ラヴソング・ウィズ・オール



ハムとレタス、ツナ、たまご、カツ、様々な具を挟んだサンドイッチを大きなバスケット二つにぎっしりと詰め、 ランカは埃をかぶらないように上からラップをそっとかけて、さらに布を落ち着けた。 脂の多いから揚げや中華系の汁が出る危険性のあるものはたくさんのタッパーに入れ、 そしてそれをこれまた大きなトートバッグに入れた。飲み物は男性陣が沢山用意してくれている。 男性の言う多いというのは一体どれくらいの量を指すのだろう、と女であるランカは思案しながら、 忘れている物はないかチェックする。
人数分の割り箸、紙皿、紙コップ。キッチンにおいたバスケット二つ、トートバッグ一つ、そしてその他諸々が入った袋。 それら全てをチェックして、全てが揃っていることを確認すると、 ランカはリビングで新聞を読んでいる兄のオズマを呼んだ。
「お兄ちゃーん、これ玄関に持ってってくれない?わたし、着替えてくるから!」
「おう、まかせな!」
乱雑に新聞をたたんでローテーブルに放ると、オズマはキッチンの床においてある全ての荷物を持ち上げた。 さすがSMSでエースパイロットを務めているだけあって、重い物を持っているというのにその身体は揺らがない。 オズマが荷物を玄関に運んでいく様子を確認すると、ランカは自分の部屋へスキップしながら入った。
出かける直前に何を着よう!と悩めば、やはり年頃の女の子であるランカはどうしても時間が掛かってしまう。 そんなことがないようにと昨日一晩中考えた服装は、春先にふさわしい薄い黄色のワンピースだ。 実の姉の様に慕っている、仕事仲間でもあるシェリルと先日行ったショッピングで一目惚れしたそれは、 シェリルが強く勧めたこともあってランカに良く似合っていた。 買っちゃいなさいよ、と背中を押されるがままに購入したそれは、今日始めて袖を通す。 新しくおろしたばかりの新品のワンピースを着た鏡越しの自分は、なんとなしに嬉しそうに見えて、 ランカはそのまま鏡の前で一回転した。 小さなバッグに最低限の化粧品と仕事するに当たって欠かせなくなってしまった手帳とペン二本、デジカメ、 そしてぶにぶにしたお気に入りの携帯を入れる。 いつもだったらスカートのポケットに押し込むのだけれど、ワンピースにポケットはない。 それに携帯でスカートがもっこりしているのも嫌なのだから、ランカはそのままもう一回転してから部屋をでた。
洗面所にたどり着くと、真っ先にランカは髪の毛を梳かす。 後ろ髪を軽く整え、リボンが歪んでいないかをチェックする。 他におかしなところがないか確認してから、前髪にピンをつけるべきかどうかで悩む。 もうあまり時間もないというのに、悩む気持ちを抑えられないのだからランカは途方に暮れた。 はぁ、と大きく息を吐いたところで、そっと大きな手が髪を整えた。 ほそいながらもしっかりと節のあるすらりとした指は実の兄であるブレラのもので、 春先と髪に合う薄い色のシャツを着込んだブレラは文句なしに格好いい。 オズマとブレラは、やはりランカの自慢の兄だった。
「お兄ちゃん」
「・・・ほら、これでいい」
黙々と髪を梳いていた手が離れると、ランカはもう一度鏡を見た。 少しだけ気になっていた髪のハネが見事になくなっているのを見て、気分が上昇する。 兄の背中に腕を巻きつけるようにぎゅうぎゅうと抱きついたランカは、眩い笑顔をブレラにむけてから玄関へむかった。
「ありがとっ、ブレラお兄ちゃん!」
「・・・ああ」

ヒールの高い靴は、履き慣れていないからか、ランカにはいささか歩きにくい。 そのため買ったヒールの低いミュールは柔らかくランカの爪先とかかとを包み込んで、ランカはカツンと音をたてた。 ヒールの高さと色が違うだけで、シェリルも全く同じデザインのものを持っている。 今日シェリルも履いてくるというのだから、本当の姉妹のような錯覚をおこさせてランカはそれを喜んだ。
玄関を出て階段を降りれば、学校の同期であるミシェル、ナナセ、ルカ、そして恋人でもあるアルトが立っていて、 ランカは近くにいるというのに大きく手を振った。
「おはよう、皆!アルト君!」
「おはよう、ランカちゃん」
「おはようございます!」
「ランカちゃん、おはようございます!」
元気よく挨拶をしてくる友達一人一人と笑いあって、 最後にアルトの方を向けば、アルトがそっとランカの頬にキスを落としてくる。
「おはよう、ランカ」
「お、・・・おはよう・・・」
ここ最近忙しくて一週間ぶりにあったからといって、いきなりこのようなスキンシップは初なランカには恥ずかしい。 アルトも相当な恥ずかしがりやだったはずだけれど、一年の間に割かし慣れたらしい。 頬へのキスぐらいは自然に行えるようになっていた。 最も、アルトの成長の背後にはもちろんシェリル様様の影が潜んでいる。 妹のように可愛がって慈しんで目をかけてやっているランカに寂しい思いをさせるな、悲しい想いをさせるな、 辛い思いをさせるな、行くのよアルトあたってくだけろ!頬にキスして抱きしめてあげるの! 恋人だったらそれくらいしなさいア、ル、ト、ひめ!
不粋な男がランカの相手を勤められるのか、むしろ務めていいと思っているのか! その辺りだけオズマとブレラと意気投合するシェリルは、 アルトとランカの恋を応援しながらも途中可愛らしい程度の意地悪を仕掛けてくる。 それでも憎みきれないのはやはりそれが銀河の妖精たる所以なのかなんなのか、 すべて「私はシェリル・ノームよ!」で片付けられるのだから驚きだ。
「ランカちゃーん!」
「シェリルさん!」
しばらく四人、途中で家から出てきたオズマとブレラを含んだ六人で雑談をしていると、 透き通った色のある声がランカの名を呼んだ。 歌うようにランカちゃん、と紡いだ、ピンク色のワンピースに身を包んだこの人物こそが、 世界で知らない人間はいないと言わしめるほどの大スター、シェリルだ。 シェリルの姿を認めた瞬間、飛びつくように抱きついたランカをしっかりとだきしめたシェリルは、 頬にちゅっとキスをしてアルトににやりと不適な笑みを浮かべた。 二人の恋は結構、けれどランカちゃんは私の物でもあるのよ!と、二人は密かに水面下でバトルを広げている。
「ランカちゃん、新しいワンピース、すっごく似合ってる。可愛いわ。この前一緒に買ったミュールも履いてるのね?」
「はい!大丈夫ですか?変じゃないかな?」
「まさか!すごくすごく可愛い。ふふ、おそろいね」
「おそろいですね!」

それから数分して、オズマの恋人であるキャシーが合流し、一同は出発した。
重い荷物はSMSメンバーがそれぞれ背負っていて、女性陣は楽そうに後ろに談笑しながらついていった。 しばらく歩き、バスも使ってたどり着いた場所は桜の名所で、アルトが花見に紹介した場所だ。 入り組んだ場所にあるのであまり観光にはむいていなく、花見の季節だというのに人がほとんどいない。 先に大きなブルーシートを、この辺りの木でも一番大きい桜の根元広げてまっていたSMSメンバーを見つけ、 ランカたち一同はゆるい坂を上った。 途中こけそうになったランカをしっかりと荷物を持ちながら受け止めたアルトとそのまま手を繋いで上りきって、 ランカはようやく仲間の下へたどりつく。 ランカの作ったサンドイッチやおかず、ナナセの作ってきたデザート、 男性陣が容易した二リットルのペットボトルを十何本ほど広げて、一同は桜をみたり、 花より団子というように食べ物に集中したりなどして、花見を楽しんだ。

ある暖かい春先の話である。



突発的なマクロス。ランカと皆、お花見。麻華は個人的にアルラン派です。 シェリル姐さんは男前なので姐さんなのです。

2008年12月19日