あの人とカヤの同棲は、正直オレには思いもよらなかった。
タカヤのお母さん、美佐枝さんの転勤が決まったのは、オレとタカヤが西浦の合格発表から帰ってきた夜だった。
美佐枝さんは海外での修行経験もあるインテリアコーディネーターで、努力の甲斐?あってかその業界じゃかなり有名な方らしい。
今回美佐枝さんの手がけるブランドが海外進出する事になって、それに伴い美佐枝さんも本拠地をそっちに移す、ということらしかった。
行き先は家具の本場北欧、スウェーデン。
いやでもそれ、何も合格発表の日に言わなくても。
「うんだからね、高校も決まったし、今から行くなんてタイミングが色々と微妙だしで、
タカヤさえ大丈夫なら貴方はこっちに残そうかと思うんだけど」
らしいのでじゃあ安心か、と思い、
「でもこんなおっきい家に一人じゃ淋しいだろうから、西浦に近いとこにでも引っ越しさせようかと思うんだけど」
なんて言われたら、そりゃあ阿部家とのとっても親密な家族付き合いを自負する栄口家長男としては、
それだとお金がかかるからウチに来たら?客間があるから大丈夫だよ。なんて、
父さんに相談してOKもらったら言おうと思ってたのに。
「あらそうなの〜?あっじゃあウチにくればいいじゃない!ウチっていうか慎吾が暮らしてる部屋。
私はパリ行ったり来たりだからあの子一人暮らしなのよ。4人で住んでたトコに1人で住んでるから部屋あまってるし。」
「あらいいの〜?」
と、オレが密かに楽しみにしていた計画を横から島崎夫人にかっ攫われた。
島崎夫人は美佐枝さんに似てパリでの修行経験もあるファッションデザイナーで、
その業界じゃかなり有名な方らしい。しかし長男が社会人進出したのをいい事に、
夫も外資系でイギリスの本社に単身赴任している事から、歳の割りに大人びていてしっかりしていた次男を高校から一人暮らしさせ、
成田空港に近い1LDKのマンションを買い、パリと行ったり来たりの生活をしている。
ファッションとインテリアという、切っても切れない関係で仲良くなった二人は、
年齢も近く子どもも同年代で野球やってて、と意気投合し、
お互いの子どもが付き合う事になった際には嫌がるタカヤを無視して盛大な内輪パーティーを開いた程だ。
しかも島国で民族意識が高い日本と違って、陸続きで多種多様な文化が横行する国々で揉まれたからなのか、
二人の世間体はさほど高くなく。結果。
「香澄ちゃんの子なら安心だわ〜タカヤの事、宜しくお願いします〜」
「いえいえ。お願いされました〜」
と、島崎さんとタカヤの(オレと世間の常識的に)早過ぎる(個人的に同棲とは言いたくない)同居生活が決定した。
ピンチの時には呼んでくれ
「いーいカヤ」
「うん」
「あんまりな事要求されたらスグにウチにくんだよ」
「うん」
「ひどい事言われてもだよ」
「うん」
「いくらお世話になるからって、カヤが全部家事担当する事はないんだからね」
「ん」
「ていうか週一くらいのペースでウチにもよる事!」
「あい」
「生活にかまけて他の事おろそかにしちゃだめだよ?野球とか」
「ありえねーし」
「まあありえねーけど。何かあったらウチにくること」
「はーい」
「もちろんカヤがあっちに愛想つかしたら、いつでも来ていんだんね」
「うん」
「・・・。・・・・あの、栄口くーん」
「なんですか島崎さん」
「・・・・・・いや、ね。そろそろ、ね、もう、ね」
「オレ今日はもう帰んなきゃだから荷解き手伝えないけど、ヘルプいんだったらかけろよ?」
「うん」
「いや俺手伝うし」
「無理はしない事」
「ん」
「どーしてもダメそうだとオレが思ったら容赦なくウチに来さすからね!」
「あーい」
「栄口くーん・・・・」
「・・・ああもうやっぱりさびしいー!」