性癖



「あり得ない、無理、キモイ、やめろ。よくまあそこまで言えた物だよね、花井」
酒を不味くするのを前提でにっこりとそう言ってやると、花井はなんだよ、と不機嫌そうに返した。なんで俺が責められなきゃなんねぇんだ。ぼそっとそう呟いて。
「花井はもっと器用だと思ってたよ、俺は」
あいつもそう思ってたよ。
「けどまぁ、買い被りすぎたかな。ガッカリした」
そこまで言うと、あからさまに嫌悪感丸出しな顔で、花井は酒を呷った。
「・・・なんでお前にそんな事まで言われなきゃ」
「大学、家からだって通えるってのにさ。わざわざ一人暮らし始めちゃって。新しい住所なんて、俺と泉にしか教えないで。アレでしょ、俺はともかく、水谷なんかに教えたら即刻阿部に漏れると思ったんでしょ」
阿部、その名前に顔をしかめた。
「お前馬鹿だね。うっかり阿部に遭遇したくないからって?ほんとに何も知らないんだ?まぁ知りたくないからずっと阿部の話が出ると何かしら理由つけてトイレいったり飲み物とりにいったりして、とことん避けてたからね。馬鹿でしょ。阿部は埼玉どころか関東付近にもいないよ」
そこまで吐き出すように言って、俺は花井を見た。阿部絡みの事なのに、珍しく話を聞いている。
「阿部は京都の大学だよ」
そういうと、あからさまにほっとした顔で花井は笑った。

「だから俺はお前の事がだいっきらい。今まで惰性でつき合ってやってたけど、もう連絡もしてくんな。」
支払いはお前な。そう言い残して、俺は店を出た。万が一花井に追っかけられたらたまんないからとタクシーに乗り込みながら、携帯から花井の連絡先も、受信ボックスに残ってるあいつのメールも全部消去してやった。一気に中身が薄くなった受信箱にちょっと寂しくなったけれど、遠い関西にいる阿部の事を思ったら、すぐにまた怒りがわいて清々した。


(リアルに男から告白されたら、多分キモがられる。それはアメリカでも一緒。アメリカはみんなゲイ受け入れてると思われがちだけど、あくまで同性愛という概念に関しておおむね肝要なのであって、男がみんなゲイを許容しているわけじゃない。お前がゲイで、どっかの男とどうこうなるのはかまわないけど、その相手が俺となると勘弁してくれ、という感じ。栄口君に関してはメルヘンで。ホラ、彼阿部のオカンですから)








2.
日がきれいに沈んでいく日は、必ずあいつを木のそばでみつける。
散乱したスケッチブックに、簡単なクレパス、木の幹に寄りかかるあいつは繰り返し繰り返しシャッターを押す。夕焼けと、花と、木と、鳥と、蝶しか撮らない。
「おーい阿部」
あいつは気付かない。ぽん、て手を肩において、ようやく顔を上げる。
「・・・巣山」
「そろそろ寒いぞ。帰ろうぜ」
「おー。てか巣山、大学の帰り」
「そー。今日はホラ、朝イチから講義がずぅっと全部詰まってる日」
「・・・同情するわ」
「同情すんならなんか食わせてくれ。腹減った」
「どっか寄ってくか」
「どっかってどこ?この辺なんもねぇよ」
「はは、確かに。茶屋か茶屋か茶屋しかねぇな」
「不便だよなぁ」
「まーでも苦労はしてねぇしな。いんじゃね」
木から立ち上がってスケッチブックと、それに簡単に色を付けていたクレパスの水彩色鉛筆を箱にしまうのを手伝ってやる。
「つーか今日はあれだ、沖が早く帰ってこれるからっつってメシつくってくれる日じゃね」
「あーそうだわ」
「おっまえ、コート冷てぇな!いつからここにいたんよ」
「あー・・・あー、そういや沖がここ通ってったわ。ほどほどにしなよとかつって」
「ずっと描いてたん?」
「おお。今ほら、すげーじゃん、紅葉が」
「紅葉すげーなぁ。わざわざ住む場所嵐山にした甲斐があるってもんだよなぁ」
ぶらぶらと歩きながら、ただでさえオレンジ色の夕日に照らされてオレンジに輝く紅葉を見つめる。俺たちが三人でシェアする家は阪級嵐山線の嵐山駅から徒歩三分くらいにあるテラスハウスだ。築二年くらいなのに敷金保証金が十万円で、礼金がタダで、家賃が十一万五千円。阿部が一番大学に近いという理由で保証金を三万五千円と、俺と沖が三万二千五百円でわけけて、家賃も同じように四万円と三万七千五百円で分けている。大学が近いというより、阿部は大学に行くのに阪級線の嵐山を使うけど、俺と沖は阪級じゃない方の嵐山駅を使うからだ。阿部は大学から帰ると大抵中之島の公園のどっかで景色を描いている。写真を撮ってスケッチをとって、課題が無い日はソレを家で日本画用の麻紙とかいうのに描き起こして、ひたすら描きまくる。
阿部が野球から離れるととても静かだと言う事に気付いたのは二年になってからだ。阿部と沖との三人で同じクラスになって、沖は最初少し居心地悪そうだったけど、数日して阿部はすごく静かなんだと気付いてから穏やかに会話をするようになっていた。俺たちは三人とも授業も、日本史と現代社会と書道とがかぶっていて、阿部がわりと芸術肌だという事にもこの頃気付いた。阿部と沖の筆の上手さに早々気付いた教師はわりとすぐに二人を放任して、ふたりはよく床にでっかい半紙を広げて、黙々と字を刻んでいた。今更「青空」とか「青春」とか書くような年でもなくて、二人とも教科書の中の漢文とかを移していたりした。イメージに反して二人の書は真逆だ。沖は丁寧に一文字ずつ、教科書の様なお手本の書を書くのに対して、阿部は自己流も混ぜ込んだような、芸術のような流れる書を書いていた。授業で行書体と草書体だと習った。俺は隷書体を習ってから面白くって、ずっとその書体で書き続けていた。思えば俺が民俗学に興味を持ち始めたのはそれがきっかけかもしれない。修学旅行で京都に行く事になった時も三人で班を組んだ。二条城を見てから三時間の自由時間があったから、後日嵐山には行く事になっていたけど、ぜったい混む事を予想して、三十分で嵯峨嵐山までいって、二時間三人で楽しんで、また三十分で帰った。次の日は前の日に見つけておいた隠れスポットや茶屋でおだやかーにしずかーに過ごした。京都を、嵐山をもの凄く気に入ったのだ。ジジィになったらこーゆーとこ住みてぇなぁとか言っていた。二年後に住む事になるとは思わなかったけど。
進路を決める時、見せ合いっこしたときに希望進学先が三人とも京都だったのには驚いた。三人で笑った。俺は民俗学、沖は日本史、阿部は日本画がやりたかった。結局俺と沖は仏教大学に進路を決め、阿部は京都府立藝術大学に進学先を決めた。大学で俺は歴史学部の歴史文化学科、沖は歴史学部の歴史学科に進んだ。阿部は宣言通り日本画を始めた。
俺たちは希望大学を決めると早々にネットとガイドブックを駆使して調べまくり、京都がそんなにでかくない事に気付くと(というか京都や大阪は一時間ちょいあれば電車で上から下までいけてしまうという事にびっくりした)、そして仏大と芸大のおおむね中心地に嵐山がある事に気付くと、速攻三人でシェアする事に決めた。
「ただーいまぁ」
「ただいまー」
「おかえりー」
現代風の一軒家だ。京都の景観を損なわないように、って茶系の配色だけど、それがまたいい味を出している。玄関をあがってリビングへのドアを開けると、キッチンの方から沖の声がする。食事は当番制だ。
シェアをするアパートを探していたとき、どうも沖と阿部は学生賃貸やら家賃五万円以下とか色々こだわっていて、俺は頭いいのになんで気付かないんだ?と思って笑ってしまった。ネットで普通の賃貸サイトで沿線検索して、3K3DK3LDKで複数選択して、今の物件を見つけた。三人で割れば家賃十五万も一人五万で済むんだという事に、俺が言うまで気付かなかった。
3LDKで、LDKが14.9帖が、洋室三部屋が各6.6、6.1、6.4帖。6.4帖の部屋がウォークインクローゼット付きだが、日本画で色々と物がかさばる阿部にその部屋はゆずった。他の部屋は俺の方が体がでかいという事で6.6帖に落ち着いた。風呂とトイレがちゃんと別で、なんと風呂は追い炊きもできる。コレには俺ら三人とも感動した。エアコンがついてて洗濯機をおく場所もついてて、便座だって温水洗浄つき。ガスコンロのシステムキッチン。三口。いい場所見つけたと我ながら思う。駅歩も三分だ。ぴゃっと裏をみたら嵐山がある。
「沖、何作ってんの」
「えーと、焼き魚と、豚汁と、ほうれん草のごま和えと、メシ」
「うわうまそぉ」
「はは、ありがと、巣山、阿部もしかしてずっとあそこにいたん?」
「いたいた」
「もー、程々にしとけよっていったっしょ」
「・・・いや、割と休憩とかしたし」
「「ハイ嘘」」
「いや嘘じゃねーよ嘘じゃ、」
「はいはい、もう魚やけるよ、ご飯よそってくれる阿部」

シェアすっかって決めた次の日に、俺ゲイだけどそれでもいいかって聞いてきた時の阿部の顔が忘れられない。その後慌てたように、別にお前らをどうこうってわけじゃねぇけど、って付け足して。一瞬固まったけどすぐに我に帰った沖が、震えてる阿部の手をとって、そんなん気にしないよ、阿部は阿部だろっつった。俺は同じように頷いたけど、正直その日は混乱して。さりげなく栄口に相談したら、受け入れてくれてありがとって言われた。いや別に受け入れたわけじゃないんだ、けど、って心の中で思ってたら、衝撃の真実を知らされてしまった。シェアの話の一週間前に、阿部は花井にこっぴどくフラレていたのだ。
「花井は、大親友の阿部に、すっごい目で、キモイっつったんだよ。キモイ、ありえねぇ、やめろ、俺そういうの無理だから、冗談でも言うんじゃねぇよキモチワリィっつったんだよ」
そう吐き捨てて栄口は花井に怒っていた。
「三年間ずっと一緒に戦ってきた大親友に向かって。好きな人に好きって言う事が『キモイ』なのかよって、俺は思うよ」
それを聞いて、俺は阿部の性癖なんてどうって事ないって思った。だってわかる、きっと阿部はもの凄くもの凄く迷ったんだ。葛藤の末に、告白したんだ。現実主義の阿部が、ゲイがマイノリティーである事を知らないはずが無いんだから。

好きな人に好きって言う事が、キモイはずがないんだ。


(日本の高校いった事ないから全然わかんねぇ(´▽`)・・ウィキペデアでがんばって調べた!・・・つもり。京都大好きだお京都。大阪人は大阪の事日本で一番だと思ってるけど、やっぱり兵庫はオサレだし京都は雲の上の存在なんだよなぁ。しかしつくづく大阪に住んでてよかったと思うなぁ。一時間あったら他県にいけちゃうんだぜ。あと三人が暮らしてる家もわざわざ物件調べたwwww楽しかったけどな!いいんだだってテーマはリアリティだもん。)








3.
「なんだよ泉、改まって」
泉には約三ヶ月ぶりに会う。大学二回に進級してからはみんな、一年の時のぐだぐださがいい加減に抜けて、ちょっと本腰を入れて勉強し始めたからだ。モモカンとシガポの勉強さぼるなマジックは今でも深く根付いている。それでも息抜きは必要で、西広あたりでも誘おうかなと思っていた金曜の夜、思わぬところから誘いがかかった。泉だ。
「いや、ちょっとな」
泉が誘ってくる時は大抵が田島や三橋も絡んでいるから、泉単体での誘いはずいぶんと珍しい。しかも誘い方が少し緊張気味で、OKした自分も少し緊張した。
「相談事?」
「・・うん、相談事、といえば、相談事」
「ハァ、えーと、個室とか行く?」
「・・・できれば」
個室がある居酒屋の敷居を跨いで中に入る。ビールとつまみを注文して、それらが全て運び込まれると、泉はおもむろに話しだした。
「あのさ、俺の友達の話なんだけど、」
イヤ絶対違うだろって突っ込むのはさすがに躊躇われた。
「うん?」
「・・・友達から告白されたらしくって」
「へー、どんな子」
「いや男なんだけど」
「・・・・へー」
「その、どう思う?」
という泉の目は、ちょっとおびえていた。ような。気がしなくもなかった。それがなんだか昔の阿部の姿とかぶって、
「・・・泉、ちょっと真剣に聞くけど」
「え?」
「ちゃかしもしないしヒヤカしもしない。偏見も無いから俺、だから聞くけど」

「泉は、浜田さんに告白されたんだね?」





「・・・浜田さんは、ゲイなんだね?」
「って、自分で言ってた」
「そんで、泉を好きなんだね?」
「・・・おう」
「で、泉は自分は心のそこからヘテロだから当然受け入れられないわけだけど、浜田さん相手だとどうにも、と」
「・・・ん、まぁ」
「気持ち悪いとかは思わない?」
「・・・いや、つーか、前まではゲイとか無理、とか思ってたけど、いざ自分の一番近いとこにいた奴がゲイだったとなると、なんか違うもんだな、と」
「何、もしかしてゲイって全員オネエ系とか思ってたん?」
「いやそうじゃねーけど、絶対なんか違うもんだなとか思ってた」
「浜田さんがそうでびっくりした?」
「そりゃしたよ、だっておれアイツの事もうそれこそ十年以上知ってんだもん、ズリネタだって普通に知ってたし、女だったし、」

「俺は、ゲイじゃない」
「うん」
「だから、浜田に告白されても、うんとは言えないし、本当にダチとしてか好きじゃねぇとしか言えない。けど。」
「うん」
「けど。そんで拒否って、今までの関係が崩れたらどうしよう、とか、考えては、いる」
「・・・考えてはいるってどういう事?」
「あー・・・。・・・・その、俺にとってゲイっちゅーのは、なんつーか空想の世界っつか、テレビの中の話ってか、全然現実に無い存在なわけ。男がマジで男好きになる訳?って思うし、それこそセンパイをこれでもかってぐらい崇拝する後輩のさ、恋してる目みたいなのあるじゃん、ああいうのの延長線上なんじゃねぇか、とか、その」
「真剣な恋であるわけがないって事?」
「・・・・・うん、まぁ、そう」


「そーゆーのってさ、本人に聞くのが一番いいよね」
「だからそれが無理だから相談してんだろ」
「違うって、同じゲイの人に聞けばいいんだよ」
「・・・・俺に歌舞伎町にでもいけって?」
「違う違う、泉、偏見ない?」
「ハァ?」
「浜田さんだからこそ告白されても『気持ち悪い』とまでは思わなかったんだろ、でも実際どう?例えば俺がゲイだと知ったら気持ち悪い?」
「・・・いや?なんか不思議とそういうのは」
「本当に?」
「・・・・ホントは別に俺そんな心広くねぇよ、ただ、浜田に告白されてから二週間、ずっと考え続けてて、考えは少し変わったよ、別に、もうキモイとか、そんなんはもうねぇよ」
「・・・そう。信用するよ?これで拒否ったら俺もう一生お前とは会わないよ」
「え?・・ぇえ?」
「約束して。っつか誓って。拒否んない?」
「・・・お、おお、うん」
「誓って」
「・・・誓います」

「じゃあハイ、これあげる。たしか月曜が創立記念日で泉、三連休だよね?会いにいったらいいと思う」
「・・・何コレ?」
「阿部の大学と家の住所。阿部に会いにいったらいいと思う」
「・・・・。・・・・阿部も、ゲイなん?」
「ゲイだよ。ちなみに高三の冬に花井に告白して振られてる」
「・・・・・え?」
「キモイありえねぇやめろ、罵倒と侮蔑のオンパレード。泉がそうじゃないとわかってよかったよ、マジで信用したかんね」
「・・・・・うん」
「あ、ちなみに阿部は巣山と沖とシェアしてるから。二人は事情も全部知ってるから、阿部に聞く前に二人に相談すんのもいいかもよ。阿部には俺から話通しといてあげるから」








4.
「・・・俺が」

「俺が、自分はゲイなんだって自覚したのは、高一の時、夏の合宿でお前らとズリネタの話になった後」

「俺もあんとき巣山みたく妄想は意味わかんねぇっつったけど、ほんとはマジで意味解んなかった。今までなんてーか、衝動でやってたわけで、あんときとっさに肌キレーなのっつったのは好感が持てる女の子のタイプであって、別に俺、今までネタ使った事ないんだよ。ほんと、溜まったときにだけ衝動で出すっていうか、そんな感じで。シニアでそういう話になって、起ったらこすって出しゃいんだみたいな話になって、それだけで」

「そんで、エロビとか、エロ本とか、田島んちにあるじゃん。俺らみんなで見てみたりとかしてさ、俺、全然興味なくて・・・女の子喘いでんだけど、気持ち悪いとは思わねんだけど、なんか、ぜんぜん興奮しねぇのな。

「少しずつ少しずつ、花井が好きになった」

「俺な、ずっとモトキさんに対するアレがなんだったのかって、自分で思ってたんだよ」

「花井が好きなんだって自覚してから、ああ、俺、モトキさんの事好きだったんかって」

「そんで、なんか、モトキさんとは全然違うじゃん、花井って、そんで俺ゲイだって自覚した後にもしかしてマゾなんかもとかも思っちゃって、ほらモトキさんてあんなんじゃん、でも花井は違ったから、あーよかったーなんて」

「そんで、優しい花井を好きになった自分が、ちょっと好きだった」





「・・・・告白、すんのは」

「告白すんのは、かなり勇気がいる。女が男にするみたいに、もしかしたらがねぇんだもん。受け入れてもらえないのが前提だから、すごく、怖い。」

「・・・俺はさ、正直、ありえねぇってわかってんのに、期待したよ。花井に。ちょっと」

「もしかしたら花井もさー、俺の事好きって言ってくれるんじゃねーかなーとか」

「お前と付き合えねぇけど、でも友達としてこれからもずっと好きだぜとか」

「最悪そんな事を考えてたんだけど」

「あんな、ほんの数秒で三年分のユウジョウとかいうやつが全部なくなるとは思わなかった」

「花井が、廊下ですれ違うたびに、俺から目、そらすの。そんで、人が少ない時はさ、わざわざ壁によって、俺から体離して通り過ぎんだよ。たまに目があったらうわ気持ちわる、みたいな目でみてから目そらして。おれもバカだなぁって思うんだけど負けず嫌いだから、なんとも思ってませーんみたいなすました顔で花井の事みんの。そんで、そのあと図書室で勉強してる栄口に泣きにいった」

「つき合ってくれっていったわけじゃねんだけどな」

「花井、俺、お前の事好きだって。そう言っただけなんだよ」

「なんであいつは普段にぶにぶなのに、あんな時だけすげぇ鋭いんだかなぁ」

「あいつ、気付かずにユウジョウの好きで返してくれてよかったんだけど」

「冗談っぽく言った本気だったから」

「なのに気付いたんだよなぁ。・・・すごい、間があいてから、あいつ、すっげぇ顔しかめて、うわ、マジで、って言って、そんで、きもい、て、い・・・・」



「・・・シュンに、ゲイだってバレたんだよ。いつだったかな、多分二年の冬かな、何したわけでもないんだけど、兄ちゃんってゲイ?って聞かれて、その顔が全部解ってるって顔だったから、ああバレたんだなって思って。兄ちゃんキモイ?ってきいたらきもくないよって言われて、どんな兄ちゃんでも俺は大好きって言ってくれた。そしたら次の日部活から帰ったらさ、お母さん泣いてんだよ、シュンが言ったんだなってわかって、お母さんに謝ろうとしたんだけど、そしたら逆に謝られて、泣いてて、今まで解ってあげられてなくてごめんね、もしかしてずっと誰にも言えずに悩んでたのって、でもタカヤの事大好きよって言うんだよ、だから自分がゲイである事に嫌悪する事はその時やめたんだけど」

「だからって家族以外の人間に期待すんのは夢見すぎたな、って、花井に振られて、客観的にようやく見れるようになったところで思ったな」

「・・・俺は、誰かを好きになんのが怖い」

「誰かを見てドキドキするのが怖い」

「今まで築いてきた関係を、自分の一言で崩してしまうのが怖いよ」

「俺は浜田がうらやましい」

「俺も後八年くらい待って十年以上の友情ってやつを築いてたら、花井に気持ち悪いって思われずに済んだん?」

「もう否定されるのは嫌なんだよ。怖くて仕方ない。また誰かを好きになって、思いあまって告白して、そんでまたキモチワルイって思われんの?俺の存在全否定かよって」

「俺は、花井ともっと一緒にいたかったよ」

「受け入れてもらえなくて、そんで花井とちょっと気まずい事になっても、ゆっくりゆっくり消化してって、また前みたいな友達に戻りたいなって思ってたのに、」

「もっと一緒にいたかったよ」

「今はもう、花井が好きとかは無いけど、でも、未だにすごく、つらい。二年近くたってんのに」




「・・・・・・・・泉」
「・・・・なに?」
「・・・・・・俺らの事、何思ってたっていんだよ。俺らがヘンなのは、俺らちゃんとわかってるんだよ。でもさ、でもさ、そのさ、」
「・・・・・・うん?」
「キモチワルイ、っていう、言葉、は、・・・・・・。・・・・・、っ・・・。・・・・・お、れは、浜田にそんなん、思ってほしくないよ」
「・・・・うん」
「受け入れられないんなら、それでいんだよ。無理なら無理でいんだよ。俺ら別にそんな大層なもん望んでない、・・・・・ヘンだってわかってても、ぜったい・・・キモチワルイと思われるって覚悟してんだよ、でも、それでも告白、・・・すんのは・・・期待、してるからなんだよ、こいつだったらこいつだったら絶対、きっと受け入れてくれなくても、・・・受け止めてくれるって、思って、好きで美化してんのかもだけど、でもそう思うから、家族以外じゃ一番すきなんだよ、だから、・・・だから好きだって言うんだよ、でも、それが、それがだめなら、・・・おれら、どうすりゃいいの」

最後に阿部はちっちゃく膝を抱えて泣いた。俺は正面から阿部の頭を抱いて、一緒に泣いた。言わないよ。俺は絶対、お前にキモチワルイって言わないよ。浜田の告白も、正面から受け止めるよ。



なぜこうなったし

2011年9月23日