ふっと意識が浮上して、ここが飛行機の中と知る。枕もなく寝ていたけれど、肩首はどこもおかしくないし、シートはびっくりするくらいふかふかだ。勇利が慣れ親しんだエコノミーとは何もかもが違う。周りの息遣いも聞こえない。大体が寝ているか、映画を見ているかしているのだろう。
 消灯となった機内は静かだ。勇利はそっと足を下ろすと、スリッパを履いて立ち上がった。目指すは愛しい、彼の席。ファーストクラスにもなると、スリッパ一つにもお金がかかっている。勇利の足を柔らかく包み、カーペットの高級さも相まって、足音をすべて消し去ってくれる。著名人を通り越してお金持ちしか眠っていないようなこの空間で、余計な物音は立てたくなかったから、勇利はすこし安心した。
 広いスペースの中、繭の外殻を模したような形のブースはほんの十ほど。各席の間に充分すぎるほどの空間が取られていて、避け合わなくても人とすれ違える。クラスを二つほどダウングレードすると、この空間にたちまち何十人という人が押し込められるのだから、つくづくお金というのは巨大な力だ。勇利はまだ見ていないけれど、この通路の先には大理石のシャワーブースまであるのだという。手渡されるらしいバスローブは、きっとふかふかに違いない。使う機会があるかどうかはわからないけれど。
「ヴィクトル……?」
 そっと、小さな声で呼びかけた。
 隣の席をとったのに、数歩歩かなければならない程度には離れている。胸ほどの高さまで壁があるブースに寄りかかって、勇利は中を覗き込んだ。ヘッドフォンをつけて映画を楽しんでいたらしいヴィクトルが、勇利に気づく。一時停止ボタンを押すと、ヴィクトルは笑ってブースの入り口を開けた。
「なあに、勇利。まだ寝てなかったの……」
「うん……」
 シャワーを浴びたわけではなさそうだが、ヴィクトルはバスローブに着替えていた。席はほとんど水平に倒されていて、ヴィクトルは寝そべるように映画を見ていた。座席の端にちょこんと腰掛けて、勇利はヴィクトルの手を握る。
「数時間でも寝なきゃ」
「うん……」
 周りに配慮した声音は低く、少しだけ掠れていて、勇利は耳の後ろがじゅん、と熱くなる感覚を覚えた。彼の愛に慣らされた身体はすっかりこうだ……彼の微笑み、彼の指先、ほんの一指し、たったそれだけで、勇利の力が抜けていきそうになってしまう。呆れた、それでいてどこか愛おしさを滲んだ言葉にも、すっかり素直に答えてしまえるくらいには。
「席、そんな真っ平らになるって知らなくて……」
「うそでしょ、ユウリ……」
 投げ出されていた勇利の足を抱えあげると、ヴィクトルは彼を自分の隣に横たわらせた。ブースの扉を閉めて、二人きりの空間にしてしまう。肩に手を回して、強く抱き込む。
「ちょっ、と、ヴィクトル」
 恥ずかしい、と勇利がヴィクトルの胸に手をつく。ファーストクラスのシートでも、二人で並び座れるようには作られていない。体の半分をヴィクトルに乗り上げるようにして抱き込まれるのは、セックス後のピロートークを思い出して恥ずかしかった。
「イヤ……」
「……誰にも見られないよ」
「天井ないじゃん……」
 あいた手で勇利の腰を撫でるヴィクトルは、わざとらしく勇利の耳に声を響かせた。
「わざわざブースの中を覗き込む無礼なひとはいないよ、このクラスには。呼びつけさえしなきゃね」
「それでも……」
「もう、ユウリ」
 ため息をひとつついて、ヴィクトルはパネルを操作する。シートが音もなく形を変えて、少し背もたれの下がった椅子になった。
「これでいい?」
「う……」
 椅子の形になったせいで、勇利はヴィクトルの膝に横向きに抱かれるようになってしまった。これでは余計密着してしまって恥ずかしい。
「や、やだ」
「わがまま言わないで」
「だって、これ、ヴィクトル……お、重いでしょ」
「そんなヤワじゃないよ」
 ヴィクトルは左側に体をずらした。右側にできたスペースに勇利のお尻をおさめて、彼の両足を抱える。
「ほら、これで重くない」
「そういうことじゃ、ないんだけど……」
「ユウリ、ちょっとセルフィッシュだよ。俺に話があったんじゃないの? いいから大人しくしてなさい」
「……はい」
 お尻を撫でられながら叱られると、そういう気分になってしまって困る。最近、ヴィクトルとのセックスでほんのりとした被虐趣味に目覚めた勇利には、甘すぎる毒だ。はあ、と吐息に熱が灯る。彼の王様がそんな変化に気づかないわけがなく、勇利は目の端でにんまりとつり上がった彼の口を見て、絶望的な気持ちになった。
「……いま、セックスしたいって思ったでしょ……?」
「ちがっ、ちがう、ぅ、や……」
 どうしてこの男は、声に吐息をのせるのがこうも上手いのだろう。先ほどとは比べ物にならないくらい、腰が重くなりそうな色気だった。耳に舌の気配を感じる。れろ、と中に舌を入れられて、勇利は思わずシャツの裾を握った。擬似的にでも、下半身を押しとどめるような真似をしておかないと、理性が勝手に歩き出しそうな気がしてしまう。
「ヴィクトル……」
 耳たぶをじゅ、と吸われて、顔が熱に浮かれそうだ。
「やだ……」
「ねえユウリ、知ってる……?」
 ハア、と熱をたっぷり吐息に乗せられて、あまつさえそれを首筋に注がれて、それだけでどうにかなりそうだ。人が隣にいるのに。本を閉じる音すら、響いてしまいそうな狭い場所なのに。勇利の背中から下へ下へと降りていく熱い手を、止められる気がしない。
「エコノミーじゃ、そういうの見たことないかもしれないけどね……」
 飛行機に乗る前の晩、ドロドロに溶けるほど愛されたのを体は思い出す。久しぶりで、彼の匂いを刻んでほしくて、意地悪してほしくて、はしたないくらいに強請った名残が、簡単に再燃した。飛行機にのってすぐ、苦しいだろうからとズボンのベルトを抜き取られていたことを思い出す。ヴィクトルが首筋にちゅ、ちゅ、と口付けて来て、たったそれだけの刺激に声が漏れそうだった。必死に彼の首筋に顔を埋めて、匂いを吸い込んで気を紛らわす。声は絶対に洩らしたくなくて、ヴィクトルの首を吸ってごまかす。ハイネックだから、きっと隠れる、大丈夫……。ハイネックの襟元に鼻を埋めるように抱きつきながら、勇利は必死になって首筋を吸った。
「ん、ん、」
「シィー……ユウリ、勝手に気持ちよくなっちゃダメだよ。ここ、飛行機の中だからね……」
 乳のみ子のような声にクスクスと笑いながら、ヴィクトルの指はズボンからシャツを引き出した。尾てい骨のあたりを指先でなぞられて、ビクリと腰が跳ねる。もう片方の手でズボンのボタンを外された。ねっとりと音がしそうなほど、もったいぶりながらジッパーを下げられる。金具が膨らみかけている勇利の熱をかすめる。緊張状態での直情的な刺激に反射で伸び上がって、思わずヴィクトルの頭を掻き抱いた。手が震える。
「っ、ふ、う、ン」
「ンフ、頑張って、ユウリ」
 荒くなる吐息を必死に律して、勇利は伸び上がった背をゆっくり丸めた。再びヴィクトルの首元に顔を埋める。薄暗い中で見たそこは、すっかりうっ血していた。
「もっと吸って、ユウリ……気持ちいいよ……」
 熱い手のひらが背骨のおうとつを確かめるように這い上がって、ゆるゆると刺激を送り込んでくる。頭がだんだんぼうっとしてきて、涙の熱に視界が霞む。ここがどこなのか、理性が少しずつ、頭の隅へと蹴られていく。本能がもったりと首をもたげて、脳がぐずぐず溶けていく。角度を変えて、ヴィクトルの喉仏を舐め上げた。顎に吸い付き、鎖骨に指を這わせ、興奮で勃ちあがったらしい、ヴィクトルの乳首に手を這わす。勇利はそこだけの刺激だけで上り詰めてしまえるくらい、乳首を性器に作りかえられてしまったのに、ヴィクトルはそこはくすぐったいだけだという。悔しくて、ヴィクトルだって乳首で頭がおかしくなる感覚を思い知ればいいと思って、勇利はそこをつまんでみた。
「ッ、」
 小さく息をつめた彼に気をよくして、勇利はちゅ、ちゅと首を吸い続けた。肩に回した手で片側の首筋を撫で上げて、空いた右手で乳首を刺激する。ダメかな、気持ちよくなってくれないかな、ヴィクトルの乳首で感じてる顔、見てみたい。そう思ってそろりと顔を伺って、勇利はたちまち後悔した。怒ったヴィクトルの顔が、勇利を竦みあがらせた。
「あ……ごめ、んぁッ?」
 鈴口を触られたのだとすぐにわかった。慌てて口を塞いだけれど、間に合っただろうか。ドクドクと冷えた血が体を巡る。真っ青になって震える勇利を見下ろしてから、ヴィクトルはそっと周囲を伺った。微かな寝息、本のページをめくる音。誰かの気配が動いた感じはない。そもそも、ファーストクラスでいつまでも起きている人はそういない。他人の寝息が気にならないよう、ブースも離されているから、ちょっとやそっとの音は気づかれないだろう。キャビンアテンダントが見回りに来れば話は別だけれど……。
 恐怖に震えて、ヴィクトルの手が後ろからズボンの中に入っていることも気づかないらしい。ヴィクトルは勇利をぐっと抱き込むと、頭を首に押しつけさせた。
「大丈夫だよ」
 ヴィクトルの言葉に安心した勇利がふっと息を吐いた瞬間、ぐちゅりと指を差し込んだ。
「ンン! 〜〜〜〜ッッ?」
 びくびくと背筋に電流がながれて、勇利はわけもわからずヴィクトルの頭に抱きついた。頭をかき抱き、髪をかき乱して、ちょうど目の前にあった耳に吸い付く。ふうふうと乱れた息をやる場所がどこにもなくて、勇利はひたすらヴィクトルに縋った。
「フ……はァ、ぁ、ぃや、ぁ……び、くとる、だめ、」
 頑張って、頑張って、声を抑えているけれど、どうなんだろう、もうわからない。勇利の耳はもうヴィクトルの興奮しきった荒い息しか認識できない。ぐちゅ、脳髄を駆け上がるような、体内を響く音が、骨を伝ってこだまする。どうしよう、これ、聞かれていたら。
「Shh……ユウリ……大丈夫、聞こえてないから、頑張って声抑えて……」
「ゃ、も、だめっ……て、ゆった、僕、ゆった……」
 やめてほしいのに、こんなのは嫌なのに、勇利はヴィクトルの耳を吸って、なめて、指すらヴィクトルの片耳をいじる。ヴィクトルの長い指が、勇利の中をぐちゅぐちゅ擦る。普段じゃありえないほど濡れていた。なんで、僕のお尻、こんなにぬかるんでるんだっけ。頭でちかちか星がひかる。
「でもユウリ……お尻はだめなんて言ってないよ……」
 ほら、俺のがまだ残ってる。
 ヴィクトルは見つけたぬめりを指でこそぎ取って、それをまた内壁にこすりつけた。
「〜〜〜〜ッッ」
 ビクンと背中が仰け反る。声が出なかったのは奇跡に近い。シートの壁が高くてよかった。伸び上がっても見えていない、きっと、おそらく。
「ぁ……あ、」
 そういえば、そういえば、そういえば。
 熱に浮かされ、ぐるぐる考えて、勇利はぼうっとヴィクトルを見下ろした。情欲に彩られた瞳が爛々と輝いている。透き通った海のように美しい瞳が、どろりと色濃く勇利を見ていた。
 飛行機にのる直前、トイレで一回、ハメて、出して、もらったんだった。
 顔がカッと熱くなった。
「ぼ、く、ぼく、なに、僕、なにやって……ぁ、ん」
 羞恥心にふるふる膝が震える。力が抜けて、自重でヴィクトルの指を余計に飲み込んだ。
「ユウリ、発情期? おとといから、すごくエッチだよね……嬉しいよ……」
 囁き声すら色っぽい、男の声が身体に響く。もう、ヴィクトルの首を吸うどころじゃない、必死で、必死になって、両手で自分の口を塞いだ。
「スキンもつけないで、中に出して、って……空港のトイレで、あんなエッチで、淫猥で、情熱的なセックスのお誘い、最高だよ勇利……もう、あんあんって、勇利のおっきい声、出させてやろうかなって思ったくらい……」
「や、や……」
 ぞわぞわと産毛がそばだって、勇利は手に滑り落ちた涙の刺激にすら、ぴくりと震えてみせた。「だって、」と声を漏らして、ヴィクトルにシィ、とたしなめられる。
「声がおっきいよ、勇利……静かにね……」
「ん、ん、」
 ヴィクトルは、勇利のお尻をいじる手を止める気はないらしい。いつのまにか三本になっていた指は、ぐちゅり、ぐぷ、縦横無尽に動きまわる。小指は浅いところをかすめるように、不器用な薬指が思いもよらないタイミングで壁を滑って、中指がいいところを掠めたり、押したり。空いた左手は勇利の下着をちょこりとつまんで、ぺち、と勇利のペニスに弱い力で撥ね付けていた。
「だ、って……」
「うん……」
「びく、とる、してくれなくて……ずっと……ぼく、僕、まってたのに、ずっとっ……」
 バルセロナからすぐに別れて、二週間、それぞれのナショナルを終えて、ヴィクトルが長谷津に合流して。しばらくは大会もないから、ようやく、抱いてもらえると思ったのに、勇利を大切にしなければとか適当な事をいって、ヴィクトルは勇利に触れなかった。ベッドで抱き合いながら扱きあったくらいで、勇利はしてほしくて、ヴィクトルのペニスを口いっぱいに頬張ってお強請りまでしたのに、涼しげな顔でヴィクトルはなにもしてくれなかった。それなのに、フライト前日の夜になって、ヴィクトルは勇利を何度も抱いたのだ。一晩だけじゃ足りなかった。結局勇利は、ヴィクトルの朝立ちにだって興奮して、奉仕をしてしまったし、空港についてからだって、ファーストクラスのラウンジで触ってほしくて、最終的にはゲート付近のトイレで抱いてもらった。発情期の動物みたいに、最近の勇利は欲求不満だ。
「ふふ……」
「ひどい……っ」
「だァって、ユウリ……」
 ヴィクトルはゆっくり背もたれに倒れると、恍惚とした顔で勇利を見た。下着越しに滲んだらしい、勇利の先走りの雫を、指でこねて、勇利に見せつける。舐めなさい、なんて言われて、勇利はたまらずにしゃぶりついた。シィ、とヴィクトルに叱られる。静かにね、うん、わかってる、すすらないから……舐めるだけ、音立てないように、しゃぶるから……。
「ユウリ、最近Mに磨きがかかってて……焦らして、いじめて、意地悪すると……すっごくエッチな顔するんだもん……」
 勇利の舌に雫を押し付け、ヴィクトルが笑う。痛いのなんて嫌いだとずっと思っていたけれど、ヴィクトルと愛し合う関係になってから、意地悪されるのが好きだと気づいた。甘やかされるより、どろどろに愛されるより、エッチだね、悪い子だね、こんな淫乱で……俺に手ひどくされるのが好きだなんて……。そんな風に言われると、なによりゾクゾクと腰が痺れた。
「ねえ……さっきの続きだけど、ユウリ」
 ヴィクトルは勇利のお尻からゆっくりと指を抜くと、胸に凭れさせるように抱き寄せた。びくびくと糸引く快感に体が震える。ぼうっとした顔でヴィクトルを見上げる勇利の瞳は、もうここがどこだかも忘れていた。シィ、静かにね。ヴィクトルがそういうから、必死に声を抑えているだけ。
「エコノミーだとないかもだけど、ビジネスとか、ファーストとかになるとね、こういう事、よくあるんだよ?」
「こういう、事……?」
「例えば、さ」
 ヴィクトルはぐるりと首を回した。ブースは高くて、立った人間がそばを通らないかぎりなにも見えない。
「CAの数がちょっと減ってるような気がしない?」
「え……」
 勇利もヴィクトルに倣って、ブースの外を見渡そうとするけれど、もう腰から下が重くて動けそうになかった。
「わ、かんない……」
「CAって、美人が多いよね。そういうの好きなのがね……トイレとかで……」
「ぁっ……」
 人差し指だけまた、ぬかるみきって、ぐずぐずにとけたそこに、差し込まれる。気持ちいい。気持ちいい。ヴィクトル、もっと。
「そういうコト、するんだよ。CA連れ込んだり……逆に連れ込まれたり」
 ひやりと理性が戻って、勇利はぐっと身体を強張らせた。図らずもヴィクトルの人差し指を締め付けてしまって、あえかな声が漏れてしまう。それにも怯まず睨み付けると、ヴィクトルはぱち、と瞬きをした。
「なに、どうした」
「なに、その見てきたような言い方……」
 まるで当事者だったような物言いだ。勇利の嫉妬に気づいて、幸せそうな笑顔が広がる。むかつく。
「だって、連れ込まれそうになったことあるもん。逆はないけど……あ、もちろん、連れ込まれたりなんかしてないよ。俺、そういうワンナイトラブって滅多になかったし。飛行機の上なんて、ただでさえ不安定なのに、セックスなんて無茶だと思わない?」
 くる、くる、勇利のお尻をヴィクトルがいじる。会陰を押されて、反射でつま先がぴくりと上がる。ブースの壁を蹴るのをぎりぎりで堪えた。にこにこと笑うヴィクトルの顔が、恨めしい。涙目のまま睨みつけると、ヴィクトルはでもね、と続けた。
「今、すっごくしたいな、その無茶……ファーストとった甲斐があるよね、今は夜中で、みんな寝ていて……シャワーブースは少し離れてて、防音加工がしてあって、水が流れても音が漏れないようになってる……ユウリと、飛行機の中で、やらしい……」
 セックス。耳元で告げられて、ぶわりと身体が熱に飲まれた。きゅ、と後腔がしまって、ヴィクトルの指の、ふしまで感じる。
「したくない?」
「ぁ……」
「俺はしたいなぁ……ユウリに俺の、しゃぶってほしい……ユウリにやらしい言葉、たくさん言わせる……突いて、ヴィクトル、奥、出して、中に、って……いやらしいコト一杯いわせて……」
「ぁっ、はぁ、」
 言いたい。言わされたい。
「ユウリ……」
 氷の上から降りたとたん、勇利がどれだけ、ヴィクトルなしではいられなかったのか、見せつけたい。
「シャワーブース、いく?」

 ────はやく。















「CAにベッドメイクしてもらおう」
 勇利の、まだ少し湿ったままの髪の毛をさらりと撫でて、ヴィクトルはパネルに手を伸ばした。
「いい、僕椅子のままで寝るから……」
「ダメだよ、なんのためにファーストとったと思ってるの」
 疲れでくったりとした勇利を抱え直し、アテンダントを呼び出すボタンを押す。ファーストクラス専任のアテンダントが幾人かいるから、すぐに来るだろう。さすがに夜も半ばの今、ファーストにのっている富豪たち全員も寝静まっている。
「それに」
 目尻を和らげたヴィクトルが、そっと勇利の下唇を食んだ。
「ん」
「無理させちゃったから、ね」
 ぱちんとチャーミングにウィンクをされると、勇利の?がほんのり染まる。素早く、ほんの一瞬、熱い舌を口内に差し込まれる。ほんの10分前まで味わっていた、むせ返るような性の匂いはない。シンプルに気持ちが良くて、うっとりと目を閉じて堪能する前に、すっと出ていかれる。名残惜しくて目を開くと、見えた人影に体がビクついた。
「っ……」
 音もなくすっと現れた美しい女性に、勇利は息をのむ。制服をきっちりと着こなし、会社のイメージカラーの真っ赤なリップをつけたキャビンアテンダント。広くも狭い席で、抱き合うようにして座っている成人男性二人に、何の動揺も見せず微笑みかける姿勢はプロそのものなのだろう。いっそびっくりした顔で現れてくれた方が勇利は嬉しかった。それならきっと、すいませんね、この人が、別に僕だって好きでこんな体勢じゃないんですよ? なんて顔を作る努力ができたはずだ。身を強張らせる勇利をぎゅっと抱きしめて、ヴィクトルは彼の言葉を待つアテンダントに口を開いた。
「彼の席、ベッドメイクしてあげて。携帯とかは全部ボックスに納めてくれる? 冷たいのは苦手だから、リネンはシルク以外のものにしてくれ」
「かしこまりました」
「あと、ミルクティーを二つホットで持って来て」
 美しい姿勢で頭をさげて、彼女は去っていく。

 この会社のファーストクラスは、シートを完全にフラットに倒し、マットレスやシーツ、枕をセットして完全なベッドにしてくれる。シートはぐるりと仕切られているから、ドアを閉めてしまえば四方を閉じられたプライベートなスペースにできるのだ。お金に余裕がある人はこんな風に旅行をするのだと勇利は知った。エコノミーを降りた後の凝り固まった体をほぐすなんて、旅の醍醐味でもなんでもないのだ。いかにストレスなく旅行先にたどり着けるか、がセレブの常識であるらしい。この間知った……知ってしまったヴィクトルの年収総額を見て、勇利は文字通り飛び上がった。どうりであれだけ豪遊できるはずだ。ヴィクトルのスポーツ選手としての実績、モデルやCMなど広告塔としての仕事、そういったものの掛け算で膨れ上がっていくのだろう。サッカー選手やF1レーサーと比べると少ないが、世界的にフィギュアスケートがそこまでメジャーではないことをふまえると、ヴィクトルが文字通り雲の上の人間であることは間違いない。勇利だって億くらいすぐだよ、という発言にはその広いおでこを叩きたくなった。
 アテンダントがミルクティーを持ってきてくれるまで、何もする気になれなくて、勇利はただもじもじとヴィクトルに密着したまま所在無く座っていた。それに気づいたヴィクトルが、そっとヘッドフォンをつけてくれる。次いで流れてきた音につられて大きな画面をみれば、勇利も好きな映画が流れ出した。サンタ一家のクリスマスの映画で、こんな風にプレゼントが届けられていたらカッコ良くてワクワクするな、と冒頭から引き込まれたのを覚えている。スパイが全く隠密できていなかったり、やたらと爆発物が多用されるようなジャンルの映画を好む勇利は、このシーンで一気に引き込まれた。いかにも子供向けのアニメーションの絵柄に、はじめ観るのを渋った勇利を説き伏せたピチットに感謝したくらいには、面白い。
「さっきこれ観てたの?」
「うん。知ってる?」
「僕、これ好きだよ」
「俺もすき! ワクワクするよね、俺の子供のころはさすがにこんなテクノロジーはなかった筈だから、魔法の粉を使ったのかな?」
「そうかも……ユリオかもっと下の歳の子じゃないと、これは無理なんじゃない?」
 クスクスと笑い出す勇利に気を良くして、ヴィクトルが勇利の?にちゅ、と吸い付く。くったりと体の力を抜いて、勇利は仕方ない、というていでヴィクトルの胸にもたれかかった。僕を膝に乗せないで、そう何度もお願いしているのに、競技者としての顔も復活させてしまったヴィクトルは、中々言うことを聞いてくれない。
「もう……現役復帰したんだから、体に負担かけちゃだめだよ……」
「でも勇利のコーチだもん」
「またそれ……」
 頬をくっつけあうと、体温が少しずつ溶け合っていく。勇利は右手をヴィクトルの?に滑らせると、自分の方を向かせてそっと唇を奪った。
「素敵なキスだね」
「どうしてそういう事さらっと言えちゃうの……」
 気障な台詞は、気恥ずかしいやらもどかしいやら。満更でもないことを知られてしまっているから、勇利は?を染めるだけ染めて、もう一度ゆっくりとヴィクトルに口付けた。
 今度は人の気配をきちんと感じ取れて、勇利はヴィクトルから顔を離した。先ほどと同じアテンダントが、ティーポットとカップ二つを載せた素敵なトレイを掲げ持っている。それを片手に持ち替えると、彼女はヴィクトルのブースを開き、テーブルを開いてその上にティーセットを開いて瞬く間に整えていった。いつの間にやら白いテーブルクロスまで敷かれている。勇利は、数時間前のディナーで、白いクロスの上に誂えられた真っ白なプレートと銀食器でフレンチのコース料理を食べたことを思い出した。小さなトレーの上に全てが乗っていたエコノミーとは扱いに天と地ほどの差がある。格差は暴力だ。こんな快適に過ぎる空の旅を奢られて、この先どうしろというのだろう。勇利は身の程をわきまえた庶民だと自負している。万が一この先こんな空の旅で遠征を続けていたら、金銭感覚が崩壊してしまう。
「……思うけど……ここのファーストクラス、ちょっとやばいよね?」
 手渡されたティーカップに口をつけながら、勇利は無難な切り口から入った。うう、このお茶高級な味がする。絶対茶葉から入れてるやつだ……でも美味しい、めっちゃ美味しい……。頼んでもいないのに勝手についてきた小さなマカロンやショコラに延びる手を、ヴィクトルにはたき落とされなかったのをいい事に、勇利はそれらをちょこっとつまんだ。
「ここ、石油王とかがわんさかいる国の会社だからね。この機体は違うけど、この会社、ファーストのもういっこ上のクラスがあるよ。部屋になってるやつ」
「部屋になってるやつ……」
「ソファがあって、テーブルがあって、大きいテレビとね、3人がけのソファがあって、それでそれがベッドに変身するんだよ。ベッドの横が仕切りになってて、カップルで乗った人たちが寝るときに仕切りを下ろして、一緒に寝られるようにできるんだ」
「意味わかんないよ」
 話を聞いているうちに馬鹿らしくなって、勇利はいっきにミルクティーを飲み干した。なんとなく釈然とせずに、ヴィクトルの手の中のものも奪う。ゴクゴクと飲み干すと、突然のわがままな暴挙にもにこにこ笑って、ヴィクトルは勇利の温かい身体を抱き込んだ。くったりと肩口にもたれてくれるのが嬉しいらしく、声が自然と甘さを帯びる。
「もう一杯飲む? ポットにまだ少し残ってるよ」
「……飲む」
 勇利の反抗なんて、痛くもかゆくもありません、なんて態度にふくれっ面で答えて、勇利はだまってヴィクトル・ニキフォロフという美しい男に給仕の真似事をさせた。片腕に勇利を抱いた状態では面倒なティーサーヴを、苦もなくやってのけるこの銀色の青年は、勇利の神様で、憧れの人で、尊敬すべき、目指すべき星で、道を示してくれるコーチで、安心をくれる恋人で、勇利のすべてだ。海であり星である彼の瞳を、ずっとだって眺めていられる。それくらい美しいヴィクトルは、同じような感想を勇利に抱くという。それだけで胸がいっぱいで、この倒錯的で幻惑的な空間と一時の中、素直になる以外の選択肢を、勇利の直感は切り離した。
「ヴィクトル……」
「うん?」
「触って……。僕、いますっごいドキドキしてるんだ……」
 彼の手をとり、胸に引き寄せる。首筋に脈打つものを感じ取れるくらい、勇利の心臓は高鳴っていた。
「ワーオ、本当だ……心臓発作かい?ドクターを呼ぼうか」
「茶化さないで」
 ごめんよ、とヴィクトルは勇利の?にキスを贈り、両手にティーカップを握らせた。口をつけたミルクティーは、ミルクの量も砂糖の割合も、完璧に勇利の好みだ。勇利は、ヴィクトルの好みはまだ知らない。それはこれから知っていくのだ、時間は無限に、たっぷりとある。
「このドキドキはね、ヴィクトルがはじめて長谷津に来てくれた夜と同じくらい、すごいんだよ」
「へえ?」
 面白いことを聞いたという顔で、ヴィクトルは勇利を見た。ティーカップをヴィクトルの口につけてやり、そっと傾ける。目を閉じて、ヴィクトルは黙って勇利の手ずからお茶を飲んでくれた。ヴィクトルがミルクティーに欲しいミルクと砂糖の量を、勇利は知らない。けれど彼が噎せずに、心地よい量のお茶を飲むのに必要な角度は手首が知っている。ちぐはぐで、アンバランスで、だがそれでいい。おうとつがあるのは、これからいくらでも二人が埋め合えるという証だ。
「信じられなかった……僕にとっての神様みたいな人が、いきなり僕の実家でご飯食べて、お酒飲んで、甚平着て、一緒に寝ようとか言うんだよ。僕のコーチになるっていう。ミナコ先生がね、僕があなたを引き寄せたんだって……本当に? って思った。十二のころ、あなたに恋をして、それからずっと追いかけていた人が……僕の目の前に降りてくれたんだ。ねえ、その感動がわかる?」
「わかるよ」
 頬を興奮で染めて言い募った勇利の言葉に、ヴィクトルは穏やかな笑みで同意した。彼は勇利の頬に手を滑らすと、透き通るような白さと赤味の境界線をぼかすようにそこを撫でた。
「いきなりじゃない。その半年くらい前に、僕は君に恋したんだよ。ミナコの言うとおり、お前が俺を引き寄せたんだ。ヴィクトル、皆のヴィクトルじゃなくていい、僕だけのヴィクトルになってって君が、俺の肩書きやお金や顔とは違う、俺が、俺と俺が人生を捧げてきた全てが好きだって、教えてくれたから……」
 ヴィクトルはたまらなくなって、ちゅっと音を立てて勇利とキスをした。しっとり合わせるより、可愛らしく音を立てたほうが、勇利と恋人! って気分になれるのはどうしてなんだろう、そんなことを思いながら。
「だから、わかるよ。その感動。ねえユウリ、俺を長谷津に誘ってくれてありがとう。俺にパーパとマーマと、お姉ちゃんができるなんて、ちょっと前の俺に言っても信じないだろうな」
「真利姉ちゃんって、けっこうヴィクトルのことボロクソに言うけど、あれで『まりねえ』って呼ばれるの、気に入ってるんだよ」
「んふふ、うん、知ってる。俺、『オトウトダイニゴウ』だからね」
 勇利が空のカップをテーブルに置いたのを見計らって、ぎゅっと抱きしめる。
「嬉しい。君が俺の故郷に来てくれるのが……」
 あと数時間もすれば、二人は中東の国に着く。数時間をそこで過ごし、モスクワへの乗り継ぎ便に乗り込む。一日モスクワを観光して、サンクトペテルブルクにたどり着くのだ。豪華な空の旅はヴィクトルなりの勇利へのもてなしだ。勇利がヴィクトルの故郷で始める新しい人生の始まりを、濃密で楽しいものとして記憶してくれたら何より嬉しい。

「デトロイトに行くときね……」
 ヴィクトルの銀糸を両手で掬っては落としながら、ぽつりと勇利は言葉をはじめた。
「ドキドキしてたけど、恐怖の方が強かった。ああ、とうとうここまできてしまったんだって、ただスケートが好きなだけじゃだめなところまできてしまったんだ、って思った」
 ヴィクトルの手が勇利のむき出しの足の甲を撫でた。
「僕は、負けず嫌いだったけど、あんまり競争が好きなタチじゃないから、人と比べられるのがすごく嫌だった。好きに滑ってたらノービスで一番になってて、好きに滑ってたらジュニアの日本代表ジャージを羽織ってた。先生に言われたとおりにやって、あとは好きな時間に好きなだけヴィクトルのプロの真似っこをしていただけなのに、いつの間にか、あっという間に……」
 そう昔のことではない。自分の頭に思い浮かぶ神様の滑りには程遠いのに、皆に凄い凄いと持て囃される現実との齟齬がひどくて、苦しかったのを覚えている。水面のすぐ下で泳がされているような息苦しさは、ヴィクトルに出会うまでずっと続いた。
「僕が、僕の好きなことをしているだけなのに、新聞とかで騒がれるの、すごく嫌だった……」
 勇利にとってのヴィクトルは、周りからみると強すぎる太陽だった。光が強すぎて、足元の影がどこにも伸びない。周りのものが全く見えない。違う言葉で同じようなことを沢山言われたけれど、どれも勇利の心には響かなかった。ヴィクトルという輝かしい星を目指して、何がダメなんだろう。周りにもっと目を向けろと言われたって、誰もヴィクトルほど勇利の胸を高鳴らせてなんてくれないのに。そう思うのに、同じくらい自分の想いの強さに身体が悲鳴をあげていた。頭と心が同調しない。ヴィクトルを求めてひたすらに滑っていたいと喘ぐ心の反対側で、頭が期待や国の威信なんて言葉を勝手に覚える。身体が震えて、目の前が真っ暗になり、ヴィクトルという究極形だけが見本となっているジャンプにいつまでも自信が持てないまま、国の代表としてなんども国際試合で勇利のすべてを剥き出しにされた。恥ずかしくて、惨めで、悔しくて、悲しくて、けれど神様は変わらず美しくて、勇利の目を、心を、身体を氷から離さない。昨シーズンのグランプリファイナルで、薄氷が破れて勇利は沈んだ。ブレードの跡が無数にのこる氷を下の海から見上げながら、下へ下へと溺れていって、そこを特等席として永遠に眠ってしまいたいと思うくらいには。
「ユウリ、今日から俺はお前のコーチにになる」
 その一言ですべてが変わった。太陽の眩しさにもいつしか慣れた。自分だけが立っていると思っていた周りは沢山の愛で溢れていて、愛を知り、与えられて与えることを覚えて、勇利はいま、世界で一番愛おしい人と、恥じることなくあたらしい世界に踏み出そうとしている。
「でも……僕、いますっごくワクワクしてるんだ……このドキドキは、楽しみだからなんだよ。ヴィクトルと、ずっと一緒にスケートができる……臆すことなく勝ちを目指せる。僕が金メダル取りに行くっていっても、勝生勇利には無理だ、身の程を知れとか、ヴィクトル以外にもっと目をむけろとか言われない、もう全然怖くないんだ……」
 ヴィクトルの両頬を包んで、薄桃色の唇にそっと口付ける。
「ありがとう、ヴィクトル」
 ヴィクトルは小さく溜息をつくと、何度も勇利の唇を啄ばんだ。
「……俺の王子様は、どうしてこうも卑屈なのかなぁ……少しずつ治ってきてるのは好ましいけどね」
 最後にぴったりと唇を重ねて、ヴィクトルはすこし感極まった声で、小さく喉を震わせた。
「俺も、ありがとうユウリ。ずっと俺を見ていてくれて。……しあわせにするよ」
「なにそれ」
 可笑しそうに勇利がクスクス笑う。つられて笑い、ヴィクトルは力一杯勇利を抱きしめた。柔らかい銀色を混ぜっかえすように撫でてくれる勇利の手がたまらなく気持ちいい。抱きあい、まどろみながら、ぽつりぽつりといろんな話をして、気づけば映画は「その後」というシーンにまで達していた。とある一枚絵のシーンに出てきた言葉に、勇利は一時停止ボタンをおした。
「僕……ヴィクトルとこんな風になりたい」
「どんな?」
「ここ」
 老夫婦が手を取り合い、雪の上で踊っている絵だった。下にはこう。"Mr. and Mrs. Santa take up Salsa. And shimmy the night away between silver ice and shining stars"。
 恥ずかしいのか、目線をずらし、勇利はサルサじゃなくてもいいけど、と頬を染めた。画面にうつるその一文を、ヴィクトルは何度でも読み返す。
 サンタ夫妻はサルサを習う。そして銀盤と輝く星のあいだで、一晩中踊り明かす。
 輝く星の下、氷の上で、ずっと、勇利と踊り明かす……。
「ああもう、ユウリ、かわいいなぁ」
 俺も、君と、いつまでもいつまでも踊っていたい。氷の上で、ふたりでずっと……。

「もう寝よう。送るよユウリ。すぐ隣だけどね」
 ヴィクトルは勇利の手を取って立ち上がらせると、まるでソシアルで女性をエスコートするようにブースをゆったりと迂回させた。彼のブースの扉を開いてやり、ブランケットを捲って座らせる。スリッパを脱がせて、ベッドに横たわらせた。幼い子にするようにブランケットで体を隙間なく包んでやり、最後にそっと額にキスをする。
「さあ、もうお休み。おれのかわいい王子様」
「あ」
 とろんと瞼を半分おろしていた勇利が、パッと目を開けた。ヴィクトルの耳をちょい、とつまむ。
「思い出した、話が逸れたよ。ねえヴィクトル、すっごく贅沢で僕嬉しいけど、もうファーストはいいや。これからは高くてもビジネスがいい」
 瞬きをくりかえして、ヴィクトルはようやく「ああ、」と思い至った。この会社のファーストクラスはやばいとかなんとか、つまりこれが言いたかったのか。
「うーん。わかった。でもお祝いの時はいいでしょ?」
 しばし考えるそぶりをみせてから、ヴィクトルは親にねだる子供のように頬に口付けた。
「お祝い? どんな?」
「ユウリがワールドで金メダルとった帰りとかさ」
 ね。
 勇利は大きな目をぱちぱちさせて、ゆったりと微笑んだ。これは知っている、ヴィクトルの全てを喰らおうとする、妖艶な魔性の微笑みだ。勇利は両腕をヴィクトルの首に回すと、ねっとりと音がしそうなほど濃密なキスをヴィクトルに仕掛けて、離れて、笑った。
「……そしたら、部屋になってるやつじゃなきゃヤダ」



あなたと二人、夜を踊って明かしたい


2017年3月2日(初出:2017年1月2日)