いて特に大切でも無かったアパルトマンをおもって泣き、そしてそんなハボックにエドも泣きながら酒をすすめる。だが、エドワードは決して酔うまで飲まない。一度酔うと頭がくらくらして平衡感覚を失い、歩けなくなるからだ。
「ところでジャン、今日どうすんの」
「あー・・・今日は宿か軍の仮眠室だな。2日休暇もらったから、不動産回ってみるつもりだけど」
「うちくる?」
「へ?」
「十二階建てのアパルトマンなんだけど、ワンフロアツールームタイプだから、広いし。ピアノおいてて防音にもなるから、周りは何もなくてのどかだし、近くに公園もあるし。前のジャンの家からは反対方向かもだけど、司令部までの距離はそんな変わらないじゃん」
「え・・・いやでも」
「部屋はアルがいつも帰ってくる時に使う部屋だからベッドはでかいし、マットも枕もフカフカだし、朝は朝食付きだぞ?」
「行きます」
もう一度言おう、ハボックは酔っていた。



Because 5



「・・・・て、ちょっと待て」
エドと連れたって店を出たハボックは、悠々と機嫌よく歩いていた。酔ってはいたがエドへの気遣いは忘れていない。盲目である彼女は背中か腕を支えてもらうと歩きやすいといっていたので腕を組んで歩いていると、いつの間にか前ハボックがエドワードを送っていった場所を通り過ぎていた。喧噪が遠ざかり、木々を揺らす風の音と緑の匂いが花をかすめる。夜風にあたりながら歩き、ハボックはようやく覚醒した。いくらなんでもこの展開はまずい。
「エド、やっぱり俺軍に戻るわ。仮眠室にー・・・」
酔いが冷めてからもしばらくは少しぼうっとしていた。慌てて身をひこうと足を止めれば、エドが不思議そうにハボックを見上げた。
「え。でも、もうついたよ」



マジか。

2011年8月2日