目覚めて、壁が真っ白に光り輝く。そんな部屋が、木兎は好きだ。


 木兎の朝は毎日変わらない。
 隣ですうすう眠るひとの頭を押さえつける枕をひとつそっと取り、髪をかき分けるように鼻をうめて、ようやく現れた耳と頬に口をくっつける。うにゃうにゃ唸って枕を取り返そうとする手をかわして、おはようと声をかける。またむにゃむにゃ返事を返す彼に笑って、ベッドから降りる。そしてランニングウェアに着替えて、外へ繰り出す。

 心地よいペースで走って十分、国立公園。ポケットからマウスピースを取り出し、長身をさらに引き立たせるように背筋を伸ばして、息を吸う。繰り返されるのはトォー、トゥー、ティー。これを十分。澄んだ空気に、差し込む朝日。時折目が合う、毎朝おなじみの顔ぶれ。犬の鳴き声。老人同士の会話。それらを耳にしながら、ストイックに、ただひたすらに。木兎のそばを通った彼らが公園を一周して戻ってくる頃、木兎はようやく息をつく。また走って十分、家へと戻る。

 家を出る時に唸っていた彼は、帰る頃にはもう目覚めている。ドアをあければコーヒーの、ベーコンの香りが漂ってくる。もどかしげにランニングシューズを脱いで、木兎はキッチンでコンロに向かっているそのひとに、そわそわしつつもゆっくりと、背中から手を回すのだ。
「黒尾、おっはよ!」
「はよー」
 振り向いた彼とちゅっと唇をふれあわせて、額をこつりと合わせて見つめ合う。いつもの朝の挨拶だ。今日はまだ少し眠気が強いのか、とろけた蜂蜜の色にさらにうっとりしながら、木兎は笑った。
「朝飯なに!?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめながら手元を覗き込む木兎をうっとうしげに肘で小突きながら、黒尾もまた笑う。
「んー、サンドイッチとサラダ、たまご、半熟でいい?」
「うん!」
 シャワーを浴びるべく木兎はようやくキッチンを離れた。途中、キッチンカウンターに置かれた黒尾のマグカップからコーヒーを一口拝借する事を忘れずに。



 シャワーを出て、ぬれた髪を拭きながらダイニングへと赴けば、二人でぴったりのテーブルにめいっぱい乗せられたサラダボウル、固いバゲットで挟んだサンドイッチに、猫とふくろうのカフェオレボウル。木兎のにはシリアル、黒尾のにはヨーグルト。タブレットでニュースを確認する黒尾がその長い足をきゅうくつそうに組みながら座っていて、木兎を見るなり、食べようぜ、と笑いかけてくる。
「すっげ美味そう! いただきます!」
 席につくなりそう声をあげた木兎に、黒尾が笑う。
「あっ」
 サンドイッチに手を伸ばそうとしたところで、木兎は忘れてはいけないとばかりに黒尾のほうへ身を乗りだした。
「朝飯つくってくれてありがと!」
「……おう」
 毎日毎日、欠かさずかけられる言葉は少し照れくさい。黒尾は面映そうにわらって、突き出された唇にちゅっとキスをしてやった。


 木兎と黒尾の朝は、こんなふうにして始まる。









黒尾鉄朗、個人の朝
冬にやりたい九つの事
彼らはいかにして出会ったか
いっしょに暮らす喜び
不計画性に感謝した愛
アパッショナート
今世紀最大級の福音
マエストロ・黒尾鉄朗
(タイトル不定*順不定)


2/18: 冬にやりたい九つの事 3



はいきゅー音大生パロ。ぼっくろを中心に、愛を歌いながら音楽を奏でる、そんな彼らの日常をオムニバス形式でお贈りします。
(兎クロメイン、赤この、阿吽、オールキャラ)

2014年11月7日